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全知

「皆、先頭はもう着いてるわよ!覚悟して!」



列の中間ぐらいを走っていると、前方からトキの声が注意を促す。それを聞いて、あちらこちらに準備している道具の位置を確認した。よし、把握はできている、準備OKだ。前方には木々が倒れ、少し開けた場所が見える。ヴァルさんらしき人が立ってるし、リデルのいる所はあそこだな。



「皆様、気をつけてください・・。」



少し遅れてヴァルさんに追いつく。そこには激しい戦いが起こったであろう、凄惨な光景が広がっていた。

あちらこちらに見える爆発の跡。数十匹は居たであろう、化物の死骸。鼻をつんと刺激する饐えた香り。そう、死の匂いだ。そのど真ん中に立っているあいつこそ、死神なのだろう。



「おや、遅かったじゃないか。」



リデルの胸ぐらを片手で持ち上げたまま、こちらを振り向く高身長の女。真っ黒の長い髪が、遠心力で宙を待った。



「太郎!これで全部かい?」



「えーっと、はい!そうでございます!」



その後ろの方で隠れていた太郎が顔を出す。最悪な想定が当たっていたようで、仲間を呼んでいた。



「それじゃあ、後も殺すとするかい。」



後も殺す?まさかリデルは既に・・。



「大丈夫よ、転移者と神は死んだら消えるって言ってたでしょ。リデルはまだ生きてるわ。」



小声で話しかけてくるトキ。そう言えばそうだったな。となると、刺激しないように気をつけなければ。



「勇様、私が相手の隙を作ってお嬢様を助けます。それまで援護をして頂けますか?」



そう言い一歩前にでるヴァルさん。しゃべりは落ち着いているが、動きに焦りが感じられる。一刻も早く安全を確保したいのは言うまでもないだろう。



「了解です。一先ずリデルを助けることだけ優先しましょう。皆は後ろに下がっててくれ。シラスは二人を頼む。」



「・・わかったわ、気をつけて。」



「勇さん、無理はしないでください。」



「レディ達は命に変えても守るよ。」



かっこいいセリフに聞こえるが、お前の場合命は軽いんだよな。守るのも一瞬で終わりそうだ。なんてツッコミをするKY(空気読めない)は流石にいないだろう。いつもならしてるが、いかんせん余裕がない。

深く呼吸をし、体を落ち着ける。ヴァルさんと目が合い、お互いに頷いた所で一気に相手に突っ込んだ。



「A-ヒューマン!」



「W-サーチ!」



距離を詰めながら、PSを発動する俺とヴァルさん。



弱点:目を閉じている間。勝率2%(86 60 89)



目を閉じている間?そんなの誰だって無防備になるから弱点だろ。くそ、また弱いPSに戻っちまったな。勝率は、修行をした俺でも2%なのか。恐ろしい、その前だったら0だったんじゃないだろうか。

走りながらチラッと横を見ると、ヴァルさんの前にマッチョが二体召喚されていた。今回はヴァルさんに任せるしかなさそうだ。俺らよりも一足早く相手に辿り着くマッチョ二人。それらが拳を振りかざしたタイミングで、相手はリデルを横に放り投げた。



「お嬢様!」



地面に捨てられたリデルをすぐさま抱え、味方の方に戻るヴァルさん。俺はそれを確認した瞬間、二人の間に煙玉を投げた。さて、相手はマッチョの拳を受け止めていたように見えたが、どうなっただろうか。とりあえず一緒に後ろに下がる。リデルの状況を確認しておきたい。



「私は、大丈夫ですわ。」



ヴァルさんの腕の中で、弱々しい声でそう言うリデル。相手と十分離れた所で、ゆっくりと彼女を地面に下ろした。



「お嬢様はここで休んでて下さい。後は我々がなんとか致します。」



リデルの状態を見る限り、息は荒いが出血はない。となると、打撲傷になるのか。命に別状は無さそうだな。にしても、相手は何でさっさと止めを刺さなかったんだろうか?



「・・勇、それは考えなくていいわ。」



「どうしてだ?」



深刻そうな顔をするトキ。



「理由は二つに分かれると思うけど、どっちにしろ最悪なのよ。どっちか浮かびそう?」



とどめを刺さない理由か・・、そうだな。



「リデル相手でも圧倒的余裕があった・・ってことか?」



「今回はそれでしょうね。彼女、キズどころか焦げ目一つついてなかったわ。リデルの魔法を受けてないとは思えないし。」



「・・私のPSは全く効かないようですわ。」



もう既にPSを当ててたのか。だとしたら、服ぐらいはせめて焼けててもいいはずだよな。



「どうやら、服に何か仕掛けがありそうですな。」



「ええ。でも、それはせいぜい焼けない程度のものでしょう。服だけなら顔は焼けてないとおかしいわ。つまり、魔法は効かないと言うこと。マッチョの攻撃も片手で受け止めていたし、通常の肉体的な限界を超えているわ。おそらく、PSの力がかかっている。」



その言葉と共に、トキの目が瞬時にリデルの服の細部を捉える。目に見えないような微細な違和感から、相手の弱点に迫る鋭い観察力が感じられる。



「おいおい、何だそのチート能力は。」



くそ、どうすればこいつを倒せる?あのリデルですら手も足も出ていないのに。そう思うと、一瞬手が震えた。

だが、ここで躊躇していたら、リデルも、みんなも危ない。

その瞬間、決意を固める。恐れを押し込め、目の前に立つ的に向き合う。弱点無し上等だ。やってやるよ。・・まてよ、弱点?



「勇、どうしたの?急に考え込んで。そういえばPSで弱点が出てたのを思い出した?」



こちらを覗き込んでくるトキ。全く、恐ろしい女だな本当に。



「だから心を読むなっての。弱点は、目を瞑っている間って出たんだ。最初はそんなの誰だってそうだろと思ったが、もしかしたら・・。」



「PSの発動条件が、「目を開けている」なのかもね。試してみる価値は十分にあるわ。フラッシュバンは持っているのでしょう?」



「何でそれすらバレてるんだ。持ってるのは閃光弾だ。これで目を瞑ってくれれば・・だな。」



「三百万カンデラも出せる特注品でしょう。大丈夫に決まってるわ。」



これ買ったの俺だよな?何で俺が知らないことまで知ってんだ。



「私に知らないことはないの。」



「セントラルアメリカ号もか?」



「沈没船もよ。」



やべぇこの人本物だ。



「そんなことより、問題は無防備になるのは、いっても数十秒ってこと。その間に無力化させるには、やっぱり殺すしかないわ。」



「だよな・・そこをどうするかだな。」



殺しなんて、よほどのことがない限り出来そうにない。一瞬で眠らせる技があればいいんだが・・、あ。



「トキ、そう言えば眠りの魔法使えるよな。」



「無理よ。あんなの虫や魚ぐらいにしか効かないわ。」



シラスは魚だもんな、効いて当然だよな。



「勇様、私が気絶させます。殺すかはその後に決めましょう。」



煙が晴れて、相手の姿が露わになる。そこには、マッチョ二人がボロボロの姿で横たわっていた。

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