第17話:紅葉の丘と永遠の誓い
秋の陽光が大地を黄金に染め、コキアが真っ赤に燃える丘が広がる国営ひたちなか海浜公園。
10年前、ネモフィラのブルーに包まれたあの丘で愛を叫んだ日から、時が流れていた。
25歳になった俺と千陽は、再びこの地を訪れていた。
「見学をご予約された、袋田様ですね。お待ちしておりました」
結婚式場の受付で、にこやかなお姉さんが出迎えてくれた。
あの告白から10年。俺は千陽に、コキアの紅葉が風に揺れる丘の頂上で膝をついた。
「結婚してくれ」
「リュウちゃん、プロポーズなんて今さらじゃん。ちゃんと私はあの時、一生涯連れ添う仲になるって返事したんだもん」
満面の笑みがこぼれる千陽。イケメンすぎる顔が、秋の柔らかな光に照らされて輝く。
「まぁ、けじめだよ」
「らしいよね。返事はもちろん、はい、袋田千陽になります」
その笑顔は、今でもイケメンで、どこか愛らしい。
式場見学の日。お姉さんが難しい表情で切り出した。
「大変失礼な質問をさせていただくことをお許しください」
千陽が先に笑顔で答える。
「あっ、慣れてるんで大丈夫ですよ。私、男っぽいですよね? 女です。でも、ウエディングドレスは私が着ます」
イケメンすぎる千陽が、ウエディングドレスを夢見てたなんて、なんとも可愛らしい。
あのネモフィラの丘から10年。千陽は成長し続け、ますます魅力的な存在になった。
東京に遊びに行った時、こんなことが何度もあった。
「俳優になりませんか? あっ、うちはちゃんとしたプロダクションです。●●って俳優や○○○ってアイドルも所属してます。お兄さんなら、モデルから俳優にもなれますよ」
大手事務所のスカウトマンが、千陽に熱心に声をかける。
千陽は決まってこう返す。
「私はもう永久就職決まってますから」
ニッコリ笑って、俺とディープなキスを見せつける。
俺としては恥ずかしくてやめてほしかったが、スカウトマンが固まる姿は面白かった。
「こいつ、女ですよ」
俺が一言残して立ち去る。
何度あっただろう。
後から聞いた話だと、ダブルデート中のヒロミとミーにも声がかかったらしい。
「お姉さん達ならアイドルになれますよ」
スカウトマンがヒロに名刺を差し出すと、ヒロはそれを股間に当て、
「僕、付いてるよ」
ニンマリ笑ったそうだ。
スカウトマンは人間不信になっただろう。
ただ好きな格好をしてるだけ。
格好良く男っぽい千陽、可愛い女っぽいヒロミ、成人しても高校生に見えるゴスロリのミー、ヤンキー服が好きな俺。
そんな4人の俺たちは、一生涯の友達を続けていく。
「普通」の男女だ。
あのネモフィラの丘で愛を叫んだ日から10年。
コキアの紅葉が風に舞い、秋の空が茜色に染まる中、俺と千陽は新たな誓いを立てた。
丘の頂上から見下ろす景色は、10年前と同じく幻想的で、未来への希望に満ちていた。
「リュウちゃん、これからもずっと隣にいるよ。一生のパートナーだもん」
千陽の手が俺の手を握り、その温もりが秋の冷たい風を忘れさせる。
「あぁ、お前が隣にいりゃ、それで良い」
俺たちは紅葉の丘で、再び永遠を誓った。




