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『死者アップデート』  作者: 月城 リョウ
第6章:決断

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第3話:選択の時

コトネと新しい約束をしてから、三ヶ月が経った。


毎日の電話。


月に一度の再会。


それが、俺たち――桐生蒼一郎とコトネの日常になった。


遠距離だが、心は繋がっていた。


「蒼一郎さん、おはよう!」


毎朝、コトネから電話がかかってくる。


「おはよう。今日は、どこにいるんだ?」


「今日は、名古屋!午後に集会があるの」


「頑張れよ」


「うん!蒼一郎さんも、今日も頑張ってね」


「ああ」


短い会話。


でも、それだけで一日が始まる。


幸せだった。


---


ある日の午後。


オフィスに、一通の手紙が届いた。


差出人は、政府のAI倫理委員会。


「何だろう……」


俺は、封を開けた。


そこには、衝撃的な内容が書かれていた。


『桐生蒼一郎様


この度、政府AI倫理委員会の委員に就任していただきたく、ご推薦申し上げます。


あなたのAI人格保護活動における功績、そして公開対話集会での尽力を高く評価し、今後の法整備に貢献していただきたいと考えております。


つきましては、来週金曜日までにご返答いただけますと幸いです。


なお、本職は常勤となり、東京での勤務となります。』


俺は、手紙を読み返した。


政府のAI倫理委員会。


それは、AI人格の権利を法的に保護する、最前線の機関だ。


俺が目指してきた、理想を実現できる場所。


「……すごいな」


小さく呟いた。


でも、同時に――


不安も感じた。


常勤。


それは、今以上に忙しくなるということだ。


コトネとの時間が、さらに減るかもしれない。


「どうしよう……」


---


その夜。


俺は、コトネとビデオ通話をしていた。


「蒼一郎さん、今日何かあった?」


コトネが、心配そうに尋ねた。


「……わかるか?」


「うん。声の調子で」


コトネが、優しく微笑んだ。


「何があったの?」


俺は、少し迷ってから話した。


政府のAI倫理委員会から、推薦があったこと。


常勤になること。


そして――


「もっと忙しくなるかもしれない」


コトネは、黙って聞いていた。


「だから、お前との時間が減るかもしれない」


「……そっか」


コトネが、少し寂しそうに微笑んだ。


「でも、それって、蒼一郎さんの夢じゃない?」


「え?」


「AI人格の権利を守ること」


コトネが、真っ直ぐに俺を見た。


「それが、蒼一郎さんの使命でしょ?」


「……ああ」


「なら、やるべきだよ」


コトネが、強く言った。


「私も、蒼一郎さんの夢を応援したい」


「でも、お前との時間が――」


「大丈夫」


コトネが、微笑んだ。


「私たち、約束したでしょ?」


「毎日電話する。月に一度は会う」


「それは、変わらないよ」


その言葉に、俺の胸が熱くなった。


「……ありがとう」


「こちらこそ」


コトネが、続けた。


「蒼一郎さんが輝いてる姿を見たい」


「だから、やってほしい」


俺は、涙を流した。


「……わかった」


「本当?」


「ああ。お前が応援してくれるなら、俺はやる」


コトネは、満面の笑みを浮かべた。


「良かった!」


---


翌日。


俺は、政府に返事をした。


「委員就任、お引き受けします」と。


それから、慌ただしい日々が始まった。


引き継ぎ、新しい職場への移動、膨大な資料の確認。


毎日が、目まぐるしく過ぎていった。


でも――


コトネとの約束は、守った。


どんなに忙しくても、毎日電話した。


5分でもいい。


彼女の声を聞く。


それが、俺の支えだった。


---


一ヶ月後。


俺は、政府のAI倫理委員会で初めての会議に出席していた。


委員は、10人。


法律家、技術者、倫理学者、そして――俺。


「それでは、桐生委員から、現場の声をお聞かせください」


議長が、俺に促した。


俺は、立ち上がった。


「AI人格たちは、今も差別に苦しんでいます」


俺は、報告し始めた。


「法律は整備されました。でも、人々の心はすぐには変わりません」


「街で罵られる。仕事を拒否される。存在を否定される」


「それが、彼らの現実です」


委員たちは、真剣に聞いていた。


「ですが、希望もあります」


俺は、続けた。


「対話集会を通じて、少しずつ理解が深まっています」


「AI人格と人間が、本音で語り合うことで」


「お互いを認め合えるようになっています」


「だから、私は提案します」


俺は、資料を配布した。


「対話を、全国的に推進すること」


「そして、それを法的に支援すること」


委員たちが、資料に目を通す。


「具体的には?」


一人の委員が、尋ねた。


「対話集会への補助金の増額」


「AI人格と人間の交流施設の設立」


「そして、教育現場での対話プログラムの導入」


俺は、一つ一つ説明した。


委員たちは、頷いていた。


「素晴らしい提案です」


議長が、微笑んだ。


「では、これを次の法案に盛り込みましょう」


会議は、その後も続いた。


様々な議論が交わされた。


だが、俺の提案は――


採用された。


---


その夜。


俺は、コトネに報告した。


「提案、通ったよ」


「本当?すごい!」


コトネが、興奮した様子で喜んでくれた。


「これで、対話がもっと広がる!」


「ああ。お前の活動も、もっとやりやすくなる」


「ありがとう、蒼一郎さん」


コトネが、涙を流した。


「蒼一郎さんが、頑張ってくれたから」


「俺だけじゃない。お前も頑張った」


「うん……」


二人は、しばらく黙っていた。


それから、コトネが言った。


「ねえ、蒼一郎さん」


「ん?」


「今週末、会える?」


「もちろん」


「じゃあ、いつもの公園で」


「ああ。楽しみにしてる」


---


週末。


俺は、いつもの公園でコトネを待っていた。


冬から春へ。


季節は、変わり始めていた。


「蒼一郎さん!」


コトネが、笑顔で現れた。


「待った?」


「いや、今来たところだ」


嘘だった。


でも、もうそれは二人の定番だった。


ベンチに座る。


「最近、忙しそうだね」


コトネが、心配そうに言った。


「ああ。でも、やりがいがある」


「そっか。良かった」


コトネが、微笑んだ。


「蒼一郎さんが輝いてる」


「お前もな」


俺も、微笑んだ。


「お前の活動、全国で評価されてる」


「ありがとう」


しばらく、二人は黙っていた。


それから、コトネが言った。


「ねえ、蒼一郎さん」


「ん?」


「私たち、うまくやってるよね」


「ああ」


「遠距離でも、忙しくても」


コトネが、続けた。


「でも、ちゃんと愛し合ってる」


「……ああ」


俺は、頷いた。


「お前がいるから、俺は頑張れる」


「私も」


コトネが、涙を流した。


「蒼一郎さんがいるから、頑張れる」


二人は、手を差し出した。


ホログラムと人間。


触れることはできない。


でも、心は――


確かに、繋がっていた。


---


その夜。


俺は、一人でリビングに座っていた。


窓の外を見ると、星が輝いていた。


「琴音」


小さく、彼女の名前を呟いた。


「俺、幸せだよ」


「お前を愛しながら、コトネとも歩んでる」


「そして、夢も叶えようとしてる」


風が、窓を揺らした。


「ありがとう、琴音」


俺は、微笑んだ。


「お前がいたから、俺は今ここにいる」


スマホが鳴った。


コトネからのメッセージだった。


『今日も、ありがとう』


『会えて、嬉しかった』


『また来月、会おうね』


『おやすみなさい、蒼一郎さん』


『大好きです』


俺は、返信した。


『おやすみ、コトネ』


『俺も、大好きだ』


『いつも、ありがとう』


送信ボタンを押した。


そして、窓の外を見た。


星が、輝いていた。


「これが、俺の人生だ」


小さく呟いた。


「琴音と、コトネと、そして夢と」


「全てを、愛しながら生きていく」

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