最弱パーティー
暖かい日差しに照らされながら、人通りの多い街を歩いている。太陽の高さからして昼前だろうか。光を湛えたアスファルトに、思わず目を細める。道の両脇には露店が並んでおり、美味しそうな匂いが漂っていた。食べ物も特に俺のいた世界と変わりはなさそうだ。そういえば俺の口座ほとんど金残ってないよな。使える時に使っておいてよかった。なんて、どうでもいいことを考えながら、道行く人を観察する。周りは皆鎧やローブを着ており、中には魔法の杖を持った魔術師や、獣耳の種族も見かける。まさに異世界そのものだ。そんな中、俺だけカッターシャツに黒い長ズボンと、浮いた格好だ。明らかに視線を感じてるし、はやくそれっぽい服を仕入れないとな・・。他の転移者はどんな格好をしているんだろうか。俺は結構遅めに転移してきたみたいだし、他は既に適応してる人が多いだろう。と言うことは、いい冒険者が残ってる可能性も少なさそうだな。誰かいい人材がいれば良いが。
「やぁ、そこの人!転移者だろう?」
歩いているといきなり後ろから声をかけられる。転移者なのは、服装で一目瞭然だろう。声のする方をゆっくり振り返る。そこには、若い二十歳ぐらいのイケメン男性が手を上げて立っていた。目までかかった白い髪に高身長。白い長袖のシャツに、白の長ズボン。明らかに裏が無さそうなイメージだ。
「そうだ。何か用か?」
「喜ぶがいい、最強の僕が仲間になってやろう。」
両手を腰にあて、自信満々にそう言う男。自称最強なんて、嘘くさいにも程がある。という訳で、まずは弱点を見てみるか。
「W-サーチ!」
すかさずスキルを発動し、相手の目を見つめる。すると先ほどと同じように、頭上に弱点が表示された。このスキル、使用制限はないのだろうか。となると結構使えるのか?
弱点:寄生虫(特に回虫)
前言撤回。使えねぇなこの能力!仕方ない。何が最強なのか、率直に聞いてみるか。
「最強って具体的にどう最強なんだ。」
「聞いて驚け、僕のPSは・・D-リバイバルだ!」
両手を広げ、高らかに宣言する。リバイバル・・生き返るということか?なんて、顎に手を当てて思考する。
「君の想像通り、僕は死んでも数分後には生き返る!これを最強と呼ばずしてなんと呼ぶんだい?!」
「いや、お前は間違いなく最強だ。俺の仲間になってくれ。」
すっと流れるように握手を交わす。つまり、力が弱かったとしても最悪盾になる。囮にもなる。死なないのなら負けはないし、これほど使える奴はいない。こんな奴がまだ残っててよかった。
「いいだろう。僕だって転移者と神に協力し、魔王を倒して巨額の富を得たいからね。」
成る程、パーティーメンバーもちゃんと恩恵があるのは有り難い。多少の無茶はしてくれるだろう。
「そうとなったら話は早い、俺の担当の神を紹介するよ。自己紹介はその時に。」
こんな逸材、絶対に逃さない。俺は彼を連れて、早足で旅館に戻ることにした。
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「あれ、ずいぶん早いな。」
部屋に帰ると、既にシエンと黒のローブを身につけた女の子がベッドに腰掛けていた。十分程度しか経ってないと思うが、転移者のパーティーってのは報酬が随分といいらしいな。
「おかえりなさい!私、すごい人を見つけましたよ!」
そう言って立ち上がるシエン。顔の表情からも、喜んでるのがダダ漏れだ。よほど自信があるのだろう。期待して、シエンの連れてきた子を観察する。シルクのよう輝きをまとった赤髪ロング、そして綺麗な翠の瞳をしている同年代の女性。身長はシエンより少し高く、凛々しいといった感じの美人。既に採用は決まったようなものだ。
「こっちの人もすげーぞ。とりあえず自己紹介といこうか。俺は勇だ、よろしく。」
そう言い、適当なベッドに腰掛ける。
「勇くん担当の神、シエンです。よろしくお願いします!」
「トキよ。宜しく。」
「シェフィールド・ラ・スーベニアだ。転移者勇、そして美女二人、そなた達に忠誠を誓おう。」
普通の挨拶が並んだ最後に、執事のようなお辞儀をするイケメン。何だこいつ名前鬱陶しいな。心の中でシラスって呼んでやろ。
「じゃあ早速だが、トキのPSから聞いていいか?」
一旦無視して、面接を始める。
「いいわよ。」
表情一つ変えず、すっと立ち上がるトキ。シエンがあんだけ賞賛するんだ。少なくとも口から何か出す系統ではないだろう。
「私のPSはT-ストップ、時をとめれるの。」
腕を組み、自信ありげにそういう彼女。これは考えるまでもないな。
「採用。」
「ですよね!すごいですよね!」
ラスボスの能力じゃねーか。もうトキ一人で十分だ。てか、転移者必要なくないか?
「ま、いいや。と言うわけでシラス、帰っていいぞ。」
「えぇ!?酷くないかい?」
シラスの方を見てそう言う。案の定驚き、表情を崩した。もう必要ないんだよ。それにキザな奴あんまり好かないし。包み隠さずいうと、イケメンが無理だ。
「リトルレディ、僕のPSだってすごいよ。なんせ、僕は不死身の男だからね。」
「ふ、不死身ですか!勇さん、すごい人連れてきましたね!」
「まぁな。今となっては不要だが。」
「さっきから急に冷たくなったね!別にいいじゃないか、パーティーは4人までなんだし。」
「ふーん、そうなのか?」
シエンに確認をする。
「そうですね。なので、この4人でパーティーメンバー決定しますね!」
そう言い携帯をいじる彼女。まぁいいか、男だけど使えそうだし。
「ちなみに、リトルレディと転移者勇のPSはなんなんだい?2人のなんて僕らの比にならないぐらいすごいんだろう?」
「「・・・。」」
「おや、なんで黙るんだい?」
下を向き、冷や汗を掻く俺とシエン。やべ、自分達のことを忘れてた。やはり普通の人にも、転移者と神はすごいと言うことが周知徹底の事実だったんだ。参った、とりあえず表示される弱点がランダムなことだけは伏せて、大袈裟に言うか。
「俺の能力は、相手の弱点を知れる能力だ。つまり、どんな強い相手でも俺は負けない。」
「おお、すごいじゃないか!頼もしいよ!」
よし、騙せてそうだな。
「・・そうなの。じゃあ私たちの弱点を見てみてくれるかしら。」
トキが両手を広げる。疑ってるのだろうか。というか、そんなの普通嫌がると思うんだが、良いのか?と言ってもやるしかない。さて、サイコロを振るとしよう。
「W-サーチ!」
そう言い、皆の目を見る。ついでにシエンのを2回目みるとどうなるのかやって見よう。刹那、それぞれの頭上に弱点が表示された。
弱点:時間停止中、意識はあるが身体は動かせない。
弱点:タンスに小指をぶつける程度の痛みでショック死する。
弱点:毒
上から順番に、トキ、シラス、シエンのものだ。どうしよう、味方のとんでもない弱点を見つけてしまった。運試しに勝ったのを喜ぶべきか、悲しむべきか。まぁそんなことより、重要なのは、
「お前ら強そうに見えて全然強くねぇじゃねぇか!」
「あら、バレてしまったわね。優秀じゃない。」
と、平然な顔をして言うトキ。堂々としてるな。もはやバレるのは計算内だったかのようだ。
「大丈夫だよ、不死身なことに変わりはないからさ。」
前髪をふさっと払うシラス。そんな2人を見て、額に手を当てがっかりする。ダメだこいつら、すぐに別の人を呼ぼう。
「シエン、パーティー解散だ。トキは時間を止めれるだけで自分も止まるし、シラスはマンボウぐらい死亡率が高い。」
「さっきから聞こえてるシラスって誰のことだい?まさか僕じゃあないよね?」
黙れ、デコピンで殺すぞ。
「無理よ、一度結成したパーティーは魔王を倒すまで解散できないわ。」
な、トキは知っててこれを狙ったのか。道理で落ち着いているわけだ。ていうことは・・、
「シエン、まさかもうパーティー結成してしまったのか?」
「しました・・ね。」
携帯片手に固まるシエン。
「なんでそんな大事なことすぐやってしまうんだ!」
「勇さんも2人の能力がすごいって納得してたじゃないですか!」
「いやそうだけども!いやそうだな!くそ、どうすればいいんだ!」
頭を抱える。終わった、もうクエストなんて絶対無理だ。
「何を絶望してるんだ?神シエンがいればどうにでもなるだろう。」
「そうよ、彼女は神なんだから。PSのレベルも違うわ。」
彼らが絶望で膝から崩れ落ちるまで、数秒もかからなかった。