サンペドロの影
「ここが今回のクエストの場所か。」
あれから一週間。また新たに依頼を受け、目的地へとたどり着いた。眼前には風化した石の城壁がそびえ立ち、街を円形に囲んでいた。乾いた風が砂埃を巻き上げ、喉の奥まで砂っぽさを感じる。俺はその外にパーティーメンバーと突っ立っているところだ。街の外は荒野で、緑一つ全く見当たらない。まるで戦争で焼き尽くされた後のような感じだ。
「それで、今回は何をするんだい?」
案の定今回も何も知らされてないシラス。と言っても俺も聞いてない。こんな知らない街で何をするんだろうか。
「この街、どうやら敵の転移者がよく現れる見たいなの。今回はその調査よ。」
「へぇ。そんなことよく分かったな。」
敵が転移者を呼んでたことですら、つい最近になって俺らが発覚させたのに。
「意外に目立って動いてるみたいよ。何でも、敵が管理している闘技場があるとか。それも、人対人で。」
最後だけ声のトーンを少し落とすトキ。
「まさか、死人が出たりしないよな。」
「勇さん。それが、ここに関してはあり得るんです。なんせ、法がない街らしいですから。」
シエンのその言葉を裏付けるかのように、殺風景としたコンクリートの壁がそれを物語っている。そんな危ないとこの調査だから、転移者にさせるんだな。中にはゴロツキみたいな奴が沢山いるんだろうか。
「そんな街に来て大丈夫かい?レディ達が襲われないか心配なんだけど。」
「大丈夫よ。何かあっても、シラスが守ってくれるでしょう?」
「ふ、僕に任せてくれたまえ。」
よし、言質とった。彼には俺の分まで頑張ってもらおう。
「それに、最悪魔法の力があるしね。」
「魔法の力?とうとうそんなものが使えるようになったのか。」
俺も修行でPSを強化したが、皆もきっちり強くなったみたいだな。
「ええそうよ。すごく便利なの。」
「へぇ、そりゃいいな。どんなやつなんだ?」
「最強の液体よ。かけた所をドロドロに溶かすの。」
「いやそれ科学の力!この世界で魔法って言ったらダメなやつだ!」
案の定、塩酸と書かれた瓶をポケットから取り出すトキ。それは魔法みたいなもので、魔法ではない。
「さっきから何うろうろしてる。さてはサンペドロに入りたいのか?」
すると、城門の方から屈強な男が近づいてきて、声をかけてきた。ここの門番だろうか。
「ええそうよ。丁度いいわ、入っても良いかしら?」
「ほぅ、アンタみたいな可愛い女の子達が入って、どうなるか知らないぜ?」
トキとシエンを見て、ニヤリと口角を上げる男。柄が悪い。入り口からこれとは、先が思いやられる。ここは一つ、大丈夫と言うことを知らしめてやるか。
「それに関しては大丈夫だ。握力百ぐらいある時点で女ではなくメス呼ばわり・・待ってくれ、否定したいなら握力で腕を折ろうとするな。そしてそっちはもう折れてる。」
「指がまだだったことを思い出したの。」
指をポキポキと鳴らし、俺の右腕を掴むトキ。全部持ってく気か?
「大丈夫、折るのは二十一回だけよ。」
「少なくともどこか一本オーバーキルされとるやんけ。俺も守ってやるから辞めてくれ。」
最もらしい理由を言うと、しぶしぶと離れていくトキ。そこは離れるのか。絶対護衛必要ないだろ。
「と言うわけで、彼らが守ってくれるから心配ないわ。」
「そうか。じゃあ早速、俺から守ってもらおうか。」
前に出て、腕をぐるぐると回す男。やっぱ前途多難だ。どうしよう。
「いえ、貴方には敵わないわ。だから、彼の命で何とか許してもらいないかしら?」
なんて思ってると、隣でトキに背中を押され、前に出るシラス。シラスはえ?と言った感じで戸惑っていた。
「レディ、そんな事しなくてもこの僕がグハ!」
何かをされ、その場に倒れ込むシラス。ここから茶番が始まった。
「ごめんなさいシラス、行き別れた母に会うためにはこの方法しかなかったの。」
「シラスさんごめんなさい、貴方のことは一生忘れません。」
下を俯き、鼻を啜るトキとシエン。くそ、俺に力があれば!と言った感じで、俺も拳を握りしめた。
「おいおい、そこまでやる必要は無かったんだが・・もういい、入国許可を出そう。腕をだしな。」
猿芝居を終え、指示通り腕を出すと、細い鉄の輪っかを嵌められる。何だこれ。爆弾とかじゃねーよな。
「これがあれば、扉の前のセンサーが感知して、中に入れるぜ。外す時は城門にいる人に声をかけてくれ。」
そう言い、戸惑いながらも道を開けてくれる屈強な男。まぁ流石にいきなり味方を差し出したら驚くわな。
シラスには目もくれずスタスタと横を通り過ぎ、門をくぐり街の中へと入る。視界には、等間隔に並ぶコンクリートの建物が広がった。街の中も無機質で、人影はほとんど見られない。
「さて、まずは情報収集も兼ねて、買い物でもしましょうか。」
「そうですね。ただトキさん、この街はまた独自の通貨を使ってるので、お金を稼ぐところから始めないといけません。」
街ごとに貨幣が違うのか?両替とか出来るところがあっても良いと思うけど。
「それなら大丈夫よ。さっきの人からお金を貰ったわ。」
巾着を手に持って掲げるトキ。個別に会話してる感じはなかったんだが。という事は・・。
「・・盗んだのか?」
「人聞きが悪いわね。ちゃんと貰ったのよ。」
珍しい。法律が無いとか言ってたし、絶対盗んだんだと思った。
「見かけによらず優しい人だったんですね。」
「ええ。いくらでも持っていいぞ!ですって。」
「そんなこと言ってたか?」
「そんな目をしていたわ。」
いややっぱり盗んでんじゃねーか。都合の良い解釈してるだけだろ。
「酷いやつだ。普通、盗んだ金使うなんて気がひけるだろうに。」
「勿論私もよ。ちゃんとマネーロンダリングしてから使いましょうね。」
いやそれ資金の出どころをわからないようにするものだから。罪悪感消すものじゃねーし、そもそもそんなんじゃ消すことにはならん。
「あんたら旅人かい?換金が済んだ後ってとこだな。」
他愛もない会話をしていると、またもや一人の男に声をかけられる。中肉中背と、普通の一般人を具現化したような感じだ。明るい声、敵意はなさそうに見える。
「ええ、そうよ。この街はたまたま見つけたの。折角だから寄ってみたって感じね。」
目的がばれないよう、適当な嘘をつくトキ。
「なるほど、そりゃあ良い。案内してやるよ!」
「助かるわ。是非お願い。」
「おうよ!いいとこに連れていってやる!ついてきな。」
そのまま案内を受け、スタスタとついて行く。街の奥に入るにつれ、背筋に冷たいものが走る。周りは不自然なほど静かで、人の気配すら感じられない。まるで街全体が俺たちを飲み込もうとしているかのようだ。生活感はあるので、まるで今日急に人がぱって消えたみたいな感じだ。どうなってんだ?
「トキ、怪しいぞ。さっきから人の気配がない。」
パーティーメンバーにしか聞こえないよう、小声で話す。
「そうよ。これは罠。今はあえて罠にかかったフリをしてるの。」
「やっぱりそうだよな。騙されるわけないか。」
「もももももちろんです!」
ちゃっかり騙されてたなシエン。
「でも罠にかかるのはいいが、シラス無しで大丈夫か?俺らは残機ゼロだぞ。」
サクリファイスは俺らがこの街に入る為に、門の外に置いて来たままだし。
「大丈夫よ。こっちには転移者がいるんだから。」
おい待て、今まで一緒にクエストしてきて、何をどう見て判断した。サラッと言える実力じゃねーだろ。まぁ、策があるって事で良いんだよな。
「着いたぜ。ここがサンペドロ名物、闘技場だ。」
数分歩いてると、ドーム状の壁で囲まれた不穏な空気を放つ建物が、目の前に聳え立った。
「闘技場?何と何が戦うのかしら?」
目をワクワクさせて、知らないふりをするトキ。
「そりゃあ人間同士だよ。優勝賞品、今回は星の涙欲しさに殺し合うのさ。」
星の涙、また随分凄そうな名前だな。
「命をかけるほどの価値が有るものなのね。」
「ふ、半分は強制的に参加させられてる奴だよ。」
強制的?奴隷とかってことか?
「そう、お前らみたいにな。」
瞬間、意識が朦朧としてくる。頭の中で警報が鳴り響くが、体は言うことを聞かない。やがて眼前には黒い幕がおり、そのまま地面に倒れ込んだ




