陽の能力
「チェンジ!」
「せっかく助けに来たのに、それはひどくないかい?」
ひどいのはそっちだろうが。どう見ても発注ミスじゃねーか。いや、待てよ。
「ちなみに、トキも来てるのか?」
「むぅ。来てるけど、レディは少しやることがあるみたいだよ。まぁ、僕の力だけで十分ってことだね。」
そう言い、不満そうにしていたが、すぐ開き直って髪をかきあげるシラス。こいつ、状況分かってんのか。でも、トキがそう判断したって事は、何かあるんだろう。ここは彼女の判断を信じるか。
「・・分かったよ。じゃあシラス。とっても言いにくいことなんだが、聞いてくれるか?」
「なんだい?」
「敵に近づいて自爆してくれるか?」
「勇くん、言いにくいことなら躊躇があってもいいと思うんだけど・・。」
「任せてくれたまえ!」
「いやせめてあなたは躊躇しようよ・・。」
とうとう拒否しなくなったなこいつ。
「宣告しただけでも優しい方なんだ。いつも他の仲間に急に殺されるからさ。」
「不定期に殺されてるの!?モルモット?」
その通り。彼は実験動物だ。
「ふん、爆発如きで私をやれると思ってるのか?その程度では死なんよ。」
「ものは試しだ!やっちまえシラス!」
「しかもお試し感覚・・。」
「くらえ!」
敵の横でボンと音を立て、爆発をするシラス。しかし今までの爆発とは違い、それは小規模のものだった。体一つ分ぐらいの爆発、あれでは横にいたのが俺だったとしても、大してダメージは入らないだろう。
「・・弾け飛んどけど、彼は大丈夫なの?」
「大丈夫だ。あいつ、特殊な訓練受けてるし。」
「そのセリフ、子供が真似しないように言ってるだけだから。実際受けてる人いないから。」
これが通じるとは。流石転移者。
「・・ちゃんと言えば、あいつは不死身だからまた復活するんだよ。」
「そうなの?!すごい能力だね!」
「あぁ。でも、ずいぶんしょぼかったな。全然効いてねぇぞ。」
「自爆させといてそれは酷いね・・。」
やばい、つい本音が出てしまった。どう誤魔化すか。
「悲しみが深いです。」
「訂正してももう取り返しつかないねー。」
言うだけマシなんだけどな。他のメンバーなんて訂正すらしないぞ。
「・・なんの余興だね?」
呆れて声を漏らすドクターなんとか。気持ちはわかる。
「うちの頭脳のやってることなんて、俺もよくわかってねーんだよ。」
「そうか、じゃあ死ね。」
先程と違い、不思議ともうピンチな気はしなかった。だって、トキが来てるんだし。それに、先ほど感じたおぞましい寒気。この二つで十分安心できる。
襲いかかってくる周りの黒い生き物達。それらが俺たちの元に到達しようとし・・。
「A-Rock」
その直前に、空中でピタリと動きを止めた。
「間に合ったみたいだねー。遅いよ、お兄ちゃん。」
「・・さっきまでお前が視界を奪ったからだろうが。」
颯爽と現れる最強の転移者兄。さっき陰が能力解除って言ってたのは、陽にかけていた能力の事だ。そのおかげで今辿り着けたと。
「それじゃあ、早く敵をやっちゃって!」
「・・俺に敵などいない。」
そう言った後、またおぞましい寒気がする。そして、すぐに全ての黒い獣の頭が押し潰されたように小さくなり、そのままパァンと音を立てて弾けた。残された胴体は、そのままチリとなって消えていく。噂は伊達じゃない。
「陽の方もいたのか。これはまいったねぇ。君の対策はまだできてないってのに。体が動かないよ。」
打つ手なしと言った感じに、困った表情を見せるドクター。アイツも動けないのか。ついでに、俺も巻き込まれて動けなくなってる。黒い獣と一緒に頭を潰されなくて良かった。
「俺の対策などできるものか。死ね。」
「おっと、でも逃げさせてもらうよ。」
陽がトドメを刺そうと、掌をドクターに向ける。その直前、ドクターの体に、黒い闇が纏わり付いた。それは彼の体を完全に覆い、地面に飲み込まれていく。そこにはもう誰もいない。一瞬の出来事だった。
「雑魚が、逃げやがって。」
「逃していいの!よし、勇くん。彼女を追うよ!」
「そうだな、急ぐぞ。」
いつの間にか動けるようになってたようで、吐き捨てるようにそう言う陽の横を、急いで走り去る。もしかしたら、まだ間に合うかも知れない。このまま殺されるなんて、悲惨な結末だけは回避しなければ。




