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転生

「目覚めなさい・・」



頭の中に声が響く。ふんわりとした優しい声。心地よくて、意識が遠のいていく。



「あ、ダメです。起きてください・・。」



すると、謎に心の声に反応される。となると間違いない、これは夢だ。



「あの、うぅぅ・・人の起こし方で検索っと。えーっと、耳元で爆弾を爆発させる・・ですか。それならちょうどいい爆弾が・・。」



「ちょっと待て!何をする気だ。」



物騒な言葉に反応し、思わず飛び起きる。ちょうどいい爆弾ってなんだよ!兎に角、このままだと永眠させられそうだ。ってあれ?



「あ、やっと起きてくれましたぁ!初めまして、あなたの担当の神、シエンと申します!」



周囲を見渡す。この木造建築の部屋は、どうやら古風な旅館か、あるいは宿泊施設の一部のようだ。白いシーツに包まれたベッド、温かみのある木材の床と柱。どこか心地よい気配が漂っている。そして俺が寝ていたベッドに、なんか訳のわからんことを言っている美女が腰掛けている。一体どんな状況だ?



「戸惑っていらっしゃるので、一から説明しますね。貴方は魔王を倒すためにこの世界に呼ばれた、転移者です!」



ベッドの上で軽く体を動かす。意識もはっきりしてるし、感覚も鋭い。どこだここは・・?顎に手を当て考えてみるが、どうも現実っぽい。前後の記憶もはっきりしている。そう、俺は出張で仕事場に電車で向かう途中だった。そこで軽く仮眠をとっていて・・、



「まさか、死んで異世界転移したとでも言うのか?」



そう理解した途端、晴天時に雷が落ちたかのような驚きが全身を駆け巡りる。転移者とか言ってたし・・ありえる。攫われるにしても、電車内じゃありえないよな。


——異世界転移。

未だ半信半疑だが、幼い頃から抱いていた少年心が少しだけ顔を出す。異世界で無双して世界を救うヒーロー。誰もが一度は夢見たことだろう。二十代になってようやくその夢が叶ったのか。しかし、前世に未練もあるし、感情は複雑だ。



「・・そうか、俺は死んでしまったのか。」



その言葉を口にした瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。現世でやり残したこと、家族や友人との思い出が次々と頭をよぎる。未練がないわけではない。だが、この状況で嘆いていても仕方ないことも分かっていた。



「あ、いえ。死んではなかったんですけど・・。」



ペースを崩され、上体が傾く。死んでないんかい。つまり寝てる間に魂だけ呼んだ・・みたいな感じか。だとしたらこっちで遊んだ後に帰れるとか?



「無理やり殺しちゃいました。」



「ちょっと待て、何してくれてんだ!!」



頭を抱えて絶句し、すぐにじっとシエンを見つめる。



「本当に殺したのか?」



「本当にごめんなさい!でも聞いてください!!仕方なかったんです!!」



そう言い、目を潤わせるシエン。



「犯罪に仕方ないとかがあるのか??」



「いえ、ないんですけど・・法に触れない犯罪なんです!聞いてください!」



必死に懇願する彼女。どうやら、何か大きな理由があるらしい。法に触れない犯罪?意味がわからないが、ひとまず話を聞いてみることにする。



「そっちの世界で最近死んだ人から、誰に転移してもらおうか選んでいたんです。でも、皆怖そうな人ばかり。どんどん締め切りが迫って来てたそんな時、自分が倒したわけじゃないのに、他人の倒れた自転車を起こしてあげる優しい貴方に心を打たれました!でも、死なないとこっちには連れてこれないし、まだ寿命も残っていたので、どうしようかなって迷ってたんです。」



「・・・。」



「それでネットで検索したところ、人を死なすには殺すのが確実って出たんで、殺させていただきました。」



「ちょっと待て、色々ツッコミ所があるんだが、頭が追いつかん。」



手をパーにして、彼女に突き出す。この女は後でしばくとして、とりあえず状況を整理しよう。どう考えても、俺が現世で死んだのは間違いなさそうだな。認識が固まると、再び全身の力が抜ける。心の中に満たされていたものが、ぽっかり空いた穴から全てこぼれ落ちていく。



「あの、やっぱり怒ってますよね・・。」



両人差し指を合わせ、しゅんとするシエン。不思議とあまり怒ってはない。いや、もうどうでもいいというか。切り替えるのには、少し時間がかかりそうだ。



「そうですよね・・ごめんなさい。やっぱり貴方の魂現世に戻しますね。」



「先に情報を整理してくれ!!異世界転移したてで、まだこっちの常識がわかってないんだから!」



再び活力が戻る。生き返れるのか? それだけが気になる。考えるのは後にしよう。とりあえず、シエンの話をもう一度聞こう。



「やっと聞いてくれる気になってくれました!改めまして、シエンと言います。よろしくお願いします。」



笑顔を見せたあと、ぺこりと頭を下げるシエン。明るい水色の短髪と瞳、純真さを象徴するかのような白い肌に白い服。スカートが黒なのは滲み出てるサイコパスを表している・・なんてのは邪推か。にしても、よく見ると本当に綺麗な顔立ちをしている。こんな状況でなければ惚れていたかもしれない。



「・・勇だ、よろしく。」



照れ隠しで目を背けながら、そう言う。彼女が最初に「神」だと言っていたことが気になるが、現実では神なんて幻想だと言っていた俺も、この状況では信じるしかない。


「シエン、俺を殺したのはこの際いい。重要なのは、俺は生き返ることができるのか?」



シエンの目を見て、単刀直入聞く。これがイエスかノーかで、今後どう動くか決まる。



「はい。魔王を倒せば、元の世界に生き返らせれます。」



魔王を倒せば生き返れる。その言葉には希望よりも重圧が込められていた。魔王とは一体どんな存在なのか。そして、自分は本当にそれを倒せるほど強くなれるのか。不安が胸中で渦巻く。



「転移者は優れた能力を持ちますから、魔王を倒すのに十分な素質があります。なので、被害が出る前に貴方たちを呼んで対策をしたと言うところです。」



「貴方達?他にも転移者がいるのか。」



「はい。沢山いた方が討伐も楽ですし!」



卑怯なことを考えるものだ。別の世界の力を使って、無理やり勇者を大量に作り出した・・といったところか。常識はずれにも程がある。でも、そうなると・・、



「まて・・さっき貴方の魂戻しますね、と簡単に言ってたけど、それはどう言うことだ?」



魔王を倒さなければ生き返れないはずなのに、なぜ簡単に戻せると言ったのか?



「実際生き返ることは、大きな力を持った存在を倒し、そのエネルギーを使うことで可能になります。つまり、大きな力を持つものであれば、魔王でなくてもいいんです。例えば、神だとか。」



「お前、それ自分で言ってて怖くならないのか?」



「はい!私は神の底辺なので生き返るにはエネルギーが足りません。なので、別の神を殺してもいいかなと。」



ただのサイコパスだったわ。そういえば俺もそうやって殺されたんだった。



「まぁいいや。最悪他の人が魔王を倒せば、生き返れるんだろ?」



「でも、何も貢献しなければペナルティがあります。」



ちっ、やはりそう簡単にはさぼれないか。



「私が怒ります。」



「それぐらいなら別にいいかと思ってしまうんだが。」



全然しっかりしてねーな。大丈夫かこの世界。



「でも大丈夫です。サボらないいい人を選んだつもりなので!」



それはずるい。さらに純粋無垢な笑顔で言われたら、男として裏切るわけにはいかないな。そんなダサい真似はできない。



「分かったよ。せっかく選んでくれたんだ、やれるだけやってみよう。改めて、これから宜しくな。」



「はい!宜しくお願いします!」



無理やり腹をくくる。前途多難だが、なるようになるだろう。軽く握手を交わし、俺はベッドから降りた。足を床につけた瞬間、異世界の空気が肌を包み込む。これから始まる冒険への期待と不安が入り混じる中、新たな一歩を踏み出した。

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