死闘
「危ない危ない、流石に反応してきますね。」
帽子を右手で抑え、宙に浮くマジシャン。爺さんのタックルが当たるギリギリのところで、飛んで躱したのだ。宙に浮いているところは今更驚かないでおこう。それより爺さんの動きの速さに驚きだ。曲がってた腰もまっすぐだし。相手は予想できていたのか?
「お主ら、早く逃げるぞ!カニさんは先に海へ!!」
「りょ、了解じゃ!」
爺さんの声を聞いて、海の方に高速で向かうカニ。
「逃がしませんよ。」
しかしそのカニ目掛けて、帽子を支えながら指を指すマジシャン。何かする気だな?だったら、
「喰らえ!」
そう言ってこちらに注意を向かせる。叫ぶと同時に投げた煙玉が、マジシャンの方に飛んで行った。
それをまるで風のようにすり抜け、躱すマジシャン。が、当たらずともそれは時間で破裂する煙玉だ!
「くっ!」
ボンっと音を立てて煙が撒き散らされる。あの速度だと、カニさんはこの間に海に入れてるだろう。だとすると・・、
「やられましたね。なら・・。」
そう言った後、真後ろに現れるマジシャン。そのまま俺の後頭部へ指を揃えて手を振りかざしていたが・・その動きは読んでいた。
「な!」
俺は煙玉を投げた瞬間腰の剣を抜き、後ろに向かって横一文字に振っていたのだ。初めて使う剣、その先にマジシャンの頭がある可能性は感じていた。
・・こいつはトキを本気で殺そうとしてた。だから、こっちも遠慮せずに剣を振れると思った。
そうだったはずなのに・・、
「くっ!」
人間の顔が見えた一瞬、躊躇ってしまった。そのせいでギリギリのところで後ろにかわされる。
「・・やってくれましたね。」
そう言い頬を抑えているマジシャン。どうやら少し掠ったようだ。
「この私に傷をつけたなぁ!!」
急に怒りを露わにする。やっと気づいたが、すごい殺気だ。まずい、このままだと全員殺される。
「よし、準備完了じゃ!わしらも逃げるぞ、M-オーバー!」
なんて思ってると、爺さんが叫び、その瞬間体がパッと光る。光が収まると、そこには数十メートルぐらいの大きさの、一匹の黒龍がいた。成る程、この爺さんのPSは変身なのか。
「すげぇ、そういうことね!ナイス爺さん、みんな乗るぞ!!」
「おや、ゆっくりしていかないのですか。」
「ダージリンでも淹れてくれるんなら考えるがな!」
そう言ってそこいら中に即効性の煙玉を投げ込む。すぐにあちらこちらでいろんな色の煙が上がった。たくさん投げたおかげで、龍の姿もギリギリ隠せれたようだ。この間に乗り込むとしよう。
「トキ!急ぐぞ!!」
「え、えぇ。」
爺さんのとこに行く途中、ぼーっと突っ立ってるトキに声をかける。が、その場で返事するも、動こうとしない。怯えているのか?仕方ない、無理やり肩に背負うか。
「よっと。シエン、シラス!大丈夫か?!」
「うん!こっちは二人とも乗ったよ!急いで!!」
よし、後の二人は大丈夫そうだな。
「ちょっと、一人で行けるわよ!」
おれの肩の上で文句を言うトキ。やっと正気に戻ったか。お尻ペンペンしてやろうと思ったのだが、少し残念だ。仕方なく下ろしてやりたいが、その時間すら惜しい。文句なら後で聞くとしよう。
そのまま黒龍まで行き、先に上に乗ってる二人にトキを引っ張り上げてもらい、おれもよじ登る。上に皆が乗ったことを確認して、黒龍が空を飛んだ。
「行くぞ!速いからしっかりつかまっとくんじゃ!」
飛び立つことで黒龍の姿が露わになる。上昇しながら、前方へ高速で移動し始めた。
「逃しませんよ!」
しかし、瞬間移動を使ったのか、逃げた先に現れるマジシャン。またこちらに指を向けている。まずい、急な方向転換もできそうにない速度まで来ている。
「そのまま突っ込んで!私が何とかするわ!」
すると、正気に戻ったトキから指示が出る。つまり作戦があると言うことだ。なら大丈夫だろう。俺は俺のできることをしよう。
黒龍も一瞬だけためらったが、トキを信じてマジシャンの方に突っ込む。速度はどんどん上がっていった。しかし、マジシャンの指先から今にも何かが放たれようと光がどんどん大きくなってる。
「死ね!」
「タイムラプス!」
物騒な言葉と共に技が放たれたタイミングで、トキも技名を叫んだ。初めて聞くトキのPSだ。皆がもうヤバイと思い目をつぶっていた瞬間、目の前には何もいなくなっていた。
「おや、やるじゃないですか。」
振り返ると、いつのまにかマジシャンが後ろにいる。その姿はどんどん小さくなり、遠く離れていった。この速度ならもう追いつけないだろう。よし、逃げ切るぞ!
「やれやれ、せめて一人だけでも死んでもらいますよ。」
なんて思ってると、黒龍より速い速度で後ろから何かが飛んできた。白いレーザーのようだ。
「まずい!爺さん躱してくれ!」
なんて指示も間に合うわけなく、レーザーが俺のところに到達して・・、
「きゃ!」
俺の目の前に立ち塞がったトキに命中した。