表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

星へつづく糸

作者: ミケ

 むかし、とても小さな村に、かなたという子どもが住んでいました。

 かなたは、村の誰よりも空を見上げるのが好きでした。


 夜になると、空には大きくて立派な星がいくつも輝きます。

 けれど、かなたの目をひくのは、いつもひとつだけ──

 ほかの星よりずっと小さく、

 でもどこよりも優しく“きらきら”光る星でした。


 村の人たちは言います。


「そんな小さな星、なんの役にも立たないよ。」


 でも、かなたにはその星だけが、だれよりも静かに笑っているように見えました。

 かなたはずっと思っていました。


「すこしでも、あの星に近づけたら、なにか変われる気がする。」



 そこで、ある晩かなたは星を追いかけました。

 坂をかけあがり、丘にのぼり、

 つま先で背伸びして、手をのばしてみました。


 でも、星はあまりにも遠く、

 かなたはあまりにも小さかったのです。


 何度やっても届かなくて、とうとう涙がこぼれました。


「かなたなんかじゃ、だめなのかな……。」


 そんなときでした。

 森の奥から、月の光をあびて一本の銀色の糸が光って見えました。

 ちいさなクモが、せっせと細い糸をつむいでいたのです。


「こんな細い糸が、どうして光るの?」

 かなたがそうたずねると、クモは作業をやめて答えました。


「細いからこそ、光を通すんだよ。」


「役に立たなさそうなものほど、

 あとで、ふしぎと残るんだ。」


 かなたは思わず、空の小さな星のことを話しました。

 クモは何も言わずに、ただ優しくうなずきました。


 そよ風が吹くと、クモの糸は空へ吸いこまれるようにゆらぎました。

 その細い光を見ていると、

 小さな星の光とどこかつながっているように思えてきたのです。


 かなたは、しばらく何も言えませんでした。

 クモの糸は、切れそうなくらい細いのに、ちゃんと夜を光らせていました。



 次の夜、かなたはふたたびあの星を見あげました。

 クモの糸の下に立ち、胸の奥が震えるほど小さな声でつぶやきました。


「かなたも、いつか誰かのきらきらになれるかな……。」


 その瞬間、空の小さな星がひときわ明るく瞬きました。


 足元を見ると、草の上の露がぜんぶ光りはじめ、

 まるで宝石がこぼれたみたいに、夜が静かに輝きだしました。


 クモがそっと言いました。


「ほら。君の光も、ちゃんとあるよ。」


 かなたは胸があたたかくなるのを感じました。

 星は遠いけれど、光はたしかにかなたのそばにありました。



 それからかなたは、星には届かなくても、

 胸の中の“きらきら”を大切に生きることにしました。


 村の子どもたちに物語を話すと、

 その中のひとりが、夜空を見あげて言いました。


「ねえ、あの星、ちいさいけど、きれいだね。」


 かなたは思わず、空を見ました。

 星は、やっぱり遠くにありました。


 でも、その下で、


 いくつもの小さな声が、

 きらきら笑っていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ