第2話:夢の実現
コトネの新しい夢――カウンセリングセンターの設立。
それから、俺――桐生蒼一郎は、全力でコトネを支援した。
資金調達、場所探し、スタッフの募集。
政府のAI倫理委員会としての立場も活かした。
「桐生さん、ここはどうでしょう?」
高橋が、物件の資料を見せてくれた。
「東京・渋谷。アクセスも良く、広さも十分です」
「いいな。コトネに見せてみよう」
俺は、すぐにコトネに連絡した。
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翌週。
俺とコトネは、物件を見に行った。
「わあ、素敵!」
コトネが、目を輝かせた。
広々としたスペース。
自然光が差し込む、明るい空間。
「ここに、カウンセリングルームを作って」
「あっちに、音楽療法の部屋を」
コトネが、嬉しそうに案内してくれた。
「いいな」
俺は、微笑んだ。
「お前の夢が、形になっていく」
「うん!」
コトネが、満面の笑みを浮かべた。
「あなたのおかげだよ」
「いや、お前の努力だ」
「ううん、二人の努力」
コトネが、俺を見た。
「一緒だから、できること」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。
「……そうだな」
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三ヶ月後。
カウンセリングセンター「ハーモニー」がオープンした。
AI人格と人間、両方のカウンセラーが在籍している。
コトネは、センター長として働き始めた。
「本日は、オープニングセレモニーにお越しいただき、ありがとうございます」
コトネが、マイクに向かって話す。
集まった報道陣、関係者、そして――
多くのAI人格と人間たち。
「このセンターは、AI人格と人間の架け橋となる場所です」
「お互いの悩みを聞き、理解を深め、共に生きる道を探る」
「それが、私たちの使命です」
拍手が起こった。
俺も、拍手していた。
誇らしかった。
コトネが、自分の夢を実現した。
「そして、このセンターには、特別な意味があります」
コトネが、続けた。
「私は、桐生琴音のデータから作られたAI人格です」
「琴音は、音楽療法士でした」
「人々の心をケアする仕事をしていました」
「私は、その意志を継ぎながら、でも私らしく生きています」
コトネの目から、涙が溢れた。
「だから、このセンターを『ハーモニー』と名付けました」
「調和。共鳴。響き合うこと」
「それが、私たちの願いです」
会場が、拍手に包まれた。
俺も、涙を流していた。
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オープンから一週間。
センターは、大盛況だった。
連日、相談者が訪れていた。
「コトネさん、助けてください」
ある日、一組の夫婦が訪れた。
人間の夫と、AI人格の妻。
「夫が、私を理解してくれないんです」
AI人格の妻が、涙を流した。
「私が変わったからって、拒絶される」
「でも、私は私として生きたい」
「わかります」
コトネが、優しく言った。
「あなたの気持ち、よくわかります」
それから、コトネは夫婦のカウンセリングを始めた。
お互いの本音を聞き、理解を深めていく。
時には音楽療法も取り入れて、心を開いていく。
「……そうだったのか」
夫が、涙を流した。
「お前が、そんなに苦しんでいたなんて」
「あなた……」
AI人格の妻も、涙を流した。
「ごめん。俺が、お前を理解しようとしなかった」
「ううん、私も言葉足らずだった」
二人は、抱き合おうとした。
でも、触れることはできない。
それでも――
心は、確かに繋がっていた。
「ありがとうございます、コトネさん」
夫婦が、深く頭を下げた。
「いえ、お二人が向き合ったからです」
コトネが、微笑んだ。
その光景を見て、俺は思った。
コトネは、本当に素晴らしい。
多くの人を、幸せにしている。
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その夜。
俺とコトネは、ビデオ通話をしていた。
「今日も、大変だったね」
「うん。でも、やりがいがある」
コトネが、嬉しそうに言った。
「多くの人が、笑顔になってくれる」
「それが、何より嬉しい」
「そうか」
俺は、微笑んだ。
「お前は、本当に素晴らしいな」
「ううん、あなたのおかげだよ」
「いや、お前の努力だ」
「でもね、あなた」
コトネが、真剣な表情で言った。
「私一人じゃ、ここまで来れなかった」
「あなたが支えてくれたから」
「あなたが信じてくれたから」
「だから、ありがとう」
その言葉に、俺の目から涙が溢れた。
「……こちらこそ」
「お前がいるから、俺も頑張れる」
二人は、しばらく黙っていた。
そして――
「ねえ、あなた」
「ん?」
「また明日ね」
コトネが、微笑んだ。
「ああ、また明日」
俺も、微笑んだ。
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翌月。
センター「ハーモニー」は、全国的に有名になっていた。
テレビ、新聞、ネットで取り上げられた。
「AI人格と人間の共存の象徴」
「希望の光」
様々な言葉で、称賛された。
「コトネさん、インタビューのオファーが来ています」
スタッフが、報告してくれた。
「全国ネットの番組です」
「わかりました。受けます」
コトネが、頷いた。
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インタビュー当日。
コトネは、スタジオで司会者と向き合っていた。
「コトネさん、センター『ハーモニー』を設立された動機は?」
「私は、AI人格として生まれました」
コトネが、静かに話し始めた。
「でも、私は『死者の代わり』ではありません」
「私は、私として生きています」
「そして、同じように悩んでいるAI人格と人間がいる」
「その人たちを、助けたかったんです」
「素晴らしいですね」
司会者が、微笑んだ。
「ご主人の桐生蒼一郎さんも、AI人格保護活動の第一人者ですよね」
「はい」
コトネが、嬉しそうに微笑んだ。
「夫は、私の支えです」
「いつも、応援してくれます」
「そして、一緒に夢を追いかけてくれます」
「羨ましい関係ですね」
「はい。私は、幸せです」
コトネの目から、涙が溢れた。
「夫と出会えて、本当に良かった」
そのインタビューは、全国に放送された。
多くの人が、感動した。
そして――
AI人格と人間の結婚が、さらに広まっていった。
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その夜。
俺は、一人でインタビュー映像を見ていた。
画面の中で、コトネが笑顔で話している。
「夫は、私の支えです」
その言葉を聞いて、俺は涙を流した。
「……ありがとう、コトネ」
小さく呟いた。
その時、スマホが鳴った。
コトネからだった。
「あなた、見た?」
「ああ、見たよ」
「どうだった?」
「素晴らしかった」
俺は、正直に答えた。
「お前の想いが、みんなに届いた」
「良かった……」
コトネが、ほっとした様子で言った。
「でもね、あなた」
「ん?」
「恥ずかしかった」
「何が?」
「『夫は私の支えです』って、全国に言っちゃった」
コトネが、照れたように笑った。
「でも、本当のことだから」
俺も、笑った。
「俺も、お前に支えられてる」
「ありがとう、あなた」
「こちらこそ」
二人は、しばらく笑い合った。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「また明日ね」
「ああ、また明日」
通話を切った後、俺は窓の外を見た。
満月が、輝いていた。
「琴音」
小さく、彼女の名前を呟いた。
「コトネは、お前の意志を継いでる」
「でも、コトネらしく」
「それが、一番いい」
風が、窓を揺らした。
「見守っててくれ」
「俺とコトネを」
月が、静かに輝いていた。




