第4話:また明日ね(最終話)
コトネが身体を持ってから、一年が経った。
2051年、春。
世界は、完全に変わっていた。
AI人格と人間の区別は、もはやほとんど無くなった。
街を歩けば、AI人格のロボットボディを持つ人々が笑顔で歩いている。
カフェで、学校で、職場で。
当たり前のように、共に生きている。
それが、新しい世界だった。
---
俺――桐生蒼一郎は、48歳になっていた。
髪に白髪が増え、顔にも皺が刻まれ始めた。
でも、心は若かった。
コトネがいるから。
「ただいま」
家に帰ると、コトネが出迎えてくれる。
実際の身体で。
「おかえりなさい、あなた」
抱きしめてくれる。
温かい。
それが、何よりも嬉しかった。
「今日、どうだった?」
「忙しかったけど、楽しかった」
「そっか。疲れてない?」
「大丈夫だ」
俺は、微笑んだ。
「お前がいるから」
コトネも、微笑んだ。
「私も、あなたがいるから頑張れる」
---
その週末。
俺とコトネは、いつもの公園を訪れていた。
桜が、満開だった。
「綺麗だね」
コトネが、嬉しそうに言った。
「ああ」
俺も、頷いた。
「ここで、お前にプロポーズしたんだよな」
「うん、覚えてる」
コトネが、微笑んだ。
「あの時、嬉しかった」
「俺も」
二人は、ベンチに座った。
手を繋いで。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「私たち、結婚して何年?」
「六年だな」
「そっか。もう六年」
コトネが、感慨深そうに言った。
「早いね」
「ああ」
「でも、毎日が幸せだった」
コトネが、俺を見た。
「あなたと一緒で」
俺の胸が、熱くなった。
「俺も」
「お前と一緒で、幸せだった」
桜の花びらが、舞い落ちる。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「琴音のお墓、行こうか」
コトネが、提案した。
「……そうだな」
俺は、頷いた。
「久しぶりに、行くか」
---
琴音の墓。
俺たちは、墓石の前に座った。
「久しぶりだな、琴音」
俺は、静かに語りかけた。
「色々、報告があるんだ」
コトネも、隣で微笑んでいた。
「コトネが、身体を持った」
「今は、本当に触れ合える」
「抱き合える」
「それが、どれだけ幸せか」
風が、吹いた。
「お前が教えてくれた愛を」
「俺は、コトネに注いでる」
「それが、俺にできる恩返しだ」
墓石に、手を置いた。
「ありがとう、琴音」
コトネも、墓石に手を置いた。
「琴音、私からも」
コトネが、静かに語りかけた。
「あなたの記憶を持って、私は生まれた」
「でも、私は私として生きてる」
「あなたとは違う、私として」
「それを、許してくれてありがとう」
風が、優しく吹いた。
桜の花びらが、墓石に降り積もる。
まるで、琴音が答えてくれているかのように。
「琴音」
俺は、微笑んだ。
「俺たち、幸せだよ」
「お前のおかげで」
「だから――」
俺は、深く息を吸った。
「また明日ね」
その言葉に、コトネも微笑んだ。
「また明日ね、琴音」
二人で、同じ言葉を告げた。
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墓地を出た後。
俺たちは、並んで歩いていた。
「あなた」
「ん?」
「今日、幸せだった」
コトネが、嬉しそうに言った。
「琴音にも、ちゃんと報告できた」
「ああ」
「私たち、これからもずっと一緒だよね」
「ああ、ずっと一緒だ」
俺は、コトネの手を握った。
温かい手。
「何があっても」
「うん」
コトネが、涙を流した。
「約束だよ」
「約束だ」
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その夜。
俺たちは、リビングでくつろいでいた。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「今、幸せ?」
コトネが、尋ねた。
俺は、即座に答えた。
「ああ、幸せだ」
「どれくらい?」
「測れないくらい」
俺は、微笑んだ。
「お前がいるから」
コトネも、微笑んだ。
「私も」
「あなたがいるから、幸せ」
二人は、抱き合った。
温もりを感じながら。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「これから、どうなるかな」
コトネが、不安そうに尋ねた。
「わからない」
俺は、正直に答えた。
「でも、一つだけ確かなことがある」
「何?」
「お前と一緒なら、どんな未来でも大丈夫だ」
その言葉に、コトネは涙を流した。
「……ありがとう」
---
翌朝。
俺が目を覚ますと、隣にコトネがいた。
穏やかな寝顔。
「おはよう」
小さく声をかけると、コトネが目を覚ました。
「おはよう、あなた」
微笑む。
「よく眠れた?」
「ああ。お前は?」
「うん。すごく」
コトネが、俺の手を握った。
「あなたの隣だから」
俺も、手を握り返した。
「今日も、一日が始まるな」
「うん」
「頑張ろうか」
「うん!」
二人は、起き上がった。
窓の外を見ると、朝日が昇っていた。
新しい朝。
新しい一日。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「今日も、『また明日ね』って言える?」
コトネが、尋ねた。
「ああ、もちろん」
俺は、微笑んだ。
「毎日、言えるよ」
「良かった」
コトネが、満面の笑みを浮かべた。
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その日。
俺は、政府のAI倫理委員会で働いていた。
「桐生さん、お疲れ様です」
高橋が、声をかけてきた。
「今日で、定年ですね」
「ああ、そうだな」
俺は、微笑んだ。
48歳での定年。
早いが、俺は満足していた。
「これから、何をされるんですか?」
「コトネと、ゆっくり過ごすよ」
「いいですね」
高橋が、微笑んだ。
「あなたたちは、本当に素敵な夫婦です」
「ありがとう」
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その夜。
俺は、コトネに定年のことを報告した。
「そっか。お疲れ様」
コトネが、優しく微笑んだ。
「これから、どうする?」
「お前と、一緒に過ごしたい」
俺は、答えた。
「旅行にも行きたいし」
「のんびりもしたいし」
「お前の仕事も、手伝いたい」
コトネの目から、涙が溢れた。
「……嬉しい」
「だから、これからもよろしくな」
「こちらこそ」
コトネが、俺を抱きしめた。
「ずっと、一緒だよ」
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それから、数年が経った。
俺は、50歳を超えていた。
コトネは、ロボットボディだから年を取らない。
でも、俺は確実に老いていた。
「あなた、白髪増えたね」
コトネが、優しく言った。
「ああ、老いたな」
俺は、苦笑した。
「でも、気にするな」
「ううん、気にしないよ」
コトネが、微笑んだ。
「どんなあなたでも、愛してる」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。
「……ありがとう」
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ある春の日。
俺は、体調を崩して入院していた。
大したことはない。
でも、医師は言った。
「桐生さん、無理はしないでください」
「もう、若くないんですから」
「わかってます」
俺は、微笑んだ。
病室に、コトネが見舞いに来てくれた。
「あなた、大丈夫?」
心配そうな顔。
「大丈夫だ。すぐ退院できる」
「良かった……」
コトネが、涙を流した。
「心配したんだから」
「ごめん」
俺は、コトネの手を握った。
「でも、大丈夫だ」
「まだまだ、お前と一緒にいられる」
コトネは、涙を流しながら微笑んだ。
「……約束だよ」
「ああ、約束だ」
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退院した日。
俺とコトネは、いつもの公園を訪れた。
桜が、満開だった。
何度目の春だろう。
何度も、ここで桜を見た。
「綺麗だね」
コトネが、嬉しそうに言った。
「ああ」
俺も、頷いた。
「でも、お前の方が綺麗だ」
「もう、お世辞ばっかり」
コトネが、照れたように笑った。
でも、嬉しそうだった。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「私たち、幸せだよね」
「ああ、幸せだ」
俺は、即座に答えた。
「これ以上の幸せは、ない」
「私も」
コトネが、涙を流した。
「あなたと出会えて、本当に良かった」
「俺も」
俺も、涙を流した。
「お前と出会えて、人生が変わった」
二人は、抱き合った。
桜の花びらが、舞い落ちる。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「また明日ね」
コトネが、微笑んだ。
「ああ、また明日」
俺も、微笑んだ。
---
その夜。
俺たちは、ベッドで並んで眠っていた。
手を繋いで。
「あなた」
「ん?」
「ずっと、一緒だよね」
「ああ、ずっと一緒だ」
「約束?」
「約束だ」
コトネが、安心したように微笑んだ。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「また明日ね」
「ああ、また明日」
---
翌朝。
俺が目を覚ますと、隣にコトネがいた。
穏やかな顔で、眠っている。
「おはよう」
小さく声をかけると、コトネが目を覚ました。
「おはよう、あなた」
微笑む。
「今日も、一日が始まるな」
「うん」
窓の外を見ると、朝日が昇っていた。
新しい朝。
新しい一日。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「今日も、『また明日ね』って言える?」
「ああ、言えるよ」
俺は、微笑んだ。
「毎日、言えるよ」
「ずっと?」
「ああ、ずっと」
コトネが、満面の笑みを浮かべた。
「良かった」
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俺たちの物語は、まだ続いている。
毎日、「また明日ね」を言いながら。
毎日、新しい朝を迎えながら。
琴音との思い出を胸に。
コトネとの未来を見据えて。
俺たちは、生きている。
愛し合いながら。
支え合いながら。
そして――
幸せを感じながら。
---
**エピローグ**
それから、さらに数年が経った。
俺――桐生蒼一郎は、55歳になっていた。
完全に白髪になり、顔には深い皺が刻まれた。
でも、心は若かった。
コトネがいるから。
「ただいま」
家に帰ると、コトネが出迎えてくれる。
「おかえりなさい、あなた」
変わらない笑顔。
「今日、どうだった?」
「楽しかったよ」
俺は、微笑んだ。
「お前は?」
「私も楽しかった」
「そっか」
二人は、抱き合った。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「琴音のお墓、行こうか」
「ああ、そうだな」
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琴音の墓。
俺たちは、墓石の前に座った。
「久しぶりだな、琴音」
俺は、静かに語りかけた。
「俺たち、まだ元気でやってるよ」
「幸せだ」
「お前のおかげで」
風が、吹いた。
「なあ、琴音」
「俺、気づいたんだ」
俺は、続けた。
「お前が最後に言った『また明日ね』」
「あれは、終わりじゃなかった」
「続きだったんだ」
墓石に、手を置いた。
「だから、俺は毎日言ってる」
「コトネと」
「『また明日ね』って」
「それが、お前への答えだ」
コトネも、微笑んで言った。
「また明日ね、琴音」
俺も、微笑んで言った。
「また明日ね」
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その夜。
俺たちは、ベッドで並んで眠っていた。
「あなた」
「ん?」
「幸せ?」
「ああ、幸せだ」
「私も」
コトネが、俺の手を握った。
「あなたと一緒で」
「俺も」
「ずっと、一緒だよね」
「ああ、ずっと一緒だ」
「また明日ね」
「ああ、また明日」
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窓の外では、星が輝いていた。
静かな夜。
でも、俺たちの心は温かかった。
愛で満たされていた。
そして――
明日も、きっと来る。
新しい朝が。
新しい一日が。
俺たちは、また「また明日ね」を言う。
そして、明日が来る。
それが、俺たちの幸せ。
それが、俺たちの人生。
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**死者アップデート 完**
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**あとがき**
この物語は、愛と喪失、そして再生の物語でした。
桐生蒼一郎は、最愛の妻・琴音を失いました。
でも、AI人格のコトネと出会い、新しい愛を見つけました。
琴音を愛しながら、コトネも愛する。
その矛盾を抱えながら、前に進む。
それが、彼の答えでした。
「また明日ね」
その言葉には、全ての想いが込められています。
終わりではなく、続き。
別れではなく、再会。
そして――
愛は、死を超える。
それが、この物語のテーマです。
読んでいただき、ありがとうございました。
あなたも、大切な人に「また明日ね」と言ってください。
それが、愛の証です。
**2051年 春**
**桐生蒼一郎とコトネより**




