其の壱(改)
火事だ。小さな村が燃えている。
いや、火事だけではない……ようだ。
悲鳴が聞こえる。馬の蹄の音もだ。
そして弾ける金属音と怒声。
戦っているのか?
そもそも何が起きている?
近づくべきではないという本能を無視して、まだ火の手が及んでいない方面から村に近づく。
無論、誰にも見つからないように。
状況が分からないうえに、何か日本では考えられないような戦っているとしか思えない音が聞こえてくるのだ。できる限り隠密行動をすべきだ。
慎重に、村はずれの家に近づき、家の陰から村の中央を覗き見る。
そこには、まさしく戦っている男たちと、焼け出されたか、惨殺されたか分からないが、死体が多数転がっていた。
一方の男たちは、幌付きの馬車がつながれたこの村では大きめの家を背に戦っている。地上に立つ者もいれば、馬上の者もいる。およそ10人前後といったところか。
他方の男たちは、皆馬上にあって、大きめの家を包囲するかのように動きながら戦っている。こちらはずいぶん多く30人近くになろうか。村の他のところからも悲鳴が上がっていることを考えるともっといるのかもしれない。
前者は、身なりがある程度きちんとしているようだが、後者はずいぶんと身なりが汚い。というかあれはいわゆる山賊の類ではないかというような服装だ。というか山賊だろ、あれは。
なんだこれは?
映画の撮影か何かか?
俺は流されてどこかの島に建設された映画村にでも迷い込んだのか?
いや、しかしさっきの場所はどう見ても湖だった。理屈に合わない。
などと考えていると、家を背にして戦っている男たちの一人が腕を突き出したと思ったら、その腕に何か暗い光のようなものが集まって……。耳鳴りがした、と思ったら、山賊たちの数人が血を噴きながら吹き飛んだ。
なんだ?飛び道具か??
その音に反応したのか村の他のところに散っていたと思われる山賊たちの仲間が集まってきた。
山賊たちの一人も手をかざす。またも暗い光のようなものが集まっているような……。
瞬間的な爆発!
家を背にする男たちは吹き飛びこそしないもののずいぶんとダメージを受けているようだ。
山賊たちは一気にたたみかける。
槍、偃月刀が振るわれる。家を背にする男たちは信じられないほどにそれらを受け続けていたが、ついに耐えられなくなったのか、一人また一人と血を流し、倒れていく。
ついに最後の一人も力尽きた。
山賊たちは雄たけびを上げる。
そして山賊の頭と思われる男が何事か指示し、山賊の何人かが倒れた男たちが守っていたと思われる大きな家に入っていく。残りの男たちは、頭に指示されたのか、何人かずつで村の各所に散っていく。
しまった。と、思ってももう遅い。
数人の山賊たちに見つかってしまった。
今にして思うと、頭は生き残りがいないか確かめてこいとかそんなことを指示したに違いない。
馬で俺の退路に回り込みながら、一人は大声で仲間を呼び集めている、ようだ。
というのは、俺はこいつらの言葉がなぜかわからない。
「#$%%&+*‘&”%$!”$$%&」
何を言っている?目の前の男が俺を指差して、何か言っている。
隣の男もそれに何か答えているが、さっぱりわからない。
どうなっている?ここはどこで、こいつらは何人なんだ?
アジアの言語のようでもないし、欧州の言語とも思えない。
俺はどこに来てしまったんだ?
などと思っているうちに、山賊の仲間は集まってくる。
どうにか逃げられないかと俺は周囲を抜け目なく見ていたが、馬の脚からは逃げられそうにない。
頭がやってきた。俺を見て、何か一言。
「#$%&’’」
「おい、何を言って……」
と、俺の背後に気配。いや、殺気。
思考する間もなく、横に跳ぶ。
案の定、俺のいた場所に槍が刺さる。
頭は「殺れ」とでも言ったに違いない。
さっと血が冷たくなった気がした。本気で殺す気だ。
ふざけるな。ふざけるなよ!
ただで死んでたまるか。
殺られるくらいなら殺ってやる!
俺は横に跳んだ勢いを緩めず、さらに一歩、二歩。
横にいた男が乗る馬の顔に右手で一撃。
馬が暴れ、男は偃月刀を取り落す。
よし!俺は偃月刀を拾い、暴れる馬の脚に切りつける。馬は倒れ、馬上の男が振り落され、その男の首には俺の振るった偃月刀が刺さっていた。
素早く偃月刀を引き抜き、周りを見る。山賊たちは、反応が鈍いのか、唖然としているのか、この光景を見たままほとんど動きがない。
先手必勝。目の前にいた男に襲いかかる。山賊たちは皆馬上にいるため、跳びあがらないと胴体にも届かない。一気に走り寄って、跳びあがり、男の太腿を足場に首に斬りつける。
驚くほど軽く跳べた。偃月刀が軽い。
身体が軽い。世界が遅く見える。
山賊たちがやっと立ち直ったかのように反応を見せる。
遅い。既に横移動し、二人目に狙いを定めている。
今度はただ単に跳びあがり、回転を加えつつ首に斬りつける。
噴き出す血しぶき。
と、何かが集まるような嫌な気配。
アレか!?
可能な限り回避。主が死んだばかりの馬を盾にしつつ、横に回避する。
馬の胴あたりで何かが爆ぜる!
あれは危険だ。何かは分からないが、爆発するようだ。
優先的に爆発を起こす奴を殺らなければ殺られる。
敵の動きは遅い。これならいける!
素早く接近、馬に斬りつける、奴らの脚に斬りつける、跳び上がって首に斬りつける、等々攻撃パターンを使い分けながら、一人一人殺る。
瞬く間に屍をさらす山賊たち。
未だに言葉は分からないが、逃げ出すつもりはないようだ。
ふん、好都合だ。復讐の憂いがなくなる。
しかし、どういうことだ?身体が軽いのみならず、敵の動きが遅すぎる。
まあ、おかげで助かったわけだが。
まずは、こいつらを皆殺しだ。
と思ったら、あと一人か。
どうやら頭らしい男だ。
さあ、最後の一騎討ちといこうか!
頭がこちらに向き直り、俺が偃月刀を振り上げようとしたとき、頭の腕に何かが集まる。
もはや条件反射で回避。
回避に遅れて左後方で爆発!
回避と同時に踏み込み、跳び上がり一気に首を狙う。
奴の偃月刀のガードは……、間に合わない!奴の首に深々と偃月刀が刺さる。
勝負ありだ。
皆殺し。
俺がやったことだ。
なぜだか、何の感慨もわいてこない。
勝利の高揚も、殺人の後悔も。
ここは何かが違う。
今までとは何かが違う。
おそらく……、何もかもが。
異世界、なのだろうか。
ここには自由がある。
弱肉強食だ。強い者が生き残る。
前の世界ではありえないことだろう。
この現実を、ありのまま、受け入れよう。
そう思うと冷静になったような気がした。
何だかんだと言っても、突然の出来事の連続に気が動転していた部分があったのだろう。
さて、ここは異世界だ。
という前提で考えるか。まだ仮定ではあるが、そのほうが今のところ理解しやすい。
すんなりそういう仮定が出てきたのは、最近ネットで、異世界転生ものとかいうジャンルの小説を読み漁っていたからかもしれない。
深層心理では、何もかも捨てて異世界に行ってしまいたいと思っていたのかもしれない。
今となってはどうでもいいことだ。実際来てしまっているのかもしれないからな。
ここが異世界だとすると、俺はこの世界のことを全く知らない。
さっきの山賊たちの言葉が分からなかったことから、おそらく言葉も全く通じないだろう。
ネットの小説では、だいたいみんななぜか通じてたぞ。くそっ。
そう簡単にはいかねーか。
とにかく情報、あと金か。
幸い、村は全滅してるようだ。
言葉通り火事場泥棒でもするか。
まずは、あの幌付き馬車がつながれた大きめの家からだな。ちょうど村の中央近くにある。
思うに、あの家を背にして戦ってた男たちは傭兵とかそういう類なのかもしれない。
山賊たちも村の外周にある家には火をつけてるが、内側の方の家にはほとんど火をつけていない。
もしかしたら、山賊たちは最初からあの家を狙っていたのかもしれないな。
家に近づいていく。
傭兵っぽい男たちは見るも無残な姿で死んでいる。
あわれ。しかし弱肉強食。死ぬくらいなら逃げればいいのだ。
さて、家の中には何があるのか。
……。
そこには一人の女の子がいた。
平成24年1月8日一部修正。
平成24年6月3日さらに一部修正。




