一縷の望み
「飛鳥、横に飛べ!」
ポケットから煙玉を取り出し、飛鳥の足元へ投げつける。それは地面に着弾すると、プシューと音を立てながら紫の煙を周囲に放った。先程囲まれた時に使おうと、ひっそり用意していたものだ。毒ガスだと誤魔化すように紫のものを買っている。
「くっ!」
口を塞ぎ、煙から距離を取る盗賊のボス。よかった、ちゃんと警戒してくれたみたいだ。飛鳥も煙から離れ、こちらに合流する。この煙のあるうちに作戦を立てなければならない。
「これはただの煙玉だから息はそのままでいい!それよりどうする?こっちの攻撃手段って飛鳥のPSしかないよな。」
状況を整理する。先ほどは手加減していたらしいから、全力を出せば効果が望めるだろう。距離があるうちにもう一発撃ってもらおう。
「そうね。でも、飛鳥はもうPSを使うことはできないの。」
「どうして?」
「飛鳥のPSはまだ、十分の一の火力か全力の二パターンしかないの。前者は効いてなさそうだし、後者は相手が死ぬかもしれないわ。そうなると飛鳥には無理。」
成る程。あいつ、虫も殺せない性格してるしな。戦うように説得したと言っても、運の悪いことに相手は人間だ。化け物ならまだしも、こうなると俺ですら躊躇う。
「だったら使えるのは十分の一の火力の方だけか。どうにかして相手の電気抵抗を下げることが出来れば・・だな。」
「残念ながらそれも無理。連続して二回使えば、放電して周りに被害が及ぶ可能性があるの。そうなると飛鳥自体も一時的にPSが使えなくなる。つまり仕留められなかった時点で、飛鳥のPSは終わりなの。そのPSで、手加減なんてするべきじゃないのよ。」
「うん・・、ごめん。」
しょぼくれる飛鳥。つまり、打つ手は無しということか。いや、待てよ。まだアベニールのPSがある。未だ使おうとしないという事は、あまり使えないスキルなのかもしれないが、どんなスライムを吐くのか気になる。一応聞いてみるか。
「アベニール、あんたのスキルは何なんだ?」
「教えないわ。」
即答だった。
「おいおい、そんな場合じゃないだろ。このままだと死んでしまってもおかしくないぞ。」
「いいの。このスキルだけは教えれないから。」
信用されてないってか?そうなると作戦すら立てれないんだが。使えるものは把握しておきたいのに、何も良くないぞ。俺がいるだけで勝てるんだろ?その自信はPSによるものじゃないのか。
「勇さん、何か事情があるんだと思います。僕も教えてもらってないんで・・。」
・・パートナーにも教えれないスキル?となるとやっぱり、スライムを吐く系の何かしか考えられない。いや、もしかしてお尻から・・なんてふざけてる場合じゃないよな。
「勇、あんたこそどんなPSなのよ。腐っても転移者だし、使えなくはないでしょう?」
誰が腐ってんだこら。でも、そういえば使ってなかったな。もはや頼みの綱はないし、一応使っておくか。
「任せろ、Wサーチ!」
そう言い、スキルを発動させる。こちらを睨んでる盗賊のボスと目を合わせるのは容易だった。
弱点:電撃(84 57 84)
やっぱり使えねぇなこのPS。全く、電撃は今効かなかったばっかりだってのによ。
「ダメだ。やはり俺のじゃ役に立ちそうにな・・。」
いや、待てよ。それでも弱点として出るってことは・・、それにこの数字って!さっき言ってたのはそういう事か!
「アベニール。人にはそれぞれ弱点属性とかあるのか?」
「ええ、勿論よ。最初に神から渡されたルールブックに書いてなかった?」
ちょっと待て、ルールブックなんて一ミリも聞いたことがない。もしかして他にも重要事項があったんじゃないか?まぁ、今はその事を言って時間を使う状況じゃない。
「ああ、そうだったな。逆に得意な属性とかもあるんだっけ?」
「ええ、盗賊のボスがいい例よ。電撃耐性が強いのでしょう。でも、他に弱点があるかもしれないわ。といっても、相手の方がベテランでしょうけど。」
となると確信した。相手は電撃が弱点ってでたが、効かなかった。つまり、あの服装で電撃を凌いでいる可能性が高い。まぁそうだとしても、あの結果なら勝機が見える。
「勇さん、何か攻略法が思いついたんですか?そろそろ煙が晴れそうです。」
飛鳥が心配をしている。紫色の煙はもう殆どなくなっている。でも間に合った。あれを決行しよう。
「大丈夫だ、やるぞ。作戦丸裸戦法だ。」




