犠牲
「おい、あいつ転移者だろ・・。」
「味方も強そうだな、どんなクエストを受けるんだろうか。」
冒険者ギルド、銀行の待合室を木造にしたような場所に到着する。中に入ると、一気に喧騒に包まれた。二、三十人の視線が一気にこちらに集まっているようだ。
「おいどうすんだ。薬草集めとか、簡単なクエストができる空気じゃねーぞ。」
周囲の視線が痛い。シエンにこっそり相談する。
「そうですね、このままだと私たちのパーティーが最弱だってバレてしまいます。そうなるとカモにされる恐れもありますから、ちょっと見栄を張りましょう。別にクリアできなくても問題ないですし。」
それが良いだろう。最悪うちのパーティーには神風特攻隊がいるし、クリア出来るかもしれない。
「それでは、適当にクエストを選んできますね。」
「私も行くわ。」
そう言いカウンターへと向かう女子二人。俺とシラスが視線の中に取り残される。
「因みに、シラスは普段どんなクエストを受けるんだ?」
アウェイな感じかして落ち着かないので、シラスに声をかける。この世界のことを少しでも早く理解しないといけないし。
「僕かい?基本的にはクエストよりも内職だな。」
じゃあなんでこいつ剣を装備してるんだろう。わけがわからないまま、周囲に視線を移す。やはり転移者ってのは珍しいらしい。そもそも転移者って、どれぐらいいるんだろうか。
「お二人共、ちょうど良いのがありましたよ!」
シエンが元気よく帰ってくる。めちゃくちゃ早いな。そして喜びようからして、クリア出来る余地があるということか。
「最近砂漠を荒らしてる、巨大人食いミミズの討伐よ。噂では、一度に村一つを丸呑みにしたそうよ。」
続いてトキも、腕を組んで優雅に帰ってくる。それを聞いた周りの冒険者が沸いた。
「すげぇ、流石転移者のパーティーだ。」
「あいつ、新顔だろ?あれを倒せるPSがあるというのか。どんな攻撃も通らないという噂だが・・。」
周囲からの反応を聞きながら、俺はミミズってブヨブヨじゃないのか?と一瞬思う。だとしたら、この世界のミミズはちょっと違うのかもしれない。
「なぁトキ。なんか攻撃が通らないとか聞こえたんだが、巨大人食いミミズがどんなのか知ってて受けたのか?」
依頼を選んだであろう本人に耳打ちをする。
「大丈夫よ。勝機はあるわ。ただし、犠牲は覚悟してね。」
トキは自信満々に即答した。少し怖い言葉が聞こえたが、策があるなら安心だ。俺がもし対策を練るとしても、手榴弾持たせたシラスを巨大ミミズに食わせ、内部から爆発させる「作戦サクリファイス」しか思いつかないが。
「へぇ、それは頼もしいね。どんな作戦なんだい?」
シラス(歩く時限爆弾)が興味津々で聞くが、トキは冷静に答える。
「あなたは最強だから、知らなくて良いわ。」
「成る程、それはそうだね。なら大丈夫だ。」
さっき言っていた犠牲って、まさか作戦サクリファイスに似た何かさせられる・・なんて事ないよな。そんなことやろうとしてるんなら、まじでサイコパスだぞ。・・となるとこのパーティー四分の三がサイコパスじゃねーか。それこそ、四捨五入したら百パーだそ。仕方ない、俺が確認しておこう。
「ちなみに、シラスの不死身ってのはどういう意味の不死身なんだ?例えば爆発して原型が残らなかった時とか。」
「もし死んだら、死ぬ五分前にいた場所に棺が召喚され、その中に僕が復活するんだ。原型が残らなかったとしても、体は五分前と一緒の状態になる。つまり何処か傷ついたとしても、五分以内に死んだのなら元どおりだね。まぁ何かあったらすぐショック死するし、爆発なんてしないだろうから、心配しなくていいさ。」
そう言い、片手で髪をかきあげるシラス。反応を見る為にトキの方を向くと、こっちに向けて無言で親指を立てていた。つまり、シラスは爆発する予定らしい。すぐに心配することになった。
「でも、大丈夫なんですかね?五分前も危険な環境にいたとしたら、永遠に死ぬこともありえるんじゃあ・・。」
「心配してくれるのかい?大丈夫さ、なんせ召喚される棺は無敵だからね。どんな攻撃も通さない。」
無敵の棺?ふーん、あいつの防御力全部そこに集中してるってことか。いや、待てよ。
「遅効性の毒を飲んだらどうなるんだ?」
五分前と同じ状態になるなら五分おきに死ぬことになるぞ。
「ふ、大丈夫さ。遅効性でも、人を殺すぐらいの毒ならば、飲んだ瞬間に死ねる自信があるよ。」
何も大丈夫じゃないけど、そう言うならまぁ問題ないのかもしれない。
「大丈夫よ。もしそうなったら、復活した途端にまた死んで、それを繰り返せばいいだけよ。どんどん五分前に戻っていくわ。」
あー、成る程な。シラスの使い方をこんなにも想定しているのか。巨大ミミズの対策もバッチリなようだし、トキはかなり頭が回るな。
「それじゃあ行きましょうか。場所は、ゴビの砂漠よ。」
出口に向かう一同。どうやらクエストを受ける者専用の乗り物があるらしい。建物を出てると、そこにはバスのようなものが止まっていた。それに乗り込み、後ろの一番広い席に座る。俺ら以外に乗客は居なかった。
初クエスト・・どんな感じなのだろうか。もしこの世界で死んだらどうなるのだろう。そしてシラスの防御力みたいに、俺の不運な分の調整は無いのだろうか。一抹の不安がムクムクと膨れ上がり、心を覆ってしまう前に、考えるのをやめた。