里派
何はともあれ、飛鳥の転移者クエストを無事に終えることができた。仔細に言えば、一時的にだが。
次俺がアベニールと会えば、彼女は死ぬらしい。じゃあそれまでは無敵だったんじゃないか?と思ったが、彼女曰く「その時より早く死なない為には、同じ行動をしないといけないの。」だそうだ。
どうにかできないものかと考えたが、そんなの会ってから考えなさいと怒られた。どうやら、会ってすぐに死ぬわけではないらしい。全く、次会う時に死ぬなら、クエストの応援に呼べねーじゃねーか。くそ、俺の企みが・・。
「勇さん!いーさーむーさん!聞いてます?」
椅子に座り考え込んでる俺の前で、後ろで手を組み、体を左右に振ってこちらを覗き込むシエン。可愛くなければ張り倒している所だろう。
「聞いてるよ、次のクエストだろ?」
「そうです!よかった、ちゃんと聞いてたんですね。」
「聞いてないわよ、クエストをする為に集まったんだから、その話なのは誰だって知ってるわ。」
トキに鋭い指摘をされる。くそ、うまく誤魔化すつもりだったのに。みんなアホだったら、コイツらちょれーって脳内で祝杯をあげれたんだがな。ただ、クエストで今より相当苦労することになるだろうが。
「酷いです勇さん!大事なことなんですからちゃんと聞いてください!」
「こっちも大事なこと考えてたんだよ。でも悪かった、なんの話だったんだ?」
みんな真剣な顔をしている。確かに、今は目先のことに集中しないとな。
「次のクエスト、山にするか里にするかって話です!」
「くそくだらねぇじゃねーか!食べ物の話かよ!」
本心を言葉に出す。が、二人ともキョトンとしていた。
「普通に場所の話なんですけど・・。」
たまたまか?!たまたまあのお菓子と被っただけなのか?
「そうよ、大事な話って言ってるじゃない。下らないお菓子の話なんて持ち込まないで頂戴。」
「お菓子って知ってんじゃねーか!あるのか?!こっちの世界にもちゃんと派閥が存在するのか?」
「そんな事どうでも良いでしょう?熱くならないで。」
「いやダメだ。俺は今何よりもそれが気になる。」
もしかしたら異世界じゃなくて同じ世界の別の場所だった・・なんて事もありそうだしな。
「まぁまぁいいじゃないか。レディ、僕は海に行きたいな。」
シラスに至っては話を無視してる。お前だけだぞ、ピクニックに行くと勘違いしてんの。
「じゃあ海にしましょう。お菓子は三百円までね。」
「馬鹿な、勘違いしてたのは俺の方なのか。」
やばい、色々と衝撃的なことが多すぎて立ち直れない。
「それで本題に戻るんですが、山と里どっちにしますか?」
「やっぱりお菓子の話じゃねーか!!」
結局、大事なことを考えてたのは俺一人だけだった。
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バスに揺られて三十分、車窓から見える景色が変わり、白い砂浜が目の前に広がった。エメラルドグリーンの海は日光を反射し、波の音が心地よく耳に届く。」
地平線の向こうをぼんやり眺めていると、波打ち際に棺が出現したので、そのまま海へ流そうとする。死因はおそらく、横にいる赤いハサミを持った生物だろう。もちろん手のひらサイズだ。
「何水葬しようとしてるんだい?!帰れなくなるから!」
棺から勢いよく出てくるシラス。あと五分待ってくれたら遥か彼方だったのに。
「勇さん悪い子ですね。こんな綺麗な海にゴミを捨てたらダメですよ!」
「ゴミを捨てたのかい?それは感心しないね。」
白いワンピースが良く似合ってるシエン。やはりどう見ても純真な女の子だ。まさかこんな子がさらっと人をゴミ扱いしてるとは思わないよな。いや、それより・・。
「俺が悪い子だと?!ちゃんとお菓子三百円以内に収めてきたのに!?」
「そんなのは当然です!」
「当然じゃねぇぞ!俺の世界だと、バナナはおやつに入らんとか訳のわからんルールで、それだけ大量に持ってきたやついたからな?!俺はちゃんとバナナも三百円の中に入れてきたぞ!」
ちなみにバナナは普通に店で売っていた。驚いたことに、里も。
「いいえ、悪い子です!まさか里派だなんて!」
「なんだそっちか。別にどっちでもいいだろ。三百円だから片方しか買えなかっただけだ。」
「だとしたらトキさんみたいにどっちも作ってきて下さい!」
「あ、それはいいんだな。」
三百円の穴をついている悪い子、トキを見る。ノースリーブにマントといった服装で、前回より涼しそうだ。腕には大量の山と里が入ったバスケットをぶら下げ、その上に花柄の布をかけていた。最初、「全部元々家にあったのよ」って言うのかと思ったが、どうやら手作りだったらしい。元々そこの工場の人でも無理だろうに。
「くだらない話はそこまでよ。シラス、何遊んでるの。早く戻ってきてくれる?」
「僕の死は遊び感覚なんだね・・。」
「違うわ、メルヘンチックなだけよ。」
流石にそれで納得はしないと思うぞ。
「成る程、つまり王子様ということかな?」
少し元気になって、浜辺に帰ってくるシラス。前言撤回、納得させれそうだ。やっぱり俺とトキが互いに口出ししなければ、何でもありだな。
「違うわ。」
しかしにべもなく否定するトキ。誤魔化すなら最後までしてあげてくれ。