負けは負け
「く、最高だよ!本当に!」
俺の渾身の二撃を受けても尚、立ち上がる相手。だが、相手は一瞬よろめいただけで、にやりと笑いながら立ち直る。拳が痛む。打撃じゃあこれが限界だ。今の俺には倒せないだろう。さっきの技も、連続して使うとメチャクチャ疲れるし。
「さぁ!続きをやろうか!」
「いや、悪いが降参だ。」
「な!」
という事で、やる気な相手をよそに、両手をあげレフェリーにそう伝える。スキルの全容が見えた今、相手の圧倒的な力量に背筋が凍る。だが、星の涙は手に入る。それだけで十分だ。この戦いを続ければ、俺の負けは目に見えている。ここは戦略的撤退・・いや、降参が賢明だろう。後は、彼から情報を聞き出してみるとしよう。
「・・分かりました。勝者、シユウ!よって、二体一で、やられ役チームの勝利です!」
「「うおおおおおお!!」」
レフェリーがそう高らかに告げた後、会場全体から歓声が湧く。その間に、陰と陽と話をしておこうと、二人の元へ向かう。
「勇くん、お疲れ!最後、私のPS使われてたでしょ?やっぱり相手、半端なく強かったよ。よく戦ったね!」
「気づいたのか。まぁ、次使われたらどうしようもなかったけどな。それより、二人はこれからどうするんだ?」
「うーん、とりあえずサンペドロを回ってみるつもり!勇くんは?」
「俺はあのシユウっていう男を探ろうかな。もしかしたら、転移者かもしれない。」
「能力的には全然あり得るね。」
「・・そんな余裕があればいいけどな。」
会話をしていると、ぼそっと意味ありげな言葉を放つ陽。何かあるのか?
「・・あれ。なんか、殺気立ってない?」
そう言い、周りを見渡す陰。つられて俺も周りを見渡した。確かに、観客席の奴ら、武器を取り出してんな。何をする気だ?
「さぁ、星の涙は一旦やられ役チームに渡ります。どうぞ!」
そして、レフェリーが星の涙を透明なケースごと持ってきて、俺に手渡しする。今、一旦って言ったよな。嫌な予感がする。
「では、ここからは無法地帯!治外法権!縛るものはありません!皆、お好きにどうぞ!私は逃げます!」
「「おらぁあああああ!」」
観客席から中央の俺たちに向かい、一気に人がなだれ込む。え、まさか俺が狙われてる?
「これはやばい!どうにかできないか?!」
「ふん。」
焦ってる俺の横で、自分につけられた鉄の腕輪を引きちぎってる陽。え、化け物なのか?
「ほら、お兄ちゃんが居れば大丈夫だよ!これぐらい何とでもなるよね?」
「あぁ。さっさと出るぞ。A-Rock。」
そう陽が呟くと、数十メートル先から、俺たちを囲う様に突っ込んできていた人間達が、全員揃って動きを止める。そのまま陽は出口の方に歩き出した。全然隙間はあるし、普通に出れそうじゃん。すごっ。
「へぇ、すごい技だね。でも逃がさないよ。」
すると、陽の前にシユウが立ち塞がる。しまった、コイツがいた。動きも止まってないし、やはり強敵だ。
「・・やるか?」
「そだね。君の技はまだコピーできてないし。と言っても、コピーしきれる気はしないけど!」
そのまま陽に向かって突っ込むシユウ。途中で、陽が目を押さえヨロめいた。
「ちっ!陰、目をやられた!」
「はいタッチ、これで大丈夫!お返しのD-view!こうやるんだよ!」
そう言い、陽の幻覚を解除し、突っ込んでくるシユウの眼前に光を作り出す陰。成る程、あーすれば目眩しになるわな。
「って効いてない?!」
「悪いが、解除の仕方もコピー済みだ!」
「ええ!私だけの技だったのに!」
そのまま足を止め、対峙するシユウ。そしてタイミングを読み、陽の前に急に現れ、顔面に向かって拳を繰り出した。
しかし、その拳は顔に到達する直前で、強めに弾かれる。それにより、体制を崩し、後ろによろめくシユウ。下を向き、プルプルと震えていた。
「んー凄いね!今日は本当にいい日だ!こんなにお宝があるなんて!」
そのまま顔を上げて叫ぶ。お宝とは、俺たちの技のことだ。陽は今、PSを使って攻撃を防いだんだろう。物理攻撃の反射までするとは、やはり化け物だな。しかし、このまま陽の技までコピーされると、どんどん強敵になってしまうな。
「勇くん、早く逃げて!お兄ちゃんが本気を出すと巻き添えを喰らうから!」
「らしいね。現に、体が動かん。」
そう。逃げたいんだが、周りの奴らと同じ様に、動きを止められてるんだ。一人一人動きを止めていくなんて無理だろうし、まとめて動けなくしたことで、味方も止まるんだろう。陰とシユウはどうやって動いてるんだろうか。
「あ、ごめんごめん!知らないと解除できないよね。でも、私はここを離れられないし・・。」
「また幻覚を使われるとキツイしな・・。ん?向こうからなんか来てないか?」
ふと出口の方を見ると、こちらに向かって一台のトラックが突っ込んで来ていた。これ、轢かれないか?
「勇くん!」
迫り来るトラックのエンジン音が轟音となって鼓膜を震わせる。タイヤが地面を削る音、排気ガスの臭い、全てが鮮明に感じられた。必死に体を動かそうとするが、筋肉は微動だにしない。冷や汗が背中を伝う。トラックのヘッドライトが眩しく、目を細める。その光が刻一刻と大きくなっていき、トラックのフロントグリルが目の前まで迫る。衝突の衝撃を予感し、思わず目を閉じる。そのとき、突如として耳をつんざくブレーキ音が鳴り響いた。同時に、タイヤが地面を引っ掻く音と、金属がきしむ音が聞こえる。予想していた衝撃はなかった。恐る恐る目を開けると、トラックのバンパーが鼻先数センチのところで止まっていた。




