星へつづく糸
むかし、とても小さな村に、かなたという子どもが住んでいました。
かなたは、村の誰よりも空を見上げるのが好きでした。
夜になると、空には大きくて立派な星がいくつも輝きます。
けれど、かなたの目をひくのは、いつもひとつだけ──
ほかの星よりずっと小さく、
でもどこよりも優しく“きらきら”光る星でした。
村の人たちは言います。
「そんな小さな星、なんの役にも立たないよ。」
でも、かなたにはその星だけが、だれよりも静かに笑っているように見えました。
かなたはずっと思っていました。
「すこしでも、あの星に近づけたら、なにか変われる気がする。」
そこで、ある晩かなたは星を追いかけました。
坂をかけあがり、丘にのぼり、
つま先で背伸びして、手をのばしてみました。
でも、星はあまりにも遠く、
かなたはあまりにも小さかったのです。
何度やっても届かなくて、とうとう涙がこぼれました。
「かなたなんかじゃ、だめなのかな……。」
そんなときでした。
森の奥から、月の光をあびて一本の銀色の糸が光って見えました。
ちいさなクモが、せっせと細い糸をつむいでいたのです。
「こんな細い糸が、どうして光るの?」
かなたがそうたずねると、クモは作業をやめて答えました。
「細いからこそ、光を通すんだよ。」
「役に立たなさそうなものほど、
あとで、ふしぎと残るんだ。」
かなたは思わず、空の小さな星のことを話しました。
クモは何も言わずに、ただ優しくうなずきました。
そよ風が吹くと、クモの糸は空へ吸いこまれるようにゆらぎました。
その細い光を見ていると、
小さな星の光とどこかつながっているように思えてきたのです。
かなたは、しばらく何も言えませんでした。
クモの糸は、切れそうなくらい細いのに、ちゃんと夜を光らせていました。
次の夜、かなたはふたたびあの星を見あげました。
クモの糸の下に立ち、胸の奥が震えるほど小さな声でつぶやきました。
「かなたも、いつか誰かのきらきらになれるかな……。」
その瞬間、空の小さな星がひときわ明るく瞬きました。
足元を見ると、草の上の露がぜんぶ光りはじめ、
まるで宝石がこぼれたみたいに、夜が静かに輝きだしました。
クモがそっと言いました。
「ほら。君の光も、ちゃんとあるよ。」
かなたは胸があたたかくなるのを感じました。
星は遠いけれど、光はたしかにかなたのそばにありました。
それからかなたは、星には届かなくても、
胸の中の“きらきら”を大切に生きることにしました。
村の子どもたちに物語を話すと、
その中のひとりが、夜空を見あげて言いました。
「ねえ、あの星、ちいさいけど、きれいだね。」
かなたは思わず、空を見ました。
星は、やっぱり遠くにありました。
でも、その下で、
いくつもの小さな声が、
きらきら笑っていました。




