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三十五センチ下の○○点  作者: 白い黒猫
三十五センチ下の沸騰点
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留意点

 月見里さんとの交流はその後も、同じようなペースで続くことになる。週に何通かのメールのやりとりを楽しむという感じ。彼女から映画の誘いなんてあるはずもなく、ただ互いに好きな映画の感想を語りそれにリアクションをするという状態。

 彼女がやっているという、映画ブログを覗いてみる。『月夜の映画館』という名前のブログで、ウサギのイラストがついた可愛い見た目とは裏腹にその内容はマニアックで濃い。メールでも時々感じる事があるけれど、かなり厳しい映画の見方をしてくる。文章を読んでいると実は性格はシビアで結構キツいと思える節もある。

 俺はそれなりに楽しんだ映画でも、厳しい意見を言っていてビックリ驚いたりもした。

 潔癖な所があるのか、下品・えげつないといった方向の内容は受け付けないようだ。また主人公がひたすら悲劇に見舞われ救いがない監督がサドな内容にも拒絶反応を示す。

 ありきたりなベタな展開というのも嫌いではないらしく無邪気に楽しんでいるのに、ハリウッド超大作的で大味のモノは好きではないようだ。

 こうして、俺は月見里さんのメールやブログの文章の行間から、彼女という人間を解析していく。

 彼女の怒りのツボ、感動のツボ、笑いのツボといったものが、俺とかなり違っている所が面白い。この映画のソコを面白がるんだ! とか、ソコを気にするんだと、自分との感覚の違い、他の女性とのズレを楽しんでいた。


 彼女があの状況に怒らなかったのは、彼女にとって俺が、知人程度でどうでも良い存在だったという事もあるのかもしれない。

 それを「しゃあない」と思う反面、「なんだかな」と思う自分もいる。

 そして、俺は汚名返上のため、ほとぼりが冷めたかなと思われるアレから一ヶ月、五月の中頃に月見里さんにデート? の誘いメールを送る。

『渋谷で。「SFXの全て」という展示会があるんだ! ギ…ーガーの原画とかも展示されるんだって! 実際に撮影で使われたクリーチャーも登場するらしい。コレは外せないよ! 一緒観に行かない? ブログのネタにもなりそうだし、どう?』

 この誘いに乗ってくれるのだろうか?。来てくれれば、面倒な知人だと思われていない事は判断できる。

『面白そうですね! 見てみたいです。渋谷で美味しそうなお店も探しておきます!』

 その返事と文章に、内心ホッとする自分がいた。

 別に誤解ないように言っておくけど、月見里さんに気があるというわけではない。しかし友情関係であっても片思いというのは悲しいものである。


 前日は早めにふとんに入り睡眠をタップリとった上で約束の渋谷に向かう。張り切っていたわけではないが、約束の時間よりかなり早い到着となってしまった。別に張り切ったわけではないけれど、一人暮らしの男が家にいても何かすることがあるわけではないからである。流石に待ち合わせ場所に待っているのも、時間の無駄すぎるので近くの本屋に向かう。新刊コーナーに、ジョブス関係の本を見つけ、思わず手に取り読みふけっていると、近くになんか視線を感じる。

 星のついたピンで長めの前髪を留めた小柄の女性が、こっちをキョトンと見上げている。月見里さんだけど、こうして真横にいると、俺の胸あたりまでしかない彼女はさらに小さくみえた。

 胸に大きなネコのプリントのついた細身のTシャツに、踝までのロングタイトスカートという出で立ち。一見シンプルな格好だけど、俺の背丈だと、広く開いた胸元から彼女の胸が(胸があまり大きくないから、あまり深くはないけれど)少し見える。それにそのタイトスカートのスリットが見ようによっては艶めかしい。そのスリットは、たぶん会社でも普通に女性が着ているスカートの丈くらいまでしかないのだけど、隠れていた足がチラッ、チラッと見えるというのはなかなか、男性としてはクルものがある。また月見里さんが、小さい身体のくせに元気に大股で歩く癖がある事がますます、俺にそのチラチラを意識させた。

 書店を出て、ランチを食べるお店への道のり、俺は怪しくもチラチラと月見里さんを見ていた。

「どうしたの? ニヤニヤして」

 月見里さんは、首をかしげ不思議そうにコチラを見上げてくる。俺は慌てて真顔に戻す。

「いや、ハンバーガー楽しみで。どうして、今日そのハンバーガーのお店見つけたの?」

 俺の言葉に月見里さんはキョトンとした目をして、そして笑い出す。

「大陽くんが、こないだメールで、『無性にアメリカっぽいハンバーガー食べたい』って言ってたじゃない」

 たしかに、十日程前に、食べ物の話をするついでに、そんな感じの事メールに書いたかもしれない。

「あ、それ覚えてくれていて探してくれたんだ」

 そういった気遣いに、チョット感動する。

「一緒に出かけると決まった後に、二つの言葉を検索欄にいれてググっただけどね~」

 へへへと悪戯っぽく笑う。月見里さんは、目も鼻も口もこじんまりしていて美人という訳ではないけど、この人の笑顔っていいなと思った。化粧をバッチリして別人かというほど化ける女っているけれど、一番手っ取り早く女が可愛くなるのって、笑うことなんじゃないだろうか?


 ハンバーガー屋さんでも、俺がデカすぎるタワーハンバーグを具材を落としまくりながら食べても、眉を顰めもせずに月見里さんは笑って見ていた。逆に今まで付き合っていた彼女って、なんであんなに細かい所で怒りまくったのかと不思議になる。

 月見里さんとは会話が弾み喧嘩にもならないので、楽しいまま展示会場に向かうことに。


 ややマニアックなイベントなせいか、渋谷にしては人が少ないように感じた。それだけに、展示物はジックリみることができる。

 ギーガーがデザインしたクリーチャーのデザイン画や模型は面白かった。でもソレらを小さい子供が目を輝かせているのを見て、俺は苦笑してしまう。

 隣をみると、子供と同じくらい興味津々という表情で月見里さんがエイリアンの卵を見ている。

「この映画のすごいところは、こんなビジュアルのクリーチャーを堂々と画面に登場させた所だよね~」

 月見里さんは、『ん?』とコチラを見上げる。

「いや、この形状の数々、ボカシ必要な程、変態すぎる形状でしょ」

 もしかして、気がついてなかったのか? 彼女は一旦展示物に視線をめぐらせ『はっ』とした表情になり、コチラに視線を戻し困ったようにヘラっと笑う。

「た……確かに……あまりにも堂々と出されて気がつかなかった」

 ギーガのデザインしたは、よくコレがそのまま通ったと感心するほど、卑猥な形状しまくっているのだ。ほとんどが男女の生殖器そのものという状況。まあ、この作品のコイツは、繁殖という本能で生きているところがあるから、そこからもあえてこういう形状にしたのかもしれない。

「まあ、アートとしてはソレでいいのだろうけどね~R指定のない映画にはどうかと思うよね」

 月見里さんは、再び模型に視線を戻し、しげしげと見つめている。

「エイリアンって、確か普通にTVも放映されているよね」

 その言葉に俺は頷く。たしか初めて見たのは小学校の時、TVで放映されたやつだった。そして堂々とボカシもなく卑猥なクリーチャーが大暴れしていた。

「でも、アーチストというのはそこにも美を見いだすものなのかもね~

 大陽くんはメープルソープというカメラマン知っているかな?」

 知らなかったので首を横にふる。

「その人は、カメラマンとして今までの常識をことごとく打ち破り、発想・構図の大胆さ素晴らしさから、その後のカメラマンにも大きな影響を与えた人なの」

「そうなんだ」

「でね、その人を評する言葉に『メープルソープは花を撮るように性器を撮影して、性器を撮るかのように花を撮影した』っていうのがあって、チョットそれを思い出した。

 たしかにメープルソープって『いきり立った男性器』をドアップで写した作品があるの。写っているモノも『そのもの』としか言いようのないのだけど、なんか綺麗なのよね」


 それも、アートの範疇なのか? しかもそんな写真を綺麗って……。


「物事って、何でも突き抜けちゃうと、スゴイってことなんだろうね」

 そういって月見里さんはヘラっと笑った。

「確かに、これらも異様だけど面白いもの。生命というものは元々淫靡な要素をもっていてそれが、その艶めかしさがリアルさとか説得力につながるというのもあるかもね」

 自分でうっかりふっておきながら、俺は性器という言葉を堂々と使い会話してくる彼女にドギマギしていた。

 確か月見里さんはお下劣な内容は嫌いな筈だけど、それがアートという要素が絡むと怒りのツボから外れるという事をここで学んだ。


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