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三十五センチ下の○○点  作者: 白い黒猫
三十五センチ下の沸騰点
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臨界点

 夏の太陽は容赦ない。その光は肌当たるというより突き刺さるくらいの勢いで襲いかかってくる。そんな夏の炎天下、俺は河原にレジャーシートを広げる。

 月見里さんと手分けして、四隅をシート用の杭をうち地面に固定していく。


 普通にアスファルトの上を歩くよりかはましなものの、涼感なんて言えず、ゆるい灼熱地獄である。

 何故そんなところにいるかというと、今日はこの河原で花火大会が開催されるからである。


 早くも屋台等の準備もすすめられ、お祭りムードが漂っている。

 俺は百均一で買ったブルーのレジャーシートに『大』の字をガムテープで記して領有権を主張しておく。しかし、『コレだけで陣地主張になるの?』と月見里さんが心配するので、隣に『月』という文字も入れておいた。流石に『陽』の字をガムテープで表現するのは面倒だったので。


 気がつけば会うのも一月ぶりになった、月見里さんはチョッピリ日焼けしていて、ますます元気そうに見えた。

 花火大会だけど、月見里さんは浴衣ってこともなくエスニックな大胆な花柄のワンピースにツバの広めな帽子をかぶっている。いわゆるリゾートファッションというのだろうか? 女の子って髪型と服装で本当に雰囲気が変わる。パンツルックだと元気キャラに見えるのに、こういう格好すると少しお淑やかに見えるから不思議である。また月見里さんは脳天気なようで神経質、大らかなようでシビア、大雑把なようで意外と細かい所もあるといった感じで多様な面をもつ。だからだろうか、様々格好をしてきているけれど、どんな格好していても月見里さんらしいと思える。


 一旦二人でシートに落ち着く。月見里さんはバックから日焼け留めクリームを出しセッセと腕に塗っている。流石に二十代半ばとなるとお肌の曲がり角と言うことで紫外線が怖いらしい。スラリと細い腕が、太陽の下だとなんとも眩しい。先々週、日に焼けてしまったと嘆いていたけれど、言うほど真っ黒になったわけでもなく、寧ろ夏ならコレくらいの色の方が健康的で自然では? とも思う。けれど、彼女曰く、『これくらい大丈夫かな? と油断して過ごすと真っ黒になってしまうから、気が付いたときにケアはしておいたほうが良い』らしい。

 ニヤニヤしてみている俺の視線が気になったのか、月見里さんが顔を上げる。

「大陽くんもつけた方がいいよ! ドカタ焼けは恥ずかしいよ~」

「めんどくさいからいいよ」

 そういう俺にニヤリと笑う。日焼け止めをたらした手で俺の腕にビシャっと触る。

「つけちゃった!」

「うわっ! ベタベタ~」

「お肌の曲がり角なんだからケアしなきゃ!」

 文句言う俺の腕についたクリームを、笑いながらのばしてくれる彼女。月見里さんの指が俺の腕をすべる感触がなんともくすぐったいというか、何というか……。

 周りにいるイチャイチャしているカップルの男性と同じような締まりのない顔を自分がしているのもうっすら認識はしている。三月に会ったときよりも、長くなった彼女の髪が風で揺れている。なんか良い香りが俺の鼻腔を擽った。

 暑いというか、なんか熱い。

「あのさ、場所もとったし、クーラー効いたところに避難しない?」

 俺の提案に、月見里さんはニッカリ笑って頷く。

 仮設トイレも多く用意された状況だとはいえ、今はまだ昼チョット過ぎ。こんな時間からここで待機するのもハッキリいって馬鹿である。

 決まったとなったら、すぐにでもこんな暑い所から逃げたい。

 二人で連れ立って二子橋を渡り、高島屋へ逃げ込む。流石デパートだけあって、冷房が心地よく効いた空間が、熱さで半分溶けかかっていた身体を引き締める。

「なんか、生き返るね~! この上で何か食べる?」

 月見里さんは帽子を脱ぎながら晴れやかに笑う。

 二人でのんびりとエスカレーターで上の階に上がっていく。月見里さんが上の段のエスカレーターに乗っているために、珍しく視線が合い意外に話しやすいことを発見する。

「たしか上って、人気の食べ放題のお店と、あとカレーうどんのお店とかあったよね」

「ほうほう、どちらも捨てがたい。月見里さんはどちらが良い?」

 ウーンと唇を横にキュッとひっぱるようにひき、真剣な顔で悩んでいる様子の月見里さんの様子が、なんか子供っぽくて面白い。いつもよりも顔が近いせいか表情がよく見える。それにさっきまで帽子の所為でよく月見里さんの顔が見えなかった事もあるのかも。俺はクルクル表情をかえる彼女の顔を見つめていた。

「柿安は、結構店舗によってメニューとかも違うから行ってみたいけれど、このあと色々屋台で食べること考えると、食べ放題は止めといたほうがいいのかな」

 たしかに、花火大会の会場でズラッと並んだ屋台は面白そうだった。先程はまだ開店準備中だったので冷やかせなかったけれど、粉モノ好きな俺としてはかなりそそるものが多かった。

「たしかに、お昼は控えめにしておいたほうがいいかもな」

「大陽くんは無敵な鉄の(アイアン)胃袋ストマック持っているからいいけどね~」

 からかうように、月見里さんが俺のお腹をポンポンと叩く。最近少し出てきたかもしれない。俺は恥ずかしくなって彼女の悪戯な拳をそのまま掌で包むように掴んで捕獲する。

「人のお腹を、気安く触るもんじゃありません」

 小さい子を叱るような口調で言う俺を、月見里さんはクスクスと笑いながら見返す。そして俺の手に捕まっているのに関わらず、再びお腹をポンポン攻撃しようとしてくるので、俺はますます力を込めてその手を抑える。

 エスカレーターの降り口で、その攻防は終わるものの、結局手を繋いだままレストラン街へと上っていってしまった。月見里さんは小っこいので、手も小さい、俺の拳の中にスッポリ入ってしまう程。

 月見里さんも、その手のサイズの違いが可笑しいのかソチラにチラリと視線をやりニヤニヤとする。

「あのさ、大陽くんと私が、人間図鑑に掲載されるとしたら、絶対異なる品種の人間として違うページで紹介されるよね!」

 その言葉に笑ってしまう。

「かもね、月見里さんは、ホモ・サピエンス種チンチクリン亜種とか?」

 ムッとした顔をしてジトっと睨んでくる。最近は素直に、こういった怒りの表情をハッキリ表現してくれるようになった気がする。

「なら、大陽くんは、ビックフット属ホモ・サピエンス種巨人亜種?」

 しかし、言い返してくる言葉はなんとも惚けているから、喧嘩にもならず単なる漫才なやりとりになる。

「いやいや、属からそうなると、もはや俺人間扱いになってないから!」

 俺の苦笑に、彼女は満足したように笑う。

「勝った!」

 よく分からない判定で、俺は何かの勝負に負けたらしい。


 今日は映画を観に来たわけでもないので、会話はそれぞれの日常とか興味のあることとか、何でもない普通の内容が多い。でもそんな話題でも彼女は楽しそうに聞いてくれて、俺も彼女の話を楽しんだ。会話が弾むというのは趣味思考の一致とかではないらしい。要は聞く姿勢と、相手への興味というのだろうか?

 俺たちは太陽がもう少し傾くまでの時間、デパートの中でノンビリとウィンドウショッピングをしながら涼しい時間を満喫していた。


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