ND2
「で、貴方何者なの?」
太郎を木に縛りつけ、囲うように立つ俺達。敵にしては弱すぎる。この悪の仮面を被った馬鹿は何者なんだろう。
「は、話すものか!」
「あら、痛みつけられたいなんてドMなのね。」
「ひぃ!」
無表情でポキリと手の関節を鳴らすトキ。こっちは正真正銘の悪だ。
「殺さないようにだけ気をつけろよ。」
「その時は生き返るやつ用意してるから大丈夫よ。」
「生き返るやつ?あの薬か?」」
「冷たいビールよ。」
「生き返る〜ってみんな言ってるもんな。」
「俺は未成年だぞ!」
ふざけてると、太郎がツッコミをいれる。そこじゃないんだが、本当にバカっぽいな。
「未成年でこんなところにいるとは、貴方やっぱり転移者?」
「ち、違う!」
「否定してはダメよ。隠したいなら、さぁなとか言わないと。」
「そうなのか・・成る程。」
納得しやがった。こいつ、この弱さで転移者なのか?
「まぁ別にいいわ。そういえば最近、ここらで冒険者が消えてるそうね。」
「あぁ、それはエドガー様が・・って引っかからないぞ!」
お、ちゃんと学習してるな。
「エドガー様がNDを作って閉じ込めてるからなのね。そしてそれを壊しにくる転移者を見張る為にここに居ると。」
「何でバレたんだ!」
まぁ、無意味だったようだけど。彼女は喋らずともおれの心を読む洞察力を何度か見せてるしな。
「やっぱり馬鹿は読みやすいわね。」
こっちをチラッと見てそう呟くトキ。
「おい待て、絶対俺に対しても言ってるよな。」
正真正銘悪って言った事、根に持ってるだろ絶対。
「それで、NDは何処なの。この森全体がND?スイッチを押せば、この森にいる好きな人間をNDに送れる?スイッチは右手の中ね。早く出しなさい。」
ここまでくると洞察力で片付けれるレベルではないと思うんだが。もはやPSだな。
「な、なんだこいつ!こうなったら・・エドガー様、すみません!」
そう太郎が叫んだ瞬間、空気が変わるのを肌で感じた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「な、みんなどこに行った?!」
一瞬の間に、周りの人が誰一人として居なくなる。皆NDに飛ばされたのか?いや、でも俺だけ残るのもおかしい。逆もまた然りだ。ここがNDなのであれば、前来た時は瞬きする頃に皆揃っていたはずだが、今回それは無い。つまり、皆ランダムに飛ばされたというのが一番あり得そうだな。景色が変わってない分、すごく分かりづらいが。
落ち着いて辺りを見渡してみる。そう言えばさっき、トキはこの森全体がNDとか言ってたよな。ここから脱出方法を探すなんて、そんなの無理に決まっ・・。
「ヴヴヴヴヴヴヴヴ!!」
なんて思ってる暇も無く、目の前に真っ黒の獣が現れる。見た目は虎の影が具現化したみたいなものだが・・、それより問題なのはサイズだ。高さニメートル越えており、普通の虎より二回りほど大きい。鋭く尖った黒い牙と爪には、赤い血がこびり付いている。随分前に固まってそうだし、俺らのパーティーメンバーのものではないだろう。
・・失踪していた冒険者たちが生きてる可能性は低いな。
ゆっくりと剣を抜き、水の構えをとる。相手は動く気配がないし、唸った後の息を吸うタイミングで仕掛けるとしよう。
ーー今だ。
前膝を脱力し、同時に前足と後ろ足で地を蹴る。腰で回転を加え速度を増加させ、同じことを数度繰り返すことで最速で距離をつめれた。そして、真っ直ぐ相手の顔に剣を突き刺す。
訓練通りの動き。完璧に決まった・・はずだった。なんと、実態を捉えてるはずなのに、空気を突いてるかのように、感触が何も伝わらないのだ。
「どういうことだ?っと!」
相手が前足の爪を横になぎ払う動作をしたので、ギリギリ後ろにかわす。風圧はあるし、もう一つの前足は地にめり込んでいた。つまり、実体はある。重要なのは・・、俺の攻撃が通るかというところだ。こういう時こそ弱点が見れればいいんだが、こいつ真っ黒で目がないんだよな。俺のPS存在価値あるのか?まぁしっかり観察はできてるからいいけども。
みている限り、こいつは好きな時だけ実態を出すことができそうだ。つまり、攻撃できる可能性としてはカウンターのみになるよな。うーん、果たして上手くいくか。相手が人間なら、意志がある分動きを読むことができるが、獣となるとなかなか難しそうだ。
「ヴヴヴヴヴヴ・・。」
獣が唸りながら、ゆっくりこちらに近づく。突如として獣が前足を振り上げ、鋭い爪が空気を引き裂いた。風圧で一瞬だけ身が怯む。
・・逃げよう、たぶん無理だ。だって普通に考えて欲しい。地球に生きてた頃、刀があれば虎と戦っても良いとか思うか?いや、思うわけがない。PSを得た他のやつならまだしも、俺は前と一緒でただの人間だぞ。他の奴らもここに来ているだろうし、合流して倒してもらうのが得策だ。
そう自分に言い訳をし、煙玉を撒き散らしてその場から退いた。