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三十五センチ下の○○点  作者: 白い黒猫
三十五センチ下の沸騰点
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論点

 『男と女の間に友情はありえるか?』


 みんな気まますぎるせいか、飲み会というものが俺の職場にはあまりない。今日は珍しく別の事業所の同期の友達が来ている事で飲みにいくことになった。

 お酒を飲むと、人はどうしてこうも語りあいをしたがるものなのだろうか?


 メンバーの一人が、半年間片思いをしていた女性に告白し『友達としてしか見られない』と言われて振られたという話からそんな話題となった。

 意外にも、女性二人は『ある』と答え、男性メンバーは『ない』という意見が大半だった。

「大陽くんはどうなのよ?」

 ぼんやりとみんなの話を聞いていた俺は、正面に座っていた沢村先輩にイキナリ話を振られて悩む。

「あるんじゃない? 現に先輩と俺も男と女だけど、いわゆる下心は一切感じる事ないですから、友情関係ですよね?」

「うーん、私ら友達だったんだ、知らなかった」

 沢村先輩はカラカラ笑ってビールをあおった。ウチの職場にいる女性って、この方だけでなく皆、化粧っ気もなくどこか女らしさにかける人が多い。不規則で激務なSEという仕事をこなす内にそうなってしまうものなのだろうか?

「付き合うって事は、絶対ないから、知人か友達の二択ですよね?」

 俺の言葉に、周りの男性も納得したように頷く。恋愛対象になりえない相手とは、下心も抱きようがないというのを実感したのだろう。

 いくら、内勤仕事で出会いがないとはいえ、職場恋愛というのはキツイものがある。二年間に一組いたけど周りも気を使うし良い事はまったくない。

「でもさ、もし、その友達に彼女とかできても、普通に二人っきりで出かけたりとかできるものなのかな?」

 同僚の高橋がそんな事いってくる。

「それは、あまりやっちゃいけないでしょう、二人っきりというのは、彼女が良い気はしないだろうから」

 沢村先輩はそう言って、もう一人の女性メンバーの佐野さんと頷きあう。

「そんな事で崩れるということは、友情じゃないってことでは?」

 高橋はなぜか自慢げにそう言い放つ。


 どうでも良い事で盛り上がる飲み会の会話をぼんやり聞きながら、俺はふと月見里さんの事を頭に思い浮かべる。

 気が付けば、細かくメールのやりとりをして、なんやかんやいって良く出かけている。コレって単なる友達にしては密すぎないか?

 そもそも恋愛と友情って何が違うのか? 身体の関係があるかないかの違い?

 じゃあ、俺と月見里さんがそういう関係になることはありえるのか、ありえないのか? 

 なくは、ないかも――多分そういう良い感じの雰囲気になったら、躊躇うことなくシテしまうでしょう。月見里さんは色っぽくはないけれど、カワイイと言ったらカワイイ方だし。

 そしてもう一つの可能性も、考える。俺か月見里さんのどちらかに恋人が出来たら、この関係は終わってしまうのか? というか、今彼女は彼氏とかいるのだろうか? どう考えてもいないだろう。彼氏がいる女性にしては、休日が自由すぎる。


 ※   ※   ※


 あまり悩み続けるのは性に合わない。でもなんともモヤ~とした気持ちを抱えて週末を迎えた。

 今日もまた月見里さんと一緒に映画を観ていた。気が付けば一緒に映画を観に行くのが当たり前になっているような気がする。

「いや~ミッキー・ローク系の男性を、格好良いと思えるようになったということは、私も成長したのか、年とってきたというのか」

 豪華キャストで映像もかなり面白い、アメリカンコミック原作の作品を観終わった後、彼女は眉を寄せてそんな事をつぶやく。俺は気になっていた事を聞いてみることにした。

「そういえば、月見里さんのタイプってどんな感じなの? ジョニデとか好きだよね?」

 直球だといわれる俺も、ストレートに話を聞くなんて事は流石にしない。

「顔だけでいうと、最近はチャン・グンソクとかも好きだよ! あとキリアン・マーフィーとかの綺麗さも好きだし~」

 かなりのイケメン好きなようだ。しかもソフトで女性的なタイプが……。

「まさか、今まで付き合ってきた人も、そういったタイプなんて言わないよな」

 月身里さんは、吹き出し首を横にふる。

「いやいや、そんな事あるわけないじゃない。普通の人だったよ~でも優しくて笑顔が素敵で大好きだったの」

 目を細めて懐かしそうでいて、嬉しそうに彼氏を語る月見里さん。しかし『だった』と二度も過去形で語られるということは、やはり今彼氏はいないようだ。

「笑顔が素敵って……。よく使われるワードだけど、女性にとって男性の重要度ってソコじゃないよね」

 月見里さんは俺の言葉に『ん?』という顔をして首をかしげコチラを見る。

「確かにね、要は中身ということかな?」

 そしてニカっと脳天気に見える笑顔を見せた。

 中身か、俺はガタイがいいだけに、身は詰まっているけれどそう意味ではないだろう。

「大陽くんは、見た目から入る方?」

 その言葉に、『ウーン』と悩む。

「なんか、友達の紹介という感じが多いから」

 月見里さんはビックリしたような顔をする。

「そうなんだ。恋人いないとすごく友達紹介してくる人っているよね……」

 月見里さんは眉をよせて言い、そして大きくため息をつく。

 そう、俺の友達がそういうヤツがいる。恋愛至上主義で、恋愛していないと人生が面白くないと思っている。そして俺に彼女がいないと気づくと、それはイケナイと、自分の彼女の友達とか知り合いを紹介してくるのだ。まあそれは親切心で紹介してくるし、まあ綺麗な人も多かったので、嫌でもないから付き合ってきた。

「何かあったの?」

「最初みんなで飲みに行って、次もそうかと思って誘われていったら二人だけで……認識のズレというのかな? 私にとっては知人だったのだけど、相手の認識だともう彼女だったらしくて盛り上がっていて大変だったの」

 彼女の話を聞くと、相手は話が微妙に通じなく強引な男だったようだ。何も知らない人とつきあえないと伝えても、『付き合っているうちにわかり合えるから問題ない』と言われ、あくまでも付き合う事を前提にした言葉の数々に、関係をリセットするのにかなりの労力を必要としたようだ。結局紹介してくれた友達に間に入ってもらい、なんとか事態を収拾したようだ。

 よほど、相手は彼女が欲しくてたまらないヤツだったのだろう。で、もう紹介された段階で盛り上がって突っ走った。月見里さんは相手に対してかなり退いたのだろう。ホラー映画みてもびびりまくる所のあるくらい月見里さんは意外と気が弱いから。

「イタイ男だな、それ」

 月見里さんは困ったように笑う。

「ま、今となっては良い笑い話だね」

 過去の恋愛関係の話なんて、そういうものなのだろう。思い出となったら、ある意味笑い話にして流すしかない所がある。

「でも、逆に月見里さんは、好きになった人にガンガンとアプローチとかはしないの?」

 月見里さんは首を横にブルブルとふる。

「無理! ある日突然、恋している自分に気がついて、一人で悶々してしまう方」

「悶々ね~やらし~」

 ニヤニヤ笑いの俺を、月見里さんはキッっと睨んでくる。

「そういう意味じゃないって。男性ってすぐに、ソッチに話もっていくから」

 しまった、ソッチ方面への話は駄目だった。おかしい、映画の感想でエロな話題を言うときは大丈夫なのに、普通の会話内にはいるとプンプン怒り出す。話題が変わったら機嫌をすぐ直すレベルの怒りなので、そこまで深刻な状況でもない。だから俺はその反応をついつい楽しんでしまう。

「はいはい、男なんで。……で、今そんな感じで誰かに悶々していたりするの?」

 彼女は大げさな感じで、大きなため息をつく。こうして大げさに演技っぽい仕草をしているという事からも、月見里さんがマジに怒っている訳ではないのが分かる。

「それが、まったくいないのが問題なのよね~彼氏はともかく好きな人くらいは欲しいよね」

「別にいいんじゃない? 恋愛って義務じゃないから」

 『それもそうだね』と月見里さんはもっともだという感じで頷く。


 男と女の友情?

 それってあるでしょう、現に此所に。

 変な探り合いもなく、いい意味で気を遣わなくて気ままに無邪気に楽しめる自然な関係。

 たとえ、それはどちらかに恋人が出来たら終わってしまう関係であったとしても、今のこの二人は良い感じの友情で結ばれている。

 どういう形で終わってしまうにしても、この時の二人は最高の友達であることは、誰も否定できないと思う。

 今俺には恋人も好きな人もいない。月見里さんも同じという事は、もうしばらくこの気ままな関係を続けられる事ができそうだ。その事にホッとしていた。


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