約束
「ごめんね勇くん。私が仮面の転移者をしっかり仕留めてれば・・。」
「見逃したのは俺も一緒だ。そんな事より、できることを優先しよう。」
走りながら、状況を整理する。トキが俺の元に来ていないと言う事は、先に那由多と会っている可能性がある。今何をしてるかは知らんが、助かっていても全然おかしくない。
「前方に三人立ち止まってる。およそ三百メートル。」
すると、何気に後ろについてきていた陽が、状況を説明してくれる。前方は木々に阻まれて何も見えてない。そんなこと、どうやって分かってんだ?
「不思議そうな顔をしてるね。嘘じゃないよ。お兄ちゃんは、魔力を操るの。この森に魔力をばら撒いて、動くものを感知してるから、人数がわかるんだよ。」
横で表情を読み取って陰が解説をしてくれる。なるほど、だから視界を奪っても、俺らの周りに壁を作って閉じ込めたりできたんだな。
「あの俺たちを囲った壁も、魔力で作ったものなのか?」
「そうだねー。動きを止めるのも、相手の周りを自分の魔力で固めてやってるの。後は頭部だけを圧縮して・・。」
「陰、人の能力をペラペラとしゃべるな。」
「いいじゃん仲間なんだし!」
さっきは一度に黒い獣たちの動きを止め、同時に頭部を潰していた。つまり、数が何体いようが関係ないってことだ。そんなんチートだろ・・。
「良くない。こいつは敵を庇おうとしてるんだろ?邪魔するのであれば、殺す必要がある。」
「そんな事したら、私自殺するから!」
まいったな。どっちみち陽が居れば、那由多はセルゲイに殺されるかコイツに殺されるかの違いしかないんだよな。実力では絶対敵わないし、どうにか説得できればいいが。
「・・この話は後だ。警戒しろ、もう見える。」
陽が注意を促す。前方を見ると、確かに人影が見えた。顔を認識できた距離で、足を止める。そこには、今朝俺を送り届けてくれた人達がいた。
「遅いわよ。」
濡れた長い赤髪、声の主はトキだ。俺個人の問題だったのに、皆来てくれたんだな。
「悪い。来てくれてありがとな。で、なんで太郎がいるんだ?」
「俺も仲間だろ!来るに決まってるさ。」
来ても何の役にも立たないと思うが。
「勇、思ってても口に出したらダメよ。」
「いや、出してない。バラしたのはそっちや。」
心読みすぎてその辺の判断がわからなくなってるのだろうか。
「実は結構使えるのよ。彼のPSは使えない瞬間移動だけど、実は代わりに相手を移動させることもできたみたいなの。しかも、その場合視界の範囲だけじゃなくて、自分が一度行ったところで有ればどこにでも。」
「え、すげーじゃねえか。という事は、仮面をぶっとばしたのか?」
「その通り!今頃別の森を彷徨ってるぜ!」
確か一日一回の制限はあったと思うが、ナイスなPSだな。強敵にあったら簡単に逃げれるじゃねーか。
「でも、だとしたら那由多はどこに行ったんだ?」
「彼女は去ったわ。」
「そうか・・。」
やっぱり、メアリー・スーって奴のとこに帰ったのか。まぁ今日殺されなかっただけ良しとするかぁ・・。
「そう落ち込まなくていいわよ。明日、会うんでしょ?彼女言ってたわよ。」
「本当か?!」
那由多の言葉に、俺の胸に希望の灯がともった。同時に、彼女の安全を願う気持ちが胸を締め付ける。
「勇さん、もう一人では行かせませんからね。」
ほっぺをぷっくり膨らまし、説教をしてくるシエン。彼女も心配で来てくれたのだろう。本当に申し訳ないとは思ってる。
「分かったよ。よし、今日は帰るか。」
肩の荷が降りる。いつの間にか、雨も止んでいた。木々の間から差し込む陽光が、雨上がりの森の匂いと共に、勇の肌を優しく包み込む。
「勇くん良かったね!明日どーなったか教えてね!」
「あぁ。色々とありがとな。」
俺の後ろからひょっこりと顔を出す陰。
「む!勇、その美人さんは誰だ?」
あぁそっか。太郎は知らないよな。
「この人は、噂の最強の転移者だ。」
「陰です!勇くんとは近々結婚する予定です!」
そう言い、左手に抱きついてる陰。右手を避けてくれるなんて、なんて良い嫁なんだ。って気が早いぞ!
「な、なんだって?!こんな美女と・・許せん!祝儀の相場っていくらなんだ!」
許せんとか言ってる割に、祝う気満々やんけ。憎んだり祝ったり、脳みそ忙しいな。
「おい。そんなことより、明日敵とはどこで会うつもりだ?」
「絶対行かせないから!あとは任せて!じゃあね!」
俺から離れ、陽を引っ張って離れていく陰。最初から最後まで、彼女には助けられてばかりだな。
「勇さん、ずいぶんデレデレしてましたね・・。」
やばい、シエンが目を細めて怒ってる。話を変えないと。
「そ、そういえば結局あいつらに会ってしまったが、大丈夫だったな。陰はなんか俺のファンだったらしいし。」
「会ったから大丈夫だったのよ。」
ん?行く前は確か絶対会うなとか言ってなかったか?
「そうでも言わないと会えないでしょ。あなた運ないし。」
「納得だ。」
間も無く復活したシラスが合流し、送迎のバスが到着する。にしても、陰が俺のファンなのをトキが知ってたのは何でなんだろう。




