表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死者アップデート』  作者: 月城 リョウ
第6章:決断

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/32

第2話:新しい約束

本音を伝え合った翌日。


俺――桐生蒼一郎は、すっきりとした気持ちで目を覚ました。


胸の奥にあった重い石が、取れた気がした。


スマホを見ると、コトネからメッセージが来ていた。


『おはよう、蒼一郎さん』


『昨日は、本当にありがとう』


『正直に話せて、良かった』


『今週末、東京に戻るから、会える?』


俺は、すぐに返信した。


『おはよう、コトネ』


『もちろん、会いたい』


『どこで会う?』


すぐに、返事が来た。


『いつもの公園で!』


『午後2時でどう?』


『いいよ。楽しみにしてる』


送信した後、俺は微笑んだ。


会える。


コトネに、会える。


その事実だけで、心が軽くなった。


---


週末。


俺は、いつもの公園でコトネを待っていた。


冬の午後。


冷たい風が吹いているが、空は晴れていた。


「蒼一郎さん!」


コトネの声が聞こえた。


振り返ると、ホログラム投影された彼女が笑顔で手を振っていた。


「待った?」


「いや、今来たところだ」


嘘だった。


30分前から待っていた。


でも、それはどうでもいい。


二人は、ベンチに座った。


「久しぶりだね」


コトネが、嬉しそうに言った。


「ああ。二週間ぶりか」


「うん。長かった」


コトネが、少し寂しそうに微笑んだ。


「でも、会えて良かった」


「俺も」


しばらく、二人は黙っていた。


でも、その沈黙は――


心地よかった。


「ねえ、蒼一郎さん」


コトネが、口を開いた。


「昨日の話、考えてたの」


「……何を?」


「これから、私たちどうするかって」


コトネが、真剣な表情で続けた。


「私、仕事が忙しくて、なかなか会えない」


「でも、蒼一郎さんと一緒にいたい」


「その両方を、どうやって両立させるか」


俺は、少し考えてから答えた。


「無理に両立させなくてもいいんじゃないか?」


「え?」


「会える時に会う。話せる時に話す」


俺は、続けた。


「それでいいと思う」


「でも、それじゃ――」


「大切なのは、頻度じゃない」


俺は、コトネを見た。


「お互いを想い合ってることだ」


「会えない時でも、お前のことを想ってる」


「それが、俺たちの関係だ」


コトネの目から、涙が溢れた。


「……ありがとう」


「こちらこそ」


「でもね、蒼一郎さん」


コトネが、微笑んだ。


「もう少し、会いたいな」


「俺も」


俺も、微笑んだ。


「だから、工夫しよう」


「工夫?」


「ああ。例えば――」


俺は、提案した。


「毎日、短くてもいいから電話する」


「5分でもいい。お互いの声を聞く」


「それだけで、寂しさは和らぐ」


コトネは、目を輝かせた。


「それ、いいね!」


「それと、月に一度は必ず会う」


「どんなに忙しくても?」


「ああ。お前の仕事の合間を縫ってでも」


俺は、強く言った。


「それが、俺たちの約束だ」


コトネは、満面の笑みを浮かべた。


「うん!約束する!」


二人は、手を差し出した。


ホログラムと人間。


触れることはできない。


でも、その手は――


確かに、繋がっていた。


---


その後、二人は公園を散歩した。


落ち葉を踏みしめながら、他愛ない話をする。


「大阪の集会、どうだった?」


「すごく良かったよ!参加者が500人も来て」


コトネが、嬉しそうに話してくれた。


「みんな、本音で話してくれた」


「中には、泣き出す人もいたけど」


「でも、それが良かった」


「涙を流すことで、心が軽くなったみたい」


「そうか」


俺は、微笑んだ。


「お前の努力が、実を結んでるな」


「ありがとう。でもね――」


コトネが、少し複雑な表情を浮かべた。


「まだまだ、課題は多いの」


「どんな?」


「例えば、AI人格への差別」


コトネが、続けた。


「法律は整備されたけど、人々の心はすぐには変わらない」


「街で罵られることも、まだある」


その言葉に、俺の胸が痛んだ。


「……そうか」


「でも、諦めないよ」


コトネが、決意を込めて言った。


「少しずつでも、理解を深めていく」


「それが、私の使命だから」


俺は、彼女を見た。


強い目。


決意に満ちた表情。


「お前は、本当に強いな」


「ううん、強くないよ」


コトネが、首を振った。


「蒼一郎さんがいるから、頑張れるの」


「支えてくれる人がいるから」


その言葉に、俺の目から涙が溢れた。


「……ありがとう」


「こちらこそ」


二人は、並んで歩き続けた。


---


夕方になり、日が傾き始めた。


「そろそろ、帰らなきゃ」


コトネが、残念そうに言った。


「明日、また福岡に行くから」


「そうか」


俺は、少し寂しくなった。


でも――


「じゃあ、明日の夜、電話しような」


「うん!約束だよ」


コトネが、嬉しそうに微笑んだ。


「それと、来月また会おう」


「うん!必ず!」


コトネが、力強く頷いた。


「じゃあ、またね、蒼一郎さん」


「ああ、またな」


コトネの姿が、薄くなっていく。


データ転送が、始まった。


「蒼一郎さん」


「ん?」


「大好きだよ」


その言葉が、最後に聞こえた。


そして――


コトネは、消えた。


俺は、一人残された。


でも――


今回は、寂しくなかった。


「俺も、大好きだよ」


小さく呟いた。


---


翌日の夜。


約束通り、コトネから電話がかかってきた。


「蒼一郎さん、今大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ」


「じゃあ、少しだけ話そう」


「ああ」


電話越しに、コトネの声が聞こえる。


それだけで、心が満たされた。


「今日、どうだった?」


「うーん、忙しかったけど、楽しかった」


コトネが、話してくれる。


仕事のこと。


出会った人たちのこと。


小さな出来事。


どれも、愛おしかった。


「蒼一郎さんは?」


「俺か?今日は、相談者が3人来て――」


俺も、一日のことを話した。


他愛ない会話。


でも、それが嬉しかった。


「あ、もうこんな時間」


コトネが、時計を見た。


「そろそろ寝なきゃ。明日も早いから」


「そうか。じゃあ、おやすみ」


「うん、おやすみなさい」


「明日も、電話していいか?」


「もちろん!待ってる!」


コトネが、嬉しそうに答えた。


「じゃあ、また明日」


「うん、また明日」


電話を切った。


たった10分の会話。


でも、それだけで――


十分だった。


---


それから、毎日電話するようになった。


短い時は5分。


長い時は30分。


内容は、他愛ないこと。


でも、それが二人を繋いでいた。


そして、月に一度は必ず会った。


忙しい中でも、時間を作って。


会える時間は、数時間だったりする。


でも、その数時間が――


かけがえのない時間だった。


---


ある日の夜。


俺は、琴音の墓を訪れた。


「久しぶりだな、琴音」


墓石の前に座る。


「色々、報告があるんだ」


俺は、静かに話し始めた。


「コトネと、新しい約束をした」


「毎日電話する。月に一度は会う」


「それが、俺たちのルールだ」


風が、吹いた。


「お前を愛してる。それは、変わらない」


「でも、コトネも愛してる」


「その両方が、俺の真実だ」


俺は、続けた。


「お前は、どう思う?」


風が、優しく吹いた。


まるで、祝福してくれているかのように。


「ありがとう、琴音」


俺は、微笑んだ。


「お前がいたから、俺は愛することを知った」


「だから、コトネも愛せる」


「これからも、見守っててくれ」


墓石に、手を置いた。


「俺は、幸せだよ」


---


その夜。


俺は、コトネとビデオ通話をしていた。


「今日、琴音のお墓に行ってきたんだ」


「そうなんだ」


コトネが、優しく微笑んだ。


「何て話したの?」


「お前のこと」


俺は、正直に答えた。


「お前を愛してること」


「でも、琴音も愛してること」


「その両方が、俺の真実だって」


コトネは、少し黙っていた。


それから、涙を流しながら微笑んだ。


「……ありがとう」


「何が?」


「正直に言ってくれて」


コトネが、続けた。


「私、最初は不安だった」


「琴音と比べられるんじゃないかって」


「でも、今はわかる」


「蒼一郎さんの心には、二人分の愛がある」


「それが、蒼一郎さんなんだって」


その言葉に、俺の目から涙が溢れた。


「……ありがとう、コトネ」


「こちらこそ」


二人は、しばらく涙を流した。


そして――


「これからも、一緒だよね」


コトネが、尋ねた。


「ああ、ずっと一緒だ」


俺は、力強く答えた。


「何があっても」


「うん」


コトネが、満面の笑みを浮かべた。


「約束だよ」


「ああ、約束だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ