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第7話 近すぎる距離と写真の真実

 春の朝が、薄い霧を連れてきた。

 4月9日。

 新学期4日目の朝だ。

 窓の外。

 桜の花びらが、霧に濡れて地面にへばりついてる。

 空は灰色。

 静かで、少し重い空気だ。

 俺、袋田龍輝は、ベッドで目を覚ます。

 昨日の千陽の告白が頭に響いてる。

「親友としてじゃなくて、女として好きになって欲しい」。

 何だよ、それ。

 急に言われても頭整理できねぇ。

 でも、千陽が近づいてきた時のドキッとした感覚。

 妙にリアルだ。

 今も胸がざわついてる。

 枕元のスマホが鳴る。

 千陽だ。

「おはよ、リュウちゃん。

 今日も起こしに行くから待っててね」

「お前、また来んのかよ…」

 返信を打つ。

「服着てこいよ。

 昨日みたいなのは勘弁だ」

 昨日、日記で千陽の海外での寂しさを知った。

 俺への想いが、9年間ずっと続いてた。

 その重さが、胸にずっしり乗ってる。

 布団から這い出す。

 窓を開ける。

 霧が庭を包んでる。

 冷たい空気が顔を撫でる。

「おはよ、リュウちゃん!」

 玄関から千陽の声。

 また早い。

 階段を下りる。

 リビングに母さんがいる。

 千陽も、もう来てる。

「おはよう、龍輝。

 千陽ちゃん、今日も来てくれたよ」

 母さんが笑顔だ。

「おはよ、おばさん。

 リュウちゃんと一緒に食べるの好きだからさ」

 千陽がニコニコ。

「そっか。

 龍輝、千陽ちゃんに感謝しなさいよ」

「…サンキュー」

 千陽が淹れたコーヒーの香り。

 トーストにスクランブルエッグとベーコン。

 いつもの朝飯だ。

「お前、毎日俺の隣にいるつもりか?」

「うん、ずっと隣にいたいから。

 親友だろ?」

「お前、昨日『全部本気』って言ったよな。

 あれ何だよ?」

「ふふっ、リュウちゃん、気にしてるんだ。

 嬉しいな。

 全部本気ってのは、全部本気だよ」

「…面倒くせぇ奴だな」

「リュウちゃんにしか言わねぇよ?」

 ニヤッと笑う千陽。

 その笑顔が、ズルい。

 学校に向かう自転車。

 千陽が隣を走る。

 霧が桜並木を白く染めてる。

「なぁ、リュウちゃん。

 今日も一緒に帰ろうぜ」

「別に良いけど…

 お前、毎日くっついてくるつもりか?」

「うん、ずっと隣にいたいから。

 親友だろ?」

「親友って…

 昨日のお前、告白してただろ?」

「うん、したよ。

 リュウちゃん、どう思う?」

「急に言われても分かんねぇよ」

「うん、良いよ。

 ゆっくり考えてくれれば。

 でも、俺はリュウちゃんの隣にいるからね」

「お前、ほんと面倒くせぇな」

「リュウちゃんにしか言わねぇよ?」

 ニヤッと笑う千陽。

 その目が、真剣だ。

 教室に着く。

 昨日より視線が重い。

 千陽の隣に座る。

 休み時間。

 男子が寄ってくる。

「なぁ、袋田。

 二島ってほんと女なんだな。

 でも、お前ら怪しいって噂が止まらねぇよ」

「怪しくねぇって!

 何度言えば分かるんだ!」

「でもさ、二島が毎朝お前ん家に来てんだろ?

 気持ち悪いってさ」

「気持ち悪いって何だよ!

 お前ら、千陽のこと何も知らねぇくせに!」

 千陽が俺の腕を掴む。

「リュウちゃん、良いよ。

 慣れてるから」

「慣れてるって何だよ!

 お前が我慢すんな!」

 男子がニヤニヤ。

「ほら、熱くなるなよ。

 二島のイケメンぶりが気持ち悪いって、クラスで話題だぜ」

 拳を握る。

 また殴りかかりそうになる。

 その時、千陽が立ち上がる。

「俺、気持ち悪いって言われても良いよ。

 でも、リュウちゃんに迷惑かけるのは嫌だ。

 だから、ちゃんと説明するね」

 千陽がクラスを見渡す。

「俺、二島千陽。

 女だよ。

 生まれた時からずっと女。

 リュウちゃんと一緒にいるのは、幼なじみだからだよ。

 変なことしてねぇから。

 よろしくな」

 満面の笑み。

 クラスの空気が、少し和らぐ。

 でも、俺への視線はまだ冷たい。

 昼休み。

 千陽が弁当を広げる。

「お前、今日も俺の分まで?」

「うん、おばさんに頼んでね。

 リュウちゃんが食べてくれると嬉しいから」

「…悪いな」

「良いよ。

 親友だもん。

 それに、リュウちゃんの隣で食べるの好きだし」

 ニコッと笑う千陽。

 その笑顔に、胸が温かくなる。

 男子がまた寄ってくる。

「なぁ、袋田。

 二島が女でも、お前ら怪しいってさ。

 毎朝一緒に来て、弁当まで一緒って何だよ?」

「だから親友だって言ってんだろ!」

「親友でそんなベタベタすんの?

 お前ら、絶対付き合ってるって」

「付き合ってねぇ!」

 千陽が笑う。

「リュウちゃん、熱くなるなよ。

 俺、嬉しいけどさ」

「お前、笑いものじゃねぇよ!

 マジで誤解だぞ!」

 女子が近づく。

「ねぇ、二島さん。

 袋田くんのこと大事にしてるよね?

 カップルみたいだよ」

「大事だよ。

 リュウちゃん、俺のヒーローだから」

「何!?」

 またその言葉。

 女子がキャッキャ笑う。

「ほら、やっぱ付き合ってんじゃねぇの?」

「付き合ってねぇって!」

 オリジナルストーリー:千陽の写真と真実

 放課後。

 千陽が教室で俺を待ってる。

「なぁ、リュウちゃん。

 コンビニ寄って帰ろうぜ」

「良いけど、またお菓子買って俺の部屋か?」

「うん、リュウちゃんの部屋落ち着くし。

 ダメ?」

「…まぁ、良いけど」

 教室を出る。

 千陽が鞄から何か落とす。

 小さな写真だ。

 拾う。

 裏に「2018年夏」と書いてある。

 表を見ると、千陽が写ってる。

 海外の街角。

 千陽が一人で立ってる。

 笑顔じゃねぇ。

 目が寂しそうに曇ってる。

「千陽、これ何だ?」

「あっ、リュウちゃん!

 それ、返してくれ!」

 慌てて取り返す千陽。

「何だよ、写真か?

 見ねぇよ」

「…見ねぇなら良いけどさ」

 コンビニでポテチとコーラ買う。

 家に着く。

 俺の部屋に入る。

 千陽がライトノベルの棚を見る。

「リュウちゃん、これ全部読んだの?」

「まぁ、大体な。

 オタクだから」

「すごいね。

 俺も読んでみようかな。

 リュウちゃんの好きなヒロイン、どんな子か知りたいし」

「お前が読むなら貸してやるよ。

 オススメはこれ」

『そらと僕の青春革命』を渡す。

 千陽がパラパラめくる。

「美少女幼なじみか。

 リュウちゃん、こういう子好きなんだ?」

「いや、別にそういうわけじゃ…

 ストーリーが良いんだよ」

「ふ~ん。

 じゃあ、俺も美少女幼なじみ目指してみようかな?」

「何!?」

 ニヤニヤする千陽。

 冗談だろ?

 ポテチ開けてコーラ飲む。

 千陽が近づいてくる。

「なぁ、リュウちゃん。

 俺のこと、ちゃんと女として見てくれるよね?」

「またそれか。

 親友だろ、性別関係ねぇって何度も言ってんだろ」

「うん、そうだけど…

 俺、リュウちゃんに女として意識して欲しいんだ」

「意識って何だよ?」

「例えばさ…」

 千陽が俺の手を握る。

 冷たいけど柔らかい手。

「お前、何!?」

「リュウちゃんの手、あったかいね。

 こうやってると落ち着くよ」

「落ち着くって…

 近すぎだろ!」

「良いじゃん、親友だろ?

 それに…」

 千陽が顔を近づける。

 良い匂いがする。

 心臓がまたドキッとする。

「お、お前!

 何!?」

「リュウちゃん、俺のこと好きになって欲しいな」

「何!?」

「親友としてじゃなくて…

 女としてさ」

「…お前、マジで何!?」

「ふふっ、昨日も言ったけど…

 今度は全部本気だよ」

 ニヤッと笑う千陽。

 目が真剣すぎて冗談じゃねぇ。

「お前…

 告白してんのか?」

「うん、そうだよ。

 リュウちゃん、俺のこと好きになってくれる?」

「…待て、待て!

 急に何だよ!

 親友だろ!?」

「親友だけど…

 それだけじゃ足りねぇよ。

 リュウちゃんのこと、ずっと大好きだったから」

「ずっとって…

 いつからだよ?」

「小さい頃からだよ。

 リュウちゃんが俺のヒーローだったから…

 ずっとそばにいたくて、帰ってきたんだ」

「…何!?」

 頭が混乱する。

 千陽の真剣な目と柔らかい声。

「なぁ、千陽。

 お前、俺に何か隠してねぇか?」

「隠してねぇよ。

 でも…リュウちゃんが知りたいなら、これ見てみて」

 千陽が鞄から写真を出す。

「これ…

 さっきの?」

「うん。

 海外で撮った写真だよ。

 リュウちゃんに知って欲しい」

 写真を手に取る。

 裏に「2018年夏」と書いてある。

 千陽が一人で立ってる。

 寂しそうな目。

 笑顔じゃねぇ。

 背景は外国の街並み。

「これ…

 何だ?」

「海外でさ。

 一人で撮ったんだ。

 その時、リュウちゃんのことばっか考えてた」

 千陽が目を伏せる。

「学校で孤立してた時。

 誰も俺のこと分かってくれなくて。

 でも、リュウちゃんの笑顔思い出して、なんとか耐えてた。

 この写真、寂しくて撮ったんだ。

 リュウちゃんに会いたいって、ずっと願ってた」

 胸が締め付けられる。

「千陽…

 お前、こんな思いしてたのか?」

「うん。

 でも、リュウちゃんに会えたから良いよ。

 今、隣にいられるから」

「…お前、ほんとズルいな」

「リュウちゃんにしか言わねぇよ?」

 千陽が肩に頭を乗せる。

 柔らかい感触と桃の匂い。

「お前、重いって!」

「良いじゃん。

 リュウちゃん、俺のこと嫌いじゃねぇでしょ?」

「…嫌いじゃねぇよ」

 その時、気づいた。

 千陽のこの距離感。

 ただの親友じゃねぇ何かを感じる。

「なぁ、千陽。

 お前、俺に何か企んでるだろ?」

「企むって何?

 リュウちゃんのこと大好きだから、そばにいたいだけだよ」

「大好きって…

 親友としてだろ?」

「うん、そうだよ。

 …今はね」

「今はって何だよ!?」

「ふふっ、秘密」

 千陽が笑って誤魔化す。

 でも、その目が真剣だった。

 こいつ、絶対何か企んでる。



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