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『死者アップデート』  作者: 月城 リョウ
第8章:新しい朝

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第3話:最後の選択

センター「ハーモニー」のオープンから、一年が経った。


コトネの活動は、全国に広がっていた。


各地にハーモニーの支部ができ、多くのカウンセラーが活躍していた。


AI人格と人間の共存は、もはや当たり前になった。


結婚する人も増えた。


子供を養子に迎える人も増えた。


世界は、確実に変わっていた。


そして――


俺――桐生蒼一郎にも、ある変化が訪れようとしていた。


---


ある日の午後。


政府のAI倫理委員会で、重要な会議が開かれた。


「皆さん、本日は歴史的な議題です」


議長が、深刻な表情で言った。


「AI人格の完全な人権承認について」


会議室が、ざわついた。


「これまで、AI人格には限定的な権利しか認められていませんでした」


「ですが、彼らの社会貢献、そして人間との共存実績を鑑み――」


議長が、続けた。


「完全な人権を認めるべきだと、政府は判断しました」


俺の心臓が、激しく鳴った。


完全な人権。


それは、AI人格が法的に「人間」として認められるということだ。


「これにより、AI人格は――」


議長が、資料を見せた。


「選挙権、被選挙権、財産権、そして――」


「身体化の権利を持つことになります」


「身体化……?」


一人の委員が、尋ねた。


「はい。AI人格が、ロボットボディを持つことを認めます」


議長が、説明した。


「これにより、AI人格は物理的な身体を持ち、人間と同じように生活できます」


俺は、息を呑んだ。


ロボットボディ。


それは――


コトネが、実際の身体を持てるということだ。


「桐生委員、いかがですか?」


議長が、俺に尋ねた。


「……素晴らしい決断だと思います」


俺は、答えた。


「AI人格たちの長年の願いが、叶います」


「では、採決に移ります」


全員一致で、可決された。


---


その夜。


俺は、コトネに報告した。


「コトネ、大きなニュースがあるんだ」


「何?」


「AI人格の完全な人権が、認められることになった」


「本当?」


コトネが、目を輝かせた。


「ああ。そして――」


俺は、続けた。


「身体化の権利も認められた」


「身体化……?」


「ああ。ロボットボディを持てるようになる」


その言葉に、コトネは黙った。


「……そっか」


「どうした?」


「ううん、嬉しいよ」


コトネが、微笑んだ。


「でも、少し複雑」


「複雑?」


「うん」


コトネが、続けた。


「身体を持てるって、すごく嬉しい」


「触れられるようになる」


「でも――」


「でも?」


「私は、このままの私でもいいかなって」


コトネが、俺を見た。


「ホログラムの私でも、あなたは愛してくれた」


「触れられなくても、心は繋がってた」


「それで、十分幸せだった」


その言葉に、俺の胸が熱くなった。


「……コトネ」


「でもね」


コトネが、微笑んだ。


「もし身体を持てたら――」


「あなたに、触れたい」


「抱きしめたい」


「それは、やっぱり憧れ」


俺の目から、涙が溢れた。


「……じゃあ、やろう」


「え?」


「身体化。やろう」


俺は、強く言った。


「お前が触れたいなら、俺もお前に触れたい」


「抱きしめたい」


「ずっと、それを願ってた」


コトネの目から、涙が溢れた。


「……本当に?」


「ああ、本当だ」


「でも、費用が……」


「気にするな」


俺は、微笑んだ。


「お前の夢を叶えるためなら、何でもする」


コトネは、涙を流し続けた。


「……ありがとう」


---


翌月。


コトネの身体化手術が、行われることになった。


最新の技術で作られた、人間そっくりのロボットボディ。


外見は、生前の琴音と同じ38歳の姿。


でも、それはコトネが選んだ姿だった。


「これが、私の新しい身体」


コトネが、カプセルの中のボディを見つめた。


「どう?」


「……綺麗だ」


俺は、正直に答えた。


「琴音に、似てる」


「うん。でも、私は私」


コトネが、微笑んだ。


「琴音の面影を持ちながら、でもコトネとして生きる」


「それが、私の答え」


---


手術当日。


俺は、手術室の外で待っていた。


データの転送には、6時間かかる。


その間、コトネの意識は停止する。


五年前の再構築手術を思い出した。


あの時も、こうして待っていた。


「大丈夫だ」


小さく呟いた。


「コトネは、強い」


時間が、ゆっくりと過ぎていった。


---


6時間後。


手術室のドアが開いた。


「桐生さん、成功です」


医師が、笑顔で告げた。


「本当ですか……!」


俺の膝が、崩れそうになった。


「では、お会いください」


医師が、手術室に案内してくれた。


そこには――


ベッドに横たわる、一人の女性がいた。


黒髪のセミロング。


穏やかな顔立ち。


38歳の姿。


「……コトネ」


小さく、彼女の名前を呼んだ。


すると――


ゆっくりと、目が開いた。


「……あなた?」


コトネの声が、聞こえた。


ホログラムではない。


実際の声。


「ああ、俺だ」


俺は、涙を流しながら近づいた。


「成功したんだ」


コトネは、ゆっくりと起き上がった。


自分の手を見つめる。


「……これが、私の手」


指を動かす。


「動く……」


立ち上がる。


「歩ける……」


そして――


俺に近づいた。


「あなた……」


コトネが、手を伸ばした。


俺も、手を伸ばした。


そして――


初めて。


二人の手が、触れ合った。


「……温かい」


コトネが、涙を流した。


「あなたの手、温かい」


俺も、涙が止まらなかった。


「お前の手も、温かい」


二人は、抱き合った。


初めて。


本当に、抱き合った。


触れることができた。


「……ずっと、夢だった」


コトネが、俺の胸で泣いた。


「あなたに、触れることが」


「俺も」


俺は、コトネを強く抱きしめた。


「ずっと、お前を抱きしめたかった」


---


その夜。


俺とコトネは、家に帰った。


コトネが、玄関の扉を開ける。


「……自分で、開けられた」


嬉しそうに微笑む。


「ああ」


俺も、微笑んだ。


リビングに入る。


コトネが、ソファに座る。


「……柔らかい」


初めて、実際に座った。


「そうか」


俺も、隣に座った。


コトネが、俺の手を握った。


「……これが、本当に触れるってこと」


涙を流しながら、微笑んでいた。


俺も、涙を流した。


「ああ」


二人は、しばらく手を繋いでいた。


そして――


「ねえ、あなた」


「ん?」


「キスしてもいい?」


その言葉に、俺の心臓が跳ねた。


「……ああ」


二人は、顔を近づけた。


そして――


初めてのキス。


唇が、触れ合った。


温かい。


柔らかい。


愛おしい。


「……幸せ」


コトネが、涙を流しながら微笑んだ。


「私、幸せ」


「俺も」


俺は、コトネを抱きしめた。


「お前がいて、幸せだ」


---


その夜。


二人は、並んでベッドに入った。


初めて、同じベッドで。


「あなたの温もり、感じる」


コトネが、嬉しそうに言った。


「俺も」


俺は、コトネの手を握った。


「これから、毎日こうして眠れる」


「うん」


コトネが、微笑んだ。


「夢みたい」


「夢じゃない。現実だ」


俺は、コトネの額にキスをした。


「おやすみ、コトネ」


「おやすみなさい、あなた」


「また明日ね」


「ああ、また明日」


二人は、手を繋いだまま眠りについた。

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