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陰と陽

あれからすぐに街に戻り、シャワーを浴びて一息ついた後、冒険者ギルドへ向かう。ギルドの中はいつも通りの喧騒が広がっていて、奥のカウンターで女子二人が手続きをしている姿が見えた。どうやら、あの巨大なミミズを倒したことは相当な功績らしい。



「周りの歓声は僕に向けてのものなんだね。なんせ、僕が倒したんだから。でもなぜか記憶がないんだ。勇、どうやって倒したのかと、何で死んでしまったか教えてくれるかい?」



シラスが不思議そうに言う。



「まぁ過程はいいじゃねーか。重要なのは、結果と五体満足で帰れたかどうかだ。シラスのおかげでクリアも出来てるし、気にすることは何もねぇよ。」



「ふむ、それもそうだな。なら大丈夫か。」



シラスは納得した様子で、適当な椅子に腰を下ろす。ちなみに、質問はニ度目だ。こいつは二度死んだことを覚えているんだろうか?まぁいらないことは言わないでおこう。



「あんたらすげーんだな。でも、もう難しいクエストに行かなくてもいいんだぜ?」



その時、後ろから声がかかる。振り向くと、二人組の冒険者がこちらを見ていた。



「そうそう。もう最強の転移者が出てるんだよ。魔王もそいつが倒しちまうよ。」



やはり、既に俺より前に転移者がいるようだな。勿論、難しいクエストに行くつもりは今の所全くない。そもそも俺のステータスで魔王を倒すのは無理だろうし。



「ほう、この僕よりも最強という事か?」



腕を組んで、自信ありげに言うシラス。お前は無敵だけど、強さという意味では正直微妙だぞ。



「奴らは桁違いで最強だよ。神と転移者たった二人のパーティーで、初っ端からギルドを悩ませていた最難関クエストを一瞬でクリアしたって話だ。」



「陰と陽って呼ばれてる二人組だ。今も各地で魔王の手下を次々と倒しているそうだ。」



「へぇ。初っ端から強かったということは、やはりPSが強いのか?」



俺は興味を持って話に入る。どうやら他の転移者たちは、普通にチート能力を手に入れているようだな。



「そうだ。奴のPSに巻き込まれたら、敵味方関係なしに、皆一歩も動けないまま死に至るという噂だ。もし会ったとしたら、あまり関わらないほうがいい。」



その話を聞いて、俺はちょっと興味が湧く。相手の動きを完全に止めてから殺せるスキルなんて、聞くだけでも強力だ。



「やったわ、たくさん報酬を手に入れたわよ。」



「トキさんすごいです!やりましたね!」



そんな不安をかき消すように、女子達が陽気に帰ってくる。なんかセリフにほんの少し違和感があるな。まるで今報酬が増えたみたいな。となるとつまり・・、



「まさか二体分の報酬が貰えたということか?」



立ち上がり、シラスに聞こえないよう、トキに耳打ちをする。



「何言ってるの?そんなわけないじゃない。」



トキが冷静に答える。うーん、でも、あの表情、ちょっと過剰に喜んでいるような気がする。



「三体分よ。」



トキがにっこりと答えた。



「俺の思考の上をいくのやめてくれるか。」



驚きで姿勢が崩れる。どうして二体分が三体分になるんだ?



「二体なんて足りないわよ。だってこっちは二体目の存在を知らなかったせいで死にかけたのよ?」



死にかけたどころか死んだ奴いるけど。どうやらそんなことは無かったらしい。



「貴方にもちゃんとお金分けてあげるわよ。」



「人はいずれ死ぬもんや。」



俺は自分の考えを打ち消すように言う。



「でも、死にかけた証拠なしにあっさりと増やしてくれるんだな。」



お俺は怪訝そうにそう言う。



「証拠ならありますよ!ほら!」



そう言いスマホを見せてくるシエン。そこには、シラスがモンゴリアンデスワームに食われる動画が映っていた。



「なんで撮影してたんだ。楽しむためか?」



俺は思わずサイコパス診断を始める。



「確かに面白いですけど、証拠用にですよ。倒した記録とかも、この携帯で管理していますし。」



うん。診断結果は陽性。サイコパスで間違いない。全く、不謹慎にもほどがある。この動画、シラスにだけは見せるわけにはいかないな。



「となると僕の有志も映ってるんじゃないのかい?」



シラスが不意に立ち上がり、画面を覗き込んでくる。やっべ・・と思った瞬間、シラスはスイッチが切れたように、そのまま倒れた。



「危なかったわね。」



後ろからトキが現れ、シラスに眠りの魔法をかけたようだ。ファインプレーだ。



「ちなみに今のうちに聞いておきたいんだが、シラスは死んだ時に元々持ってた物もいっしょに復活するって言ってたよな。つまり、シラスに金渡しといた殺して奪ったら、復活する時にまた金も復活するのか?」



俺が冗談半分で聞いてみる。



「恐ろしい事考えるわね。貴方のサイコパス思考にはついていけないわ。」



トキが少し引き気味に答える。



「勇さんサイコパスだったんですね。」



シエンも目を丸くして驚く。



「でも、それは無理よ。身につけてた物が他の場所にあった場合、それが無理やりシラスの棺に転送されるらしいの。だから五分以内に使えば問題ないけど、中々実用的ではないわね。」



成る程、だから実用性のある爆発させられてるんだな。にしても、トキもそれを聞いていたって事はやっぱり同じことを考えていたんじゃ・・。



「さぁ、ここにもう用はないし宿に戻るわよ。あんまり周りに情報も渡したくないしね。私たちの秘密は、私たちだけのものよ。」



なんて視線を送ると、そのままスタスタと外へ向かうトキ。こいつ、逃げたな。そしてシラスは俺が運ぶのか。面倒だなぁと頭を掻き、担ごうとする。



「あ、担がなくていいわよ。どうせここで復活するんだし。」



あの一瞬で殺人事件が起きたと思うと、身震いが止まらなかった。何がサイコパス思考にはついていけないだ。超えてきてるじゃねーか。


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