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プレイヤースキル

手のひらをガラス窓にあて、うっすらと反射している自分の顔を見る。もしかすると転移して別の顔になっているのでは?と思っていたが、杞憂に終わった。ホッと息を吐き、そのまま窓の外の世界に視線を移す。・・すごいな、本当に別世界だ。栄えた賑やかで大きな街、並ぶ露店、武器や鎧をつけた人々、マントを羽織った女性。まるで誰かが作った世界なんじゃないかと思うほどだ。こんな事あるんだなぁ。



「皆それぞれ自分だけの能力を一つ持っています。ポテンシャルスキル、通称PSといいます。それだけでも実力は大きく左右されますが、研鑽を積めばPS無しで強い方もいます。」



横に来て、一緒に窓の外を見つめるシエン。甘い匂いがふわっと広がり、俺の意識を奪った。何見惚れてんだと自分に言い聞かせ、顔を横に振る。



「となると転移者のPSってのは相当強いんだろうな。俺のPSってのはどんなものなんだ?」



シエンの方を向き、そう聞く。



「勇さんのPSですが、私から一つ受け取ると言う形になります。神は転移者にあげる用に、特別にもう一つPSを付与させられています。PSなしでは、私も戦えませんし。」



成る程、神のPSとなれば文字にしてみるだけでもかなり強そうだ。体はもうヒーローになった気でいるのか、体温が上がってるのを感じる。



「じゃあ、魔王は担当の神と協力して倒すって感じなのか?」



「そうですよ。私が初めてのパーティーメンバーです!」



笑顔を見せてくるシエン。こんな美女と二人きりなんて・・いや、じゃなくて、シエンも戦ってくれるなら、別に自分が強い方のPSを貰わなくてもいいって事になるな。適性をよく考えて選ばなければ。



「で、PSの内容は何と何なんだ?」



「はい!一つは元々ある私のスキル、S-バーストです!!」



自信ありげに言うシエン。S-バースト?確かにすごそうだ。一応聞くか。



「シエン、Sって何だ?」



「スライムです!スライムを出します!すごいですよ〜。」



スライムを出す?なんかよく分からなくなってきた。見せてもらう方が早そうだ。



「ここでその力を使うことってできるのか?」



「できますよ!行きますね〜。」



「ちょっと待て、宿が壊れたりだとかは・・。」



「S-バースト!!」



制止しようとしたが、ギリギリ間に合わなかった。シエンは技名を言った後、座ったまま両手を胸に当て、目を閉じた。その後、3秒ぐらいして急にむせ始めた。



「ゴホッ、ゴボボ・・ゴボボボボ・・。」



「バーストってそっちかよ!!」



ボトリと口から落ちる水色のスライム。生きたスライムを勢いよく相手にぶつけるのかと思えば、俺の世界にあった動かない普通のスライムを吐いただけだ。絶対いらないだろこの能力。初めて見るスキルなのに、ファンタジー要素を全く含んでないし。なんて思ってると、とても甘い匂いが鼻をかすめた。



「めっちゃいい匂いがする・・まさか、このスライムからか?」



しゃがんでちょんちょんとスライムを指でつつく。



「このスライム、私と同じ匂いが濃くでるんです。あ、あんまり触らないでください!」



恥ずかしがるシエン。確かに、シエンの匂いと一緒のように感じる。さらには乙女の唾液付き、確かに恥ずかしいだろう。にしても粘着力すごいなこのスライム。地面からなかなか剥がれない。男なら後でこっそり持って帰るべきものだが・・まぁそんな下心は捨てておこう。



「とりあえずわかった、二つ目のPSも何か教えてくれ。」



既に選択肢は2つ目にしかない。どうかクソ能力ではありませんように。



「二つ目はW-サーチ、相手の弱点を見つける能力ですね。」



「それで。」



「早まらないで下さい!」



「いや考える余地はない!」



そう言うと、あからさまに落ち込むシエン。本音を言えばチート能力を期待していたんだが・・あのPSを見た後のせいか、全然悪くない。後は、鍛錬するしかなさそうだ。



「酷いです。私どうやって戦えばいいんですか・・。」



「こっちのセリフだ!」



この反応からすると、すごくない能力ってことは分かっていたらしいな。なら二つあること言わなければよかったのに。そう言うところはやはり純真なのか。



「・・まぁ、本当は与えられた能力じゃないと譲渡はできないんですけどね・・。」



「よかった。じゃなかったらスライム押し付けられる可能性もあったってことだもんな。」



「しゃーなしです。それでは、譲渡しますね。」



残念そうにそう言い、しゃがんで俺に目線を合わせて、顔を近づけてくる。まるでキスをするかのように・・、



「ちょっと待て、一応聞くがキスしようとしてないか?」



両肩を抑えて静止する。



「そうですよ。譲渡にはキスで唾液を渡すのが一番早いですから。」



ここって簡単にキスをする文化なのか。どっかの外国かよ!と心の中でツッこむ。実際は世界すら違うが。にしても、スライムつつくのは恥ずかしがるくせに、よく分からん。



「あんま軽々しくやるもんじゃないと思うけどな。それに唾液ならこれで十分だ。」



地面にへばりついてるスライムを千切り、口へと運ぶ。味すらも甘い、なんだこのスライム。力が湧いてくる気がする。



「あ、能力が譲渡されました。」



やっぱり、これで良かったみたいだ。全く、こっちは女に面識がねーんだから、そう言う不意打ちはやめてほしい。



「で、この能力はどうやって使えばいいんだ?」



恥ずかしさを隠すように、話を戻す。



「W-サーチと言えば、視界に入ったものの弱点がランダムで一つ表示されるようになります。未だ、それぐらいしか分かってないです。」



「ふーん、とりあえず使ってみるか。」



その場から立ちシエンの方を見る。



「よし、W-サーチ!」



「なんで私のを見るんですかぁ!」



両手で顔を隠すシエン。スリーサイズがバレるわけでもないのに大袈裟だなぁ。



「まぁ身近にシエンしかいないし、今後・・なんでもない。」



「良からぬことに使おうとしてません?」



目を細めてこちらを見るシエン。そんな事しないよとなんていってると、シエンの弱点が彼女の頭上に表示された。成る程、視界に入ったらと言っていたが、どうやら目を見ないと能力は発動しないらしい。やっと異世界の実感が湧いてきた。そして、表示された弱点は・・。



弱点:こめかみ



「くそ使えねぇ!!」



「な、何ってでたんですか?」



こっそり掴んでたスライムを壁に叩きつける。ビターンと音を立て、綺麗に壁に張り付いた。シエンに表示された弱点は、人間全てに当てはまるものだ。こめかみが弱点だと、そんなもん知っとるわ。



「とりあえず全然使えないことが分かった。チート能力なんて、二人とも一ミリも掠ってないぞ!」



「おかしいですね、そんなことは無いはずなんですが・・。無理やり殺したのがいけなかったんですかね?」



「それは知らんが、少なくとも無理やり殺すことは良いことではないよな。」



そして殺したなんてしれっと言うな。二秒躊躇え。



「とりあえず俺たちじゃ生き残れん。仲間を探そう。」



窓の外の道行く人達見る。出来れば二人きりがよかったが、背に腹はかえられない。生き返るためだ、多少のことは我慢しよう。



「そうですね。二人までは仲間に加えてもいいそうなので、一人ずつ連れて来ましょう!」



立ち上がって拳を握るシエン。やる気は十分のようだ。他の転移者に取られる前に俺も気合いを入れるとしよう。



「おっけ、一時間後にここ集合な。」



「はい!」



元気よく出て行くシエン。俺も軽くやることをやって、バシッと両頬を叩き、気合を入れる。そのまま何もわからない世界へと、躊躇いもなく足を踏み出した。よし、行くぞ!と、自分に言い聞かせるように声を出す。未知の世界での冒険が今、始まろうとしていた。

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