決勝戦
「「うおぉおおおおお!」」
周りから湧き上がる歓声が、闘技場に響き渡る。そりゃあそうか。やられる役で呼ばれた細身の部外者が、一発で筋肉質の男をぶっ飛ばす。番狂わせもいいとこだろう。
「なんと!まさかの一発KOでラース敗北!あの細腕のどこにそんな力があるのか!これは今回のやられ役チーム、期待が持てそうです!」
レフェリーが驚いた様子で実況をする。やられ役チームって、偏見が酷いな。
「ね?凄いでしょ!」
そんな事は気にせず、近くではしゃいでる陰。先程の戦い、陽は瞬きする間に相手のところに移動し、高速アッパーで相手を吹っ飛ばしていた。速度は師匠レベルだ。
「凄すぎだな。でも、俺達も勝たねーと意味ねーぞ。陰、無理そうなら言えよ。」
「大丈夫だよ!勇くんこそ、ダメそうなら言ってね!」
陰は笑顔で返す。
「そうだな。そうならない事を祈るよ。」
陰も表情を見るに、大丈夫そうだな。問題は俺だが、新しくできた必殺技もあるし、多分大丈夫だと信じたい。どっちにせよ、最初よりはいい状況だ。逃げなくても良さそうだし、なんなら優勝も見えてくる。
「それでは次の対戦、帽子の少女と、力自慢のオーガだ!」
続いて二試合目が始まる。さっきも力自慢だったと思うが。この街は力で全てが成り立ってんのか?
「両者、前へ!」
「それじゃ、行ってくるね!」
レフェリーの声を聞き、相手の方に歩きながら、クルッと一度こちらを向く陰。
「では、試合開始!」
「喰らえやぁ!」
試合開始の声とともに、真っ直ぐ陰に突っ込んでいくオーガ。そのまま、右腕を振りかざし、陰の顔を目掛けて殴りつけた。それを簡単に、ひらりと横に躱す陰。瞬間、相手が前のめりに倒れた。
「はい終わり!勇くん、ハイターッチ!」
「お、おう!」
こっちに片手を上げながら歩いてくる陰。その手のひらに合わせて、俺の手のひらをパンと重ねた。隠れて見えなかったが、多分相手の勢いを利用し、カウンターで鳩尾に拳を放ったんだろう。にしても一撃とは、腕力も凄そうだ。
「何と今回も瞬殺!これは大波乱となって来ました!」
またもや湧き上がる歓声。俺たちが勝つのは、よほど珍しいらしい。まぁPSを封じられてる以上、見た目からしてこっちが勝つビジョンは見えなかったしな。
「次は勇くんの番だね!」
その中、陰にググッと背中を押される。
「待て待て。俺はお前らほど優秀じゃねーんだよ。」
足を踏ん張り、少し抵抗をする。三人目の相手も、見るからにガタイがいい。どうせ力自慢の何とかさんだろう。負ける可能性は大いにある。
「勇くんは大丈夫だよ!ほら、頑張って!」
抵抗も虚しく、相手の前に立たされる。何を根拠に言ってるのやら。そしてどうやら先に二勝してても、消化試合は行うらしい。これでは戦わざるを得ない。元々そのつもりだったからいいけども。
「それでは期待の三試合目!勝敗はもう決まっているが、最後サンペドロの意地を見せることができるのか?試合開始!」
レフェリーの試合開始の合図と共に、三人目の男も突っ込んでくる。どいつもこいつも、えらい単調だな。俺の顔面目掛けて繰り出された拳を横に躱し、相手の腕を両手で掴む。そして、相手の力を利用し、クイっと力を押すように入れた。そうすることにより、前方に一回転させて転ばせたのだ。
「ガハ!」
仰向けに倒れる男。後は起き上がる前に、顔面に寸止めで拳を叩き込む。これで相手に降参させ、見事勝利したのであった。スタスタと陰のいる方へ戻る。
「やっぱり余裕だったじゃん!イェーイ!」
片手をあげ、ハイタッチを求めて来た陰。それに応じ、手のひらを陰の手のひら目掛けてぶつけておいた。えらく順調に進んでるな。もしかしたら、この状況もトキの想定通りだったのか?だとしたら見捨てられたのも納得いく。単純に見捨てられただけの可能性もあるけど。
その後、二試合目も順調にクリアし、そして早くも決勝戦である三試合目を迎える。
「さぁいよいよ最終戦!優勝したチームには、星の涙が与えられます!」
そう言ったレフェリーの横には台座が設置されてあり、その上に、透明な箱に入った、虹色の涙の形をした宝石が置いてあった。
「これは、所有者に幸運を与え続けるという、夢のアイテムです!ぜひ勝ったチーム内で上手く分けてください!」
へぇ、一回きりじゃなさそうなんだな。そりゃあいい。ただ、一個しかないってのが気がかりだ。
「幸運ねー。私達はいらないかな。あんなの必要ないし!ね、お兄ちゃん。」
「好きにすればいい。」
え、勝ったら俺にくれるのか?これが最強の転移者の余裕か。ありがたい。是非、運なしの代名詞であるこの俺のものにしたいものだ。運がないせいで、今まで散々な目にあってきたし。
「ただ、今回も勝てればだけどね。相手、普通に強いよ。」
「え、そうなのか?」
陰にそう言われ、相手の方を観察する。確かに二試合しておいて傷一つないし、最初戦った奴らみたいに、ニヤニヤと笑って慢心をしてるってことも無さそうだ。俺は喉の奥が乾くのを感じた。これまでの相手とは明らかに違う雰囲気を持っている。本当に勝てるのだろうか?不安が胸の中でうねりはじめる。
「特にあの水色髪の男、只者じゃないと思う。PS有りでも正直不安。」
「俺なら余裕だ。」
不安そうにする陰の横で、余裕そうに腕を組んでいる陽。彼はいけるらしい。俺は二人の対照的な反応に戸惑いを覚える。陰の不安と陽の自信、どちらを信じるべきなのか。この状況で自分にできることは何なのか。焦りと期待が入り混じった複雑な感情が胸の中でぐるぐると渦巻いていた。あの水色と陽が当たることを祈ろう。陰ですら厳しい可能性があるなら、俺は絶対無理だ。
「それでは今回は順番を変えて行きましょう!一試合目は、今大会の紅一点とバーストだ!」
特徴を呼ばれ、前に出る両者。水色のやつではなさそうだ。俺と水色のやつが当たる確率は二分の一。ま、大丈夫だろう。こうして決勝戦第一試合が幕を開けた。




