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三十五センチ下の○○点  作者: 白い黒猫
三十五センチ下の発火点
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疑問点

挿絵(By みてみん)


 通じなかったギャグを説明するのと、伝わってなかったと思われる告白を確認し言い直すのは、どちらが恥ずかしいのだろうか?

「私のお土産の感想が、喰う気ないって、チョットひどくない?」

 月見里さんは子供っぽく、唇を突き出して怒った表情をしている。まあ、怒っているというよりムクれているというのが正しい表現か。月見里さんはキレて怒るってことは殆どない。

 彼女が甥っ子と行った宇宙科学博物館のお土産である宇宙食についての会話をしていた。正直いって、パッサパッサのスナックみたいな感じで美味しいというわけではなかった。不味いというわけではないけど。

「だから、宇宙食だけに、空気ない味って……だから『空気』がないって」

 『ああ』と小さく言う月見里さん、ようやく通じたようだけど、ギャグって丁寧に説明すればするほど面白くなくなるものだ。

「分かりにくい~」

 月見里さんは大げさに溜息をつく。


 俺はこの月見里さんに、夏の花火大会で告白して、彼女もそれを笑顔で答えて晴れて恋人同士になった。それから一ヶ月程たったけど喧嘩なんて一切なく、仲良く平和に付き合っている。でも、なんなのだろうか? この二人の妙な平和すぎる状況は。平和なのはいいけど、恋人同士になったなら、もっとホラ、色々あってもいいと思うのだけど。なんとも穏やかで、昭和初期か? という感じの清らかな関係を続けている。


 彼女には門限があるので、仕事ならともかく遊びで十一時超えると親がいい顔しないという事もあり、泊まりなんて真似はもっての他というのもあるけれど、キスくらいはしてもいいと思う。しかしそれすら出来てない状況。


 この身長差だと、自然な流れでというのがチョット難しい。それに彼女からそういったアプローチが一切ないというのはどういう事なんだろうか?


 そこで疑念が沸いてくる。もしかして俺の告白は通じていなかった? 

「こんどはどこぞの、空気の缶詰でも買ってくるよ、それなら喰う気もわくでしょ?」 

 身体を寄せて横腹をツンツンしながらコチラを見上げる月見里さんの様子を見下ろす。いや、普通単なる友達に対しては親密すぎるスキンシップでしょうコレは。


 もしかして月見里さんはバージンでそういった事に奥手だとか? いや彼氏は今までいたみたいだし、そういったシーンのある映画のコメントからして、バージンではありえないドキツイ事言ってくる事がある。

 となると、通じていなかった? でもソレを確認するのって凄い恥ずかしい。

『俺達って、今つきあっているよね?』

『俺の事、ちゃんと彼氏と思ってくれている?』

 何て聞けばいい? もし通じていてそのつもりだったら、こっちが下心いっぱいでガッツいているようではないか。

『え! そういうつもりだったの? 分かりにくい~』

 という感じで、驚かれても困る。


 ――とりあえず焦らず、落ち着こう。月見里さんという女性をジックリ観察しその本心を探らねば。


 毎週、デートまがいの外出を俺としているということは、彼女の中で一番俺が近しい男性であることは間違いないだろうから……多分。


 そんな事をコチラが悩んでいるなんて気付いてもいない月見里さんは、メールが届いたらしい携帯をチェックしている。 

「来週の土曜日、映画ブロガーのオフ会に誘われたんだけど、一緒くる?」

 俺はその誘いをどうするべきか悩む。ブログもなくオンでつながってもいない俺が、いきなりオフでつながっていいものなのか?

「大丈夫なの? 俺いっても」

 月見里さんはニコっと笑う。

「単なる、映画好きの集まりだから! 他の人も恋人とかも平気で連れてきているし」

「じゃあ、行こうかな」

 そう答えながら、月見里さんの言葉を、どう解釈すれば良いのか悩んでいた。


 ※   ※   ※


 オフ会は、居酒屋の個室において行われた。もともとネットでそういった交流を楽しむ方ではなかったので、初めてのオフ会はいろんな意味で新鮮だった。月見里さんは『月』というあだ名っぽいハンドルネームだからまだよいが、ポックリさんとか、猫大王とか、恥ずかしい名前の人もいて、呼ぶのにチョット照れを感じるのは俺だけだったようだ。

「私のブログにも『太陽』さんの名前できてくれている人です」

 彼女は俺をそうやって紹介する。俺は自分の名前をちょっともじって『太陽』にしたのだが、皆は『月』という女性に、『太陽』と名乗る仲良い知り合い、という事でなんともニヤニヤした笑顔を返してくる。

「仲いいんだね~ 今日もデートしてきたとか?」

 猫大王さんの言葉に、月見里さんは、ニッコリ笑い頷く。肯定したということは、やはり認識されていた? 俺はチョット気分を良くする。

「いいな~なかなか趣味の合う人って見つからないんだよね。それで彼女に引かれてふられたり」

 ノアールさんが羨ましいようにつぶやく。

「いやいや、映画好きなのは同じなんですが、映画の趣味は合わないんですよ、この人とは。微妙にジャンルが違うんですよ」

 月見里さんはそう、返す。

「でも、一緒に映画楽しめているんでしょ?」

 その言葉に「うーん」と悩んだ声をあげ、その後ニッコリ笑う。

「だから、一緒に楽しめる映画は太陽さんと楽しんで、単館系は別の人って感じですよ」

「月ちゃん、浮気は駄目だよ~」

 猫大王さんの言葉に皆が大笑いする。

 えっと……どういう事、ソレって? なんとなく、先日女友達と映画行く際にも、『デート』といった言葉をいってきた事を思い出す。

 とりあえず、分からない事を考えるのを止めて、その場を楽しむことにした。確かに映画好きでワイワイ語り合うのは面白かったし、そうやって友達に紹介してくれたと言うことを、前向きに考える事にした。

「今日は、大陽くんもいたから、スッゴク楽しかった」

 別れ際の彼女の言葉で、今日は満足するとしよう。

多分、彼女には告白は通じていると思うことにした。

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