8 新パーティ、ダンジョンに行く 2
私たち六人は見張り役を交代しながら、ダンジョンを下りて、今は二階で薬草採取をしていた。この辺りまでは特に襲ってくるようなものも居ない、ということで食事を兼ねた休憩を取ることにした。
私は背負っていた荷物から、トイレを出した。トイレ、といってはいるものの、正確には椅子付きのテントだ。買うと結構お高い製品なのだが、母に断って借りてきた。
「京香ちゃん、いつもありがとう。すごく助かる」と真奈ちゃんと里ちゃんが言った。
「わ、コレはトイレじゃん。実際に見たのは初めてだよ」と寺田くんが驚いていた。
「うちの家にあったので、借りてきたの。使ってね」と私は組み立てながらみんなに言った。組み立てるといっても大したことはない。袋から出して空気を入れるとシューっと膨らんで自立するテントの中に、便座を模した椅子部分が出来る。その座面の所に箱入りのクリーン容器を置くだけ。テントの隅に除菌シートと携帯用の音消し、ペーパーを並べておいた。
テントは昔からある海やキャンプで使う一人用着替えテントのサイズで、ちょっと違うのはトイレっぽい便座もテントについているところかな。でもって、そこに現代のダンジョン特許で作られた「クリーン容器」をセットする。これがもうスゴイの!そこで用を足して、「クリーン」と言うだけで、容器の中にあるものがサラッとした砂状になり容器にセットされた黒いゴミ袋に移される。ゴミ自体も1週間分(四人で使用した場合)で拳ひとつ分くらいのコンパクトさ!
テントの素材も、組み立てると少し硬くなるあたり、ダンジョン素材なんだろうな、と思われる。何使ってるのか、全くわかんないけど。
クリーンは、水魔法と浄化魔法のアレンジじゃないかと思うんだけど、スライムの核をセットしておけば、数回分は使えるリーズナブルさ!初期費用がちょっとお高いんだけど、軽くて持ち歩きが楽なので、泊まりでダンジョンに行くダイバーには必需品となっている。シャワールームバージョンもあって、こっちもギルドの売店の売れ筋商品だ。
トイレについて熱く語ってしまったけど、野外での用足しって、重大事項だと思うの。これが出来てから、野外フェスとかでもトイレがキレイになって嬉しいってよく聞くし、やっぱりすごいよね?
かつての災害大国日本なら、被災地での利用が一番考えられたんだけど、ダンジョンが出来てから地震とか噴火とかが起こってないので、そういう利用法は無いみたい。
ドキュメンタリー番組での解説で観たけど、そういう災害が起こるエネルギーが全部ダンジョンに吸い上げられてるんだって。どうも魔素に変換されてるんじゃないか?ってトンデモ理論ぶち上げてる人もいるんだけど、満更大嘘とも言い切れないのよね。
だって、オゾンホールの穴も少しずつ修復されてるらしいんだもん。ダンジョンが出来てから良い事尽くめに聞こえるけど、ダイバーの死亡率考えたらそうでもないかな。
私たちみたいに浅いところでチョロチョロしてるような初心者じゃなくて、深い所に行くダイバーは、居なくなる。誰も現場を見たことがないから、どうなったのか分からない。居なくなったとしか言いようがないらしい。