アンラッキーボーイ
「もう終わりよ・・。パーティーなんて組むんじゃなかった。」
「あぁ、なんてことだろう。摘んだ花には棘が生えていたんだ。」
「まぁそういうな。ほら、彼女の能力だってすごいんぞ。気づいただろう?この部屋に入ってからずっといい匂いがしているのを。」
「なんでスライム飾ってるんですかぁ!早く捨ててください!」
恥ずかしがってるシエンを横目に、がっくしと肩を落とした新メンバー二人を励ます。他人の力に縋
ろうとするからそうなるんだ。もっとも俺は最初のPSの時点で絶望してたから、そんなに絶望はしてない。
「PSが弱くとも、鍛錬すれば強くなれるんだろ?なら問題ないだろ。ちなみに、ステータスとかレベルといった概念はあるのか?」
シエンに問う。ゲームのようにステータスがあるなら、転移者補正でどっかの能力が飛び抜けてるかもしれないと思ったからだ。
「もういいですっ!ステータスはありますよ。神だけがグラフでパーティーメンバーの能力を見れます。見てみますね。」
一瞬フグのようにぷくっと頬を膨らませたシエン。そして携帯を操作し始めた。へぇ、スマホじゃねーか。こっちの世界にも携帯があるんだな。
「出ました!えっと、トキさんは素早さに長けてますね。それに魔力も十分あります!シラスさんは・・ゴホン、勇さんも・・ゴホン。」
「おいまて濁すな、スムーズに嘘をつけ。」
「バレなければ嘘をついてもいいって思想が恐ろしいわね。」
トキにツッコみを入れられる。何言ってんだ。バレなければ何してもいいに決まってるだろ。
「すみません、このようなステータス見たことなかったもので・・。」
シエンの反応からするに、間違いなくいいステータスではなかっただろう。だとすると大分ディスられたな。転移者とは一体なんなんだ。詳細を聞く。
「簡単に教えてくれるか?」
「そうですね・・勇さんは運が0、シラスさんは防御0ですね。でも安心してください。これ以上下がることはありません!」
「うん、シラスって僕のことっぽいね。略すのやめてくれるかい?」」
「悪い方で飛び抜けてしまったか。運無しか・・めちゃくちゃ腑に落ちるわ。」
講義しているシラスの横で天を仰ぐ。いい事したのに殺されるぐらいだ、運のなさは実感してる。それに加えて最弱の神のパートナーで、PSを使えずメンバーも弱い。普通の人なら、外を歩くことすら嫌になりそうだ。
「転移者はステータスもすごい筈なんですけど・・、まぁ落ち込んでても仕方ありません!私達は私達で受けれるクエストを探しましょう!宿代とかも必要ですしね。」
拳をぎゅっと握り、立ち上がるシエン。それを見て、どんよりとした空気が少し軽くなった気がした。へぇ、リーダーの器じゃねーか。伊達に神じゃないな。俺もまずは積極的に外に出て、この世界を知るとしますか。
「やれやれだね。こうなったら少しずつ経験値を積んでいこうか。そしたらPSも化けるかもしれないしね。」
「・・そうね。PSが進化するって話は私も聞いたことがある。そうなる事を祈って戦い続けましょう。」
シエンの影響で、皆のモチベーションが元に戻る。割り切ってくれたようで良かった。
「その前に確認だけど、皆はどれだけ魔法が使えるの?」
が、トキのその一言で、水を打ったようにしんと静まりかえる。いや、俺は知らんがお前らはなんか答えろよ。
「・・僕は近接系だからね。」
目をそらす様に横を向くシラス。どうやら使えないらしい。
「私は近接向きではないですけど・・あ、そう言えばお母さんが言うに、回復魔法を覚えてるらしいです。」
ふむ、自覚はしてないと。つまりどっちも四捨五入したら0か。しなくても0みたいなもんだけど。
「・・シラスにこれを渡しておくわ。こっちに来なさい。」
はぁ、とため息をつき、シラスに手招きするトキ。シラスが近づくと、腰に手を伸ばし、マントに隠れていた何かを渡した。チラッと見えたが・・手榴弾か?
「ありがとう、これで敵を倒せという事だね。。僕の華麗な戦い方に見惚れないように注意してくれよ。」
「ええ、敵も倒してもらうわ。」
ん?聞き間違いじゃなければ、敵「も」って言ったよな。邪推かもしれないが、暗に自爆しろと言ってないかこの女。
「さて、勇はどうする?あなたは何ができるの。」
トキの視線には鋭さが宿り、その問いかけには一切の冗談が含まれていない。俺は何ができるんだろうな。自爆は嫌だな。何かできるアピールしなければ。
「まぁとりあえず剣でも買っておくさ。シエン、金ってあるのか?」
話を逸らすように、シエンの方を見る。するとシエンはありますよと言って、布袋を手渡してくれた。
「転移者への支給品です。これで武器防具一式は買えるはずです。先に買ってきてください。」
「ちょうど良かった、僕の鎧も壊れたばかりなんだ。買ってきてくれるかい?」
「おっけー、ひとっ走り行ってくるよ。」
そう言い、逃げるように部屋を出る。あいつに防具は絶対いらないよな、どうせまたすぐに壊れるし。その後、自分用の武器と必要そうなアイテムを揃えた。街中には魔法で浮かぶ看板や、自動で動くゴーレムが行き交い、異世界ならではの風景が広がっている。そんな中、俺は皆と合流するため足早にクエスト受付所へ向かった。