秘密
「いらっしゃったんですね。」
「お嬢様を守るのが私の仕事ですから。」
淡々とそう告げるヴァルさん。タイミングを見計ったかのように出てきたし、リデルをずっと見守っていたっぽいな。となると、少しひっかかる。二人きりだし、聞いてみるか。
「ちなみにヴァルさんって、神になるんですよね。」
「その通りでございます。」
・・やっぱりそうなるよな。でも転移者って、魔王を倒すために呼ばれただけの存在だよな。なら、守るのが仕事と言うのは少しおかしい気がする。
「さては、転移者が死んだら神は死ななければならない・・なんて理不尽な事になります?」
俺はルールブックを見てないからな。何が注意事項か全くわからない。
「なりませんよ。デメリットと言えば、クエストを転移者無しでこなさなければならないことだけでございます。」
すると、こちらが何を聞きたいかを汲んで、直ぐに答えてくれるヴァルさん。しかし、それだけが理由でリデルを守っているわけではなさそうに見える。何か事情がありそうだし、深掘りはしない方がいいかな。
「分かりました。ところで、彼女行ってしまいましたけど、早く追った方がいいんじゃあ・・。」
「勇様、その前に貴方には是非知ってて欲しいのです。お嬢様の、生前のことを。」
深刻な顔をしてそう言うヴァルさん。このタイミングでその話をしたいと言うことは、どうやらヴァルさんがリデルを守る理由はそこにあるようだ。
「わかりました、聞かせてください。」
「ありがとうございます。では・・。」
そのままコホンと一つ咳払いをして、こう話し始めた。
「お嬢様は、とある名家の生まれでした。名家に相応しい人間となる為、昔から英才教育を受け、文武共に学んでおりました。それは強制だった訳ではなく、お嬢様も望んでされてました。」
確かにどう見てもお嬢様だったが、コスプレだと思っていた。漫画の世界だけだと思ってたが、今の時代にもいるもんなんだなぁ。
「そのまま不自由なく幸せに暮らしていましたが、ある日、空襲にあったのです。」
空襲?そんな物騒なところ・・、いや、とりあえず今は話を聞こう。
「お嬢様は奇跡的に助かりましたが、家族と家を失いました。まだ十四歳の時のことです。彼女はその後孤児院に引き取られました。絶望を抱えながらも、すくすくと育っていきました。孤児院は収益等はありませんでしたが、彼女の豊富な知識、そして高い知能によって何とか存続できていました。しかし、戦争はその間もずっと続いていたのです。年齢順に孤児は兵に出され、気がつけば彼女が院の中で最年長になっていました。」
・・戦争は終わらず、皆帰ってこなかったのか。孤児なんて、いい扱いはされないだろう。それこそ、囮だとか。
「そしてとうとうお嬢様の出兵する番が来ました。お嬢様は腕に自信がありました。一対一なら敵無しと言うほどに。しかしその力を発揮する前に、空襲によってあっさり命を落としてしまったのです。」
・・よくよく考えれば、この様に俺以外の転移者は、皆普通に何かが原因で死んでるんだよな。姿からして、飛鳥も寿命ではなさそうだし。
「お嬢様は魔王を倒し、一刻も早く復活して孤児を助けに行こうとしています。魔王を倒せば、復活する際に何でも一つ願いが叶うので、巨額の富を得て孤児院を復興させることも、戦争を無くすこともできますから。」
ちょっと待て、その話俺聞いてないぞ。やはりルールブックを読んでおくべきだったか。
「成る程、だから力にこだわってたんですね。誰よりも早く魔王を倒すために。」
「その通りでございます。魔王を譲れとは言いません。が、お嬢様は本当に良いお方なんです。それを勇様にも知っていただきたくて、この話をさせていただきました。」
「納得しました。それで、彼女を転移者に選んだんですね。」
となるとシエンは適当すぎないか?俺って自転車起こしてただけだろ。まぁ生きてた人を無理やり殺して連れてきた時点で適当だけど。
「はい。それに、私は生前お嬢様に助けられましたから。」
すると、看過できない言葉が聞こえる。え、いま生前って言ったよな。
「ということは、神も元々僕らの世界に居たってことですか!?」
「おっしゃる通り、少なくとも私はそうです。ただ勇様も感じ取ってる通り、時代は違いますが。」
やはり時系列はそうか。俺の時代で戦争なんてほぼないからな。つまり、ヴァルさんたちは違うが、俺の時代にシエンはいたって可能性があると言う事だよな。あの容姿だし、まさか会っていた・・なんてことは無さそうだけど。でも、もしそうだとしたら、シエンも何かしらの理由でこの世界に来たのか?それとも、俺が知らないところで何かが起きているのか・・。まぁ深く考えるのはまた今度にしよう。
「成る程、分かりました。でも、だからと言って俺も彼女に負けるわけにはいきません。リデルのためにも、俺は俺なりに戦うつもりです。魔王を倒すのは無理かもしれませんが、仲間のために全力を尽くすのが、俺の役目なんで。」
そう、心の中で決意を固めながら言う。
「勇さんも良い人だと見込まれて、転移者に選ばれたのでしょう。私も精一杯協力させていただきます。」
ゆっくりお辞儀をするヴァルさん。確かリデル・・と言ったか。どうして、あんなに強くなろうとしたのか、少し分かった気がする。同い年ぐらいなのに、彼女も立派に頑張ってきたんだな。そんな話聞いてしまったら、なんとか助けてやらないと、カッコ悪いよな。