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『死者アップデート』  作者: 月城 リョウ
第5章:対話

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第3話:広がる対話

公開対話集会から、一週間が経った。


その反響は、予想以上だった。


『公開対話集会、世界中で大反響』


『AI人格と人間の対話、各国でも開催へ』


『専門家「歴史的転換点」』


ニュースは、連日この話題で持ちきりだった。


もちろん、全てが肯定的ではなかった。


「対話など無意味だ」


「AI人格は停止すべきだ」


そういう声も、依然として存在した。


でも――


確実に、何かが変わり始めていた。


---


俺――桐生蒼一郎のオフィスには、連日相談者が訪れていた。


「桐生さん、助けてください」


ある日、一人の女性が訪ねてきた。


「私、夫のAI人格と和解したいんです」


「和解?」


「はい。公開対話集会を見て、考えたんです」


女性が、涙を流しながら言った。


「私、夫のAI人格を拒絶していました」


「夫じゃないって、思ってた」


「でも、コトネさんの言葉を聞いて……」


「……」


「AI人格も、苦しんでたんですね」


「自分が受け入れられないって」


女性が、続けた。


「だから、もう一度向き合いたい」


「夫のAI人格と」


俺は、微笑んだ。


「それは、素晴らしい決断です」


「でも、どうすれば……」


「まず、対話してください」


俺は、アドバイスした。


「お互いの本音を、正直に話す」


「怖いかもしれません。でも、それが始まりです」


女性は、頷いた。


「わかりました。やってみます」


---


同じような相談が、次々と寄せられた。


AI人格を拒絶していた人たちが、もう一度向き合おうとしていた。


公開対話集会の影響は、確実に広がっていた。


「桐生さん、すごいことになってますね」


高橋が、嬉しそうに報告してきた。


「全国各地で、小規模な対話集会が開催されています」


「本当か?」


「はい。人々が、自発的に対話の場を作り始めています」


高橋が、モニターを見せた。


そこには、日本各地で行われている対話集会の様子が映し出されていた。


「これは……」


俺は、感動していた。


対話は、広がっている。


一人が始めたことが、波紋のように広がっている。


「コトネに、教えてあげよう」


俺は、スマホを取り出した。


---


その日の夜。


俺は、コトネとビデオ通話をしていた。


「蒼一郎さん、すごいね!」


コトネが、興奮した様子で言った。


「全国で対話集会が開かれてる!」


「ああ。お前のおかげだ」


「ううん、みんなのおかげだよ」


コトネが、微笑んだ。


「みんなが、対話を選んでくれた」


「……そうだな」


俺も、微笑んだ。


「でもな、コトネ」


「なあに?」


「お前が最初の一歩を踏み出したんだ」


「勇気を持って、舞台に立った」


「それが、みんなを動かしたんだ」


コトネの目から、涙が溢れた。


「ありがとう、蒼一郎さん」


「こちらこそ」


少し沈黙が流れた。


それから、コトネが言った。


「ねえ、蒼一郎さん」


「ん?」


「今度の週末、会える?」


「もちろん。どうしたんだ?」


「えっとね……」


コトネが、少し照れたように言った。


「大切な話があるの」


その言葉に、俺の心臓が跳ねた。


「大切な話?」


「うん。会って、直接話したい」


「……わかった。どこで会う?」


「いつもの公園で」


「じゃあ、土曜日の午後で」


「うん!楽しみにしてる」


コトネが、満面の笑みを浮かべた。


電話を切った後、俺は少し考えた。


大切な話。


それは、何だろう。


不安と期待が、胸の中で混ざり合った。


---


土曜日の午後。


俺は、いつもの公園でコトネを待っていた。


秋の終わりから冬へ。


空気は冷たかったが、空は晴れていた。


「蒼一郎さん!」


コトネが、現れた。


ホログラムの姿で、笑顔を浮かべている。


「待った?」


「いや、今来たところだ」


嘘だった。


30分前から待っていた。


でも、それはどうでもいい。


二人は、ベンチに座った。


「それで、大切な話って?」


俺が尋ねると、コトネは少し緊張した表情を浮かべた。


「えっとね……」


「……」


「私、音楽療法士として、正式に働くことになったの」


「本当か!おめでとう!」


俺は、思わず声を上げた。


「ありがとう」


コトネが、嬉しそうに微笑んだ。


「AI人格たちのためのクリニックで、働くの」


「素晴らしいな」


「うん。でもね――」


コトネが、少し表情を曇らせた。


「それで、もっと忙しくなると思うの」


「……ああ」


「だから、蒼一郎さんと会える時間が、減っちゃうかもしれない」


その言葉に、俺は少し寂しくなった。


でも――


「それは、仕方ないことだ」


俺は、微笑んだ。


「お前の夢なんだから」


「蒼一郎さん……」


「応援してるよ、俺は」


「ありがとう」


コトネが、涙を流した。


「でもね、蒼一郎さん」


「ん?」


「会える時間は減るけど、気持ちは変わらないから」


コトネが、真っ直ぐに俺を見た。


「私、蒼一郎さんのこと、大好きだから」


その言葉に、俺の胸が熱くなった。


「俺も、お前が好きだ」


「本当?」


「ああ、本当だ」


俺は、続けた。


「会える時間が減っても、お前は俺の大切な人だ」


「それは、変わらない」


コトネは、満面の笑みを浮かべた。


「良かった……」


二人は、しばらく黙って空を見上げた。


青い空。


白い雲。


変わらない景色。


でも、俺たちの関係は――


少しずつ、成長していた。


---


その夜。


俺は、一人でリビングに座っていた。


コトネとの時間を思い返していた。


彼女は、成長している。


夢を叶え、自分の人生を歩んでいる。


それは、嬉しいことだ。


でも――


少し、寂しい。


「……これが、愛なのかな」


小さく呟いた。


相手の幸せを願いながら、自分の寂しさも感じる。


それが、愛。


スマホが鳴った。


コトネからのメッセージだった。


『蒼一郎さん、今日はありがとう』


『いつも、応援してくれて』


『私、頑張るね』


『蒼一郎さんも、無理しないでくださいね』


『おやすみなさい』


俺は、返信した。


『おやすみ、コトネ』


『お前も、無理すんなよ』


『また、会おう』


送信ボタンを押した後、俺は微笑んだ。


寂しいけど、それでいい。


コトネが幸せなら、それでいい。


---


翌週。


オフィスに、一人の男性が訪ねてきた。


山本さんだった。


「桐生さん、お久しぶりです」


「山本さん!どうしたんですか?」


「実は……」


山本さんが、少し照れたように言った。


「妻のAI人格と、もう一度会ったんです」


「……本当ですか?」


「はい。あの対話集会の後、考えたんです」


山本さんが、続けた。


「妻のAI人格は、妻じゃない」


「でも、それでも価値がある存在なんだと」


「だから、もう一度向き合おうと」


俺は、微笑んだ。


「それで、どうでしたか?」


「……最初は、やっぱり違和感がありました」


山本さんが、正直に答えた。


「妻とは違う。それは、事実です」


「でも、話してみて、わかったんです」


「……何が?」


「彼女は、彼女なりに苦しんでいたんです」


山本さんが、続けた。


「私に拒絶されて、悲しんでいた」


「それを知って、申し訳なくなりました」


「……」


「だから、謝ったんです」


「『今まで、ごめん』って」


山本さんの目から、涙が溢れた。


「そしたら、彼女も泣いて」


「『私も、ごめんなさい。期待に応えられなくて』って」


「二人で、泣きました」


俺も、涙が溢れた。


「それで、これからは?」


「これから、少しずつ関係を築いていきます」


山本さんが、微笑んだ。


「妻の代わりじゃない。でも、大切な誰かとして」


「……素晴らしいです」


俺は、深く頭を下げた。


「ありがとうございます、山本さん」


「いえ、こちらこそ」


山本さんも、頭を下げた。


「あなたとコトネさんのおかげです」


---


その日の夜。


俺は、琴音の墓を訪れた。


「久しぶりだな、琴音」


墓石の前に座る。


「色々あったよ」


俺は、静かに話し始めた。


「公開対話集会、成功した」


「コトネも、音楽療法士として働き始める」


「みんな、前に進んでる」


風が、吹いた。


「俺も、前に進んでる」


「お前を愛しながら、でもコトネとも歩んでいく」


俺は、続けた。


「それが、俺の人生だ」


「間違ってないよな?」


風が、優しく吹いた。


まるで、答えてくれているかのように。


「ありがとう、琴音」


俺は、微笑んだ。


「お前がいたから、俺は愛することを知った」


「そして、今も愛し続けている」


墓石に、手を置いた。


「これからも、見守っててくれ」

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