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陰の能力

「はい終わり。もう出てきていいよー。」



「すげぇな、流石転移者。」



「一応、君もだよ?」



うつ伏せにぐったり倒れ、動かない仮面の転移者に近づく。手首を触れると、脈はある。殺してはいないようだ。



「お兄ちゃんじゃないし、殺したりしないよー。寝てるだけ。」



「お兄ちゃんは相手を殺すのか?」



「まぁ、殺す事もあるかもね。」



だとしたら、早く合流した方がよさそうだ。



「もー、相手のことばっかり。私のことは気にならないの?」



目の前でぷくーと頬を膨らませる陰。



「あ、そういえばそうだ。怪我はしてないのか?被弾してたように見えたんだが。」



「そうそれ!あれは大丈夫だよ。私のPSって、幻覚だから。」



「幻覚?ってことは、あの時ゆっくり歩いてた陰の姿は、偽物だったのか。」



ん?だとしたら、いつから幻覚だったんだ?一瞬で違和感なく切り替えれるということか。



「そうだよ。ただ音は誤魔化せないから、正面から近づいてたのは事実だよ。十分近づいて、後ろから頭を押さえて、スリープをかけたの。雨の音がなかったら、バレてたかもねー。」



スリープの魔法。ゴミ虫レベルの奴にしか効かないと聞いていたが、直接触れて魔法をかければ効くみたいだな。俺が那由多にされたのも、同じものだろうか。あの時も触れられてたはずだ・・多分。



「・・にしても、すごい能力だな。と言うことは、今ここにいる陰ですら、幻覚の可能性があるってことだろ?」



陰の方に手を伸ばす。が、触れる直前で、後ろにピョンと躱された。    



「勇くんはどっちだと思う?」



後ろで手を組み、小悪魔のような笑みを浮かべる陰。



「そりゃあ、声がするし本物なんだろう。」



「分かった。じゃあこれならどうかな?」



そう言われた後、瞬きをすると、視界には横並びに三人の陰が映った。シュールな光景だ。



「誰が本物でしょう?」



少し離れているので、声の位置から場所を特定できない。だとしたら・・、



「W-サーチ。」



小声でPSを発動する。三人共と目を合わせたが、弱点は表示されなかった。



「この三人の中に本物はいないな。そのへんにしゃがんでるのか?」



下の方に視線を向ける。瞬きをすると、しゃがみ込んだ陰が現れた。



「正解!流石私の好きな人!」



嬉しそうに微笑み、立ち上がる陰。そのまま俺の数センチ前まで近づき、頬に手のひらを当ててきた。



「私は姿を消すこともできるし、増やすこともできる。目に映るものが本物か否かなんて、じっくり触らないとわからないんだよ。」



体温の下がった手のひらが 頬を撫で、そのまま肩に置かれる。



「貴方は、ちゃんと私を認識してくれてる?目を閉じたとしても、私がいることがわかるくらいに。」



「・・さぁな。」



陰の肩に手を置き、そのまま前に押し出す。実体があるし、今の彼女は本物なのだろう。でも・・



「幻覚を作れるんだ。もしかしたら、触覚を操れる能力もあるかもしれない。そうなったら、触ったところで何が本物で何が偽物かなんてわかりっこねーよ。」



「じゃあ、どうやって本物だって決めるの?」



「何が本物かなんて、どうでもいいだろ。自分が感じてるものを信じるだけだ。今ここに陰を感じてる以上、そこに実体があろうが無かろうが関係ねーよ。」



「・・勇くんは、変わった人だね。」



「幻滅したか?」



「ううん、寧ろ逆!」



笑顔で右腕に抱きついてくる陰。彼女の感触が、しっかりと感じられた。そこで急に陰の顔つきが変わり、右腕をペタペタと触ってくる。



「・・あれ、骨の形がおかしいね。何かあった?」



「あぁ、そういえばそっち折れてたんだわ。優しく頼むな。」



「痛覚が麻痺するレベルのダメージを受けてたんだね・・。」



それも驚くことに、仲間からな。



「それより、早く移動してしまおう。」



「そうだね。」



俺の腕の状態を見て、離れてくれる陰。人間って気遣いができるんだな・・。うちのパーティーメンバーにも学んでいただきたい。



「ちなみに、仮面の転移者はどうするんだ?」



「放っておいていいよ。別に脅威じゃないし、それに、ギルドの人に回収に来るよう伝えてるから!」



ならいいか。既に便利なものはいただいてるし。



「おっけー。行こう。」



「うん。ちょっと急ごう。仮面の転移者がいた以上、もう一人来ていると思うし。」



早足で森の奥へと向かう陰。はぐれないように、本物かもわからない彼女の後について行った。

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