五重の塔4
あの後、W-サーチを起動して本物を見分け、標的に剣を投げた。トキにはタイムラプスを使ってもらい、敵は動けぬまま剣に貫かれて即消滅。今、シラスが復活したところで、俺たちは三階へと上がった。ドアノブを捻り、部屋に入る。
「やっと半分クリア……って、ここ、めちゃくちゃ暑いな。」
三階だけ、明らかに室温が高い。まるでサウナのような蒸し暑さだ。今回もすぐ隣に立て札があったので、試験内容を確認する。
「全員中に入ると、奥のタイマーが起動する。十分経てば四階への扉が開く。」
今回は耐久戦らしい。確かに暑いが、耐えるだけなら大したことはなさそうだ。全員が入ると、背後のドアが閉まり、タイマーが作動する。
「今のところ何とかなりそうだな。はぁ、制汗剤でも持ってくればよかった。」
「勇。炭ならあるよ。」
「なんでそれが代わりになると思った?ていうか、なんで炭なんか持ってきてるんだ?」
「だって、今日はバーベキューするんだろう?」
本気で言ってるのがすごい。何を聞いてきたんだ、今まで何を見てきたんだ。真実を教えてやるか。
「違うよ。クリスマスパーティーに使うんだよ。」
「それなら悪い子にしかあげちゃダメよ。」
トキが横から口を挟む。なんで知ってるんだよ。
「もしかして、サンタもこの世界にいるのか?」
「もちろんいるわよ。」
え、いるの?クリスマスもあるの?
「てか、神は幻想よとか言ってなかったっけ?」
「ただのおっさんはどこにでもいるわ。」
「言い方、もうちょっとなんとかならんか。」
子供のために頑張ってる人たちに、なんてことを言うんだ。
「それで、火種はどれだい?」
まだバーベキューする気でいるやつがいる。脳みそウェルダンに焼けてるんじゃないのか。
「・・あと八分もあります。このまま耐えきれますかね?」
シエンが不安そうに呟く。
「あ、服が消える魔法の粉ならみんなの分買ったぞ。」
「それは服を脱ぐ手間が省けるわね。」
あれ、冗談で言ったのに。意外と名案だったりするのか?
「そんなわけないでしょ。後で殺す。」
「サラッと言うな。もうちょっと歯に絹着せてくれ。」
暑さでいつもよりキツくなってるな。早く十分経たないかな。
「怒ってるのは別のこともあるわ。まさか、十分ずっと耐え続けるつもり?」
「え?でもそういう試練だろ?」
「違うわ。十分経てば扉が開くだけよ。十分耐えろとは言われてないわ。」
また一休さんみたいなこと言ってるな。つまり、トキが言いたいのは、
「なら、さっさと扉をぶっ壊して次に進もうってことか。」
「そんな物騒なことしないわ。ちゃんとピッキングで開けるわよ。」
そういえばこの人、過去に悪い組織にいたんだっけ。
「あなた、私のことどう思ってるのかしら?」
「少なくとも足向けて寝たことはない。」
「いい回答ね。ギリギリギリ許すわ。」
「ギリ一個多いけど。」
「許すのにもう一つ必要だったの。」
「そいつは感謝だな。」
許されたことだし、早く脱出させてもらおう。
「もう開いたわよ。行きましょ。」
そう言って、扉を開けて階段のある通路に出るトキ。俺たちもすぐに続いた。涼しい。さっきの場所から来た身には天国のようだ。
「全く、温度がこのままならまだしも、もっと上がる可能性もあったわよ。ちゃんといろんなことを想定してちょうだい。」
「確かに、すまん。」
トキの言う通りだ。あのままなら耐えられたけど、あのままである保証はなかった。もっと柔軟に考えないと。
「いいわ。それより、何かいいアイテムない?汗で体がベトベトだわ。」
そう言われると、思わず視線が下がりそうになり、なんとか堪える。二人とも薄着だし、下着が透けたら大変だ。
「あ、そういえばこういう状況に使える面白いものがあったんだ。確か・・これこれ。」
そう言って、ポケットから水色のガラス玉を取り出す。
「それ、何ですか?」
シエンが不思議そうに覗き込む。
「あぁ。確か魔力を込めると・・。」
そう言いながら力を込める。待てよ、魔力ってどうやって込めるんだ?異世界なのに、魔法っぽいこと一度もやったことないぞ俺。
「それは魔力がないからよ。貸して。」
魔力が豊富なトキがガラス玉を奪う。トキの手のひらに触れた瞬間、ガラスが弾けて大量の水が飛び出し、みんなびしょ濡れになった。
「・・。」
空気がしんと静まり返る。この空気、どうにかしないと。
「ほら、汗が流れたろ?」
「何してくれるの?」
「俺?!俺っすか先輩。汗でベトベトって言ってたじゃん。」
「下着が透けたら大変だって、どういう意味かしら?」
「分かった。乾かせばいいんだろ。秒は、セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に・・。」
「無味乾燥な話でごまかせるわけないでしょ。」
通じただけで俺は満足だ。こうして、しっかり右腕を折られつつ、三階をクリアした。