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「父さんについて行く」と即答した私の真意。不倫相手と浮かれる父が、二ヶ月後に資産ゼロで土下座しに来るまで。  作者: 品川太朗


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第10話(最終話) 新しい母娘

最終話です。 嵐が去り、静けさが戻った我が家。 二人の新しい日常と、晴れやかな未来のお話です。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 父が警察に連行されてから一ヶ月が経った。


 あの日、ドアの前で騒ぎ続けた父は、近隣住民の通報によって駆けつけた警察官に引きずられていったのだ。

 「ここは俺の家だ!」と叫びながらパトカーに乗せられる姿は、あまりにも滑稽で、哀れだった。


 そして今、我が家には本来の静けさと温かさが戻っていた。


「凛、ご飯できたわよ」


「はーい」


 キッチンから漂う、出汁のいい匂い。

 テーブルには、ブリの照り焼き、筑前煮、そして炊き立ての白いご飯が並んでいる。

 あの貧相なモヤシ炒めとは大違いだ。


「いただきます」


「はい、召し上がれ」


 母と向かい合って食事をする。

 たったそれだけのことが、こんなにも幸せだなんて。


「そういえば今日、弁護士さんから連絡があったわ」


 母が煮物を箸で摘まみながら、世間話のように切り出した。


「お父さん……ううん、あの人。会社にいられなくなったみたい」


「へえ、クビ?」


「自主退職ですって。不倫の噂が広まったのと、給料の差し押さえ通知が会社に届いたから、居づらくなったんでしょうね。退職金もほとんど慰謝料と借金の返済に消えたそうよ」


 私は味噌汁を啜りながら、小さく頷いた。


 当然の報いだ。

 社会的信用も、財産も、家族も失った中年男性。再就職も厳しいだろう。彼がこれから歩むのは、孤独で険しい茨の道だ。


 でも、もう私たちには関係のない話だ。


「スッキリしたね」


「ええ、本当に」


 母は晴れやかな笑顔を見せた。

 その目尻には、以前のような疲れや悲壮感はない。


「ねえ、凛」


「ん?」


「これから、どうする? 大学も始まるし、忙しくなるわね」


「そうだね。でも、楽しみだよ。勉強したいこともあるし、バイトしてお金貯めて、二人で旅行にも行きたいし」


 私が言うと、母は嬉しそうに目を細めた。


「いいわね、旅行。温泉なんてどう? ……もう誰に遠慮する必要もないもの。私たち、自由に生きようよ」


「うん。賛成」


 自由に生きる。

 父という重石が取れた今、その言葉はとても軽く、明るく響いた。


「お母さんが幸せなら、私はそれでいいよ」


 私が微笑むと、母は少し照れくさそうに笑い、そして真剣な表情に戻った。

 箸を置き、まっすぐに私を見つめる。


「凛」


「なに?」


「この二ヶ月間……本当に、ありがとう」


 その言葉には、万感の思いが込められていた。

 娘を危険な場所に送り込み、汚れ役をさせてしまった罪悪感。そして、それ以上に深い感謝と愛情。


 私は首を横に振った。

 感謝されるようなことじゃない。

 私はただ、私の大切な日常を守りたかっただけだから。


「ううん。これくらい、当然だよ」


 私は最後の一口を頬張り、箸を置いた。


「ごちそうさまでした。……さて、洗い物しちゃおうかな」


「あら、今日は私がやるわよ」


「いいよ、二人でやれば早いでしょ?」


 私たちは顔を見合わせて笑い合った。


 リビングの窓から差し込む夕日が、私たちを優しく包み込んでいる。

 そこにはもう、不穏な影は一つもない。


 あるのは、私たちの新しい人生と、どこまでも続く穏やかな未来だけだった。


(完)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました! 無事に父と愛人を撃退し、凛と母の平穏な生活を取り戻すことができました。


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