神の視点
「ま、丸裸戦法ですか?」
「・・それって本当に期待していいの?」
訳の分からない作戦名に、戸惑いを見せる飛鳥と、目を細めてこちらを睨むアベニール。変な作戦名のせいで、だいぶ疑われているな。よし、一刻も早く安心させてやるとしよう。
「勿論だ。セントラルアメリカ号に乗ったつもりでいていいぜ。」
「・・全然伝わらないのだけど。」
そりゃそうか。俺の世界の人間ですら、知ってる人はほぼ居ないだろうし。
「とりあえず、ちゃんと打破できるかどうか聞いてるの。」
「そりゃ勿論。まぁ最後は飛鳥のPSが必要となるからな。」
「ぼ、僕のですか?でも・・。」
「随分と余裕だね。」
なんて悠長に話してると、いつのまにか俺たちの目の前に盗賊のボスがいた。もうとっくに煙は無くなっていたのだ。そのまま飛鳥に向かって掌底を放つ。まずい!
「がはっ!」
すぐさま二人の間に入り込み、掌底を胸で受け止める。体を突き抜ける鋭い衝撃。しかし、かろうじて相手の腕を掴むことができた。
そのまま捻って関節技を極めようとする。が、思うように力が入らず、振り払われてしまった。地面に放り投げられ、勢いよく転がる。くそ、うまく呼吸ができない。
「勇さん!」
無防備にこちらを向く飛鳥。後ろで盗賊のボスがナイフを握っている。まずい、このままでは確実にやられてしまう。これはもう、賭けだ。本来なら電撃を当てる直前にしたかったが・・。
折り合いをつけ、右手にぐっと力を入れ、指を鳴らす。未だ半信半疑だが、これで秘密兵器が発動すると説明書に書かれていた。
ーー秘密兵器は白い粉だ。洞窟に入る前に、右手の平にまぶしておいた。これを一定量衣服につけた後に指を鳴らすと・・、
「な・・!」
ボンッ!と音の後に、盗賊のボスの衣服が全て消え去り、長い緑髪が露わになった。
「え!?」
驚きながら、手で両目を覆う飛鳥。俺は弱点に出た数値から、相手が女であることに気づいた。盗賊だろうが、やはり恥ずかしいらしく、一瞬のうちに腕で体を隠す。羞恥心があって本当に良かった。これでナイフは使えないだろう。
「成る程、それで丸裸戦法ね。最低だわ。」
「おい待て、いま大分ピンチだったのにそこまで言うか?」
これをしなかったらパートナーやられてたぞ。
「あら、おかしいわね。普通女だとは思ってなかった!と言うと思ったんだけど。」
「その手があったか。」
これは一本取られた。確かに、女であることを知ってた人の返事だったな。次からはそう誤魔化そう。
「く、やってくれたね!」
なんて油断した隙に、盗賊のボスは既に俺らの背後まで移動していた。そのままアベニールの首に腕を回して、ナイフを突きつける。体をアベニールにくっつけることで、見られないように上手く隠したのだ。
「くそ、羨ましい!何故俺の方に来なかったんだ!」
「そういうこと考えるからよ。」
地団駄を踏んでいると、冷静にアベニールに突っ込まれる。こいつ、喉元にはナイフが当てられてるのに、よくそんなこと言えるな。俺も俺で仲間が危機なのによくそんな言葉が出たとは思うが。本能ってすごい。
「今から僕は服を取りに行く。それまでに何か動きを見せたら、わかってるね?」
こちらに体を向けながら、アベニールを連れゆっくりと奥の扉の方に向かう盗賊のボス。参ったな、となると飛鳥に任せるしかない。
「飛鳥!PSを使うんだ!」
「え、でも・・。」
「大丈夫。十分の一の火力なら、せいぜい気絶するぐらいだ。今なら確実に命を助けれるところを、わざわざ逃すのか?!」
「で、でも動いてしまったら・・。」
「そうだよ、少しでも動いたらこの子を殺すからね。」
ナイフの先をちょんと喉につける。が、じっと黙ってるアベニール。特に怯えたりしている様子はない。確かに、今彼女を殺しても相手にメリットはないから、殺すわけはないと思う。にしても、喉元にナイフだぞ。無反応は豪胆すぎやしないか。まぁあの調子なら、俺がやりたいことをやっていいってことだろう。
「飛鳥、じゃあそのまま地面に打て!それで大丈夫だから!」
先程は手のひらから電撃を出していた。地面なら、相手に手を向けずとも、そのままの体勢でいけるはずだ。
「ダメだよ、本当に殺しちゃってもいいのかい?」
表情にはでてないが、明らかに焦っている盗賊のボス。相手は電撃に弱い。地面から流れる電流でも、気絶するかもしれない。
「距離が離れると当たらないかもしれない!早くやるんだ!」
「・・わかりました!エレキサンダーボルト!!」
そう飛鳥が間髪入れずに言うと、彼から全方向に電撃が溢れ出す。思わず、眩い光に目を細めた。あぁ、放電のことを考えてなかったな。これはもしかしたら死ぬんじゃないかと思いつつ、須臾の間に全身で電撃を受け止める。
「グォオオオオオオオ!!」
肌が痺れる。数秒の間、激痛が全身を走りぬけた。が、意外に耐えることができた。最初に飛鳥が見せた、十分の一の攻撃の数倍の電気量が見えたんだが。俺って意外に電撃耐性があったりするのか?
「勇さん!大丈夫ですか!?」
なんて思ってると、駆け寄ってきた飛鳥。
「あ、あぁ。なんとか大丈夫だ。よくやったな、飛鳥。」
痺れながらも、横目で盗賊のボスが倒れていることを確認する。成功したようだな。流石に全裸で捕らえるのは可哀想だし、あとで服をかけてやろう。
「というか、なんでお前は元気なんだよ。」
その横で平然と腕を組んでるアベニールに文句を言う。そう言えば、ゴムの靴履いてるとか言ってたっけ。まぁ電撃使いのパーティーにいる以上、電撃対策をしてるのは当たり前か。
「答えを言う前に納得した顔をしないでくれる?装備だけじゃないわ。魔力を体にまとって、簡単に障壁を作っていたのよ。あなたの分もしてあげてたんだから、感謝しなさいよね。」
な、そんなことできるのか。成る程、それで思ったよりダメージが少なかったのね。すげぇ、是非覚えたい。
「そりゃありがとうよ。だとしても、下手すりゃ死んだかもしれないんだぞ。最初にも言ったが、事前に伝えてくれとけば楽に済んだのに。」
「それじゃダメなのよ。そうしないと飛鳥の覚悟がつかないじゃない。今回のクエストで、彼に味方の被害があってでもPSを使わせる・・と言うことをさせたかったの。」
「覚悟をつけさせたかったのか?よくそんな余裕があったな。さっきまで死ぬ一歩手前までいたのによ。」
「いいえ、私は死ななかったわ。」
えらい自信満々に言うな。
「そりゃあ、人質を殺すような真似はしないだろうけど、結果論だろ。殺される可能性もあった。」
「いいえ。今回のクエストでそれは無かったの。そう、貴方が来た時点でね。」
相変わらず、全てを見据え、確信を得ている目。おいおい、どういう事だ。そんな、結果がわかってたみたいな言い方。・・まて、そういえば、アベニールは自分のPSを明かさなかったな。明かせない理由があったのか。・・まさか?
「未来予知・・?」」
「!!すごいわ、よく分かったわね。」
目を丸くしているアベニール。そりゃそうさ、そうだとすれば全てのつじつまが合う。
「そうなの?!だったら凄いじゃないか!なら、予め教えてくれれば良かったのに・・。」
確かに、だとしたら路地裏で泣くまで心配しなくて済んだだろうな。でも、
「そうはいかなかったんだろ。言ったら飛鳥の成長にも繋がらないし、それに、未来が見えると言っても確定じゃないんだろ?」
それを聞いてまた少し驚くアベニール。どうやら俺の妄想はだいぶ的を射ているらしい。
「ええ、その通りよ。私が見えるのは一部のビジョンだけ。今のこの状況を見たの。つまりどう言うことか分かるでしょう?」
「ええっと、勇さんがいればいいってこと?」
頭にはてなマークを浮かべてながらそう答える飛鳥。
「それだけじゃダメ。後は生き残るために全力を出さないといけないの。先に結果を知ってしまったら、本気を出さなかったかもしれないでしょ?私も一緒。生き残る未来が見えたからって、油断はできないの。だからもう未来のことは聞かないでね。」
そういいそっぽを向くアベニール。聞くなと言われても、ふとした疑念が頭をもたげてしまう。
「待ってくれ、未来ってのはどこまで分かるんだ?それこそ死んだ未来が見えたらきついだろう。」
「・・そんなのとっくの昔に見えてるわよ。」
空気が重くなるのを感じる。・・今のは大分デリカシーがなかったな。
「でも、今回みたいに周りにいる人を変えたらいいんじゃない?それこそ、また勇さんを呼ぶとか!」
飛鳥がすかさずフォローを入れてくれる。
「だな、不確定要素を入れて不確定にしてやろうぜ。」
そう言いながらもわかっていた。逆のパターンもあり得ると。たぶんどんな事をしても俺はこのクエストに参加していたパターンだ。そうなると、もはや何をしても死ぬ事を止めることはできない。
「勿論、その可能性があることも黙っててね。ちなみに、私が死ぬ時は・・次、貴方と会う時よ。」
思案していると、アベニールに耳打ちをされる。心を読まれたのだ。あの表情の裏で、彼女はどれだけ泣いたんだろうか。




