31 ダイバー入門
夏になり、京香たちは三年生になっていた。進学を目指すものは受験に、就職を希望するものは就職活動に、とそれぞれ動き出していた。
「京香ちゃん、で、結局進学にするの?」里が情報室のソファに座って聞いてきた。
「私のこの数ヶ月色々と考えてきたんだけど… 就職にしようかと思ってる」
「ギルドの試験受けるの?」真奈も話しに加わった。
「うーんとねえ、ギルドじゃなくって田中DP㈱受けようかと思って」
「ええ~すっごく狭き門だよ」
「うん、それがね、先輩の残してくれたこのカードによるとね、ダイバーのギルドの評価って、就職とか進学の推薦書にもなるみたいなのよね」
京香は里と真奈に説明した。
ダイバーとしての実績やパーティのギルド貢献は、そのまま個人のギルドでの信用度となり、評価の高い推薦書として扱われるらしい。
あくまで、「らしい」ので、家で両親に聞いてみたところ、「ダンジョン省に入省するダイバーにもその手の推薦書は有効だから、信憑性は高いはずよ」と母親に言われた。「だってお父さんがダンジョン省勤めになってるんだよ」とものすごく説得力の高い一言だった。
「ほら、住吉くんたちの友だちの子が怪我した事件があったでしょ?」京香が続けた。あの時にギルドの人がダンジョンでひどい怪我にならないように見張ってたって、聞いたでしょ?そういうのって良いなあって思って。新人ダイバーの手助けとか私も出来たら良いなぁって。でもいきなり私みたいな高校卒業したばっかりの子が、そんな部署には行けないでしょ?
「うん、多分ハイレベルのダイバーさんが引退してから働くようなとこだよね」里と真奈も同意した。
「うん、だから今は好きなことと興味のあることを経験して、ダイバーのレベル上げをしようと思って」ギルドに問い合わせしたら、私たちのパーティって結構評価高いのよね、知ってた?
「一応知ってる。私たちは、これでもギルド受けるんだよ。エントリーシートを出す前に、ギルドに評価の確認をしたもん」里と真奈が笑った。
「田中DP販売㈱は、試験よりも面接重視みたいなんだよね。ギルドの推薦書と学校からも推薦貰えそうだから、後は私の人間次第、かも」京香は、落ちたらダメージ大きいよねっと、泣き真似をしながら戯けて言った。
「京香ちゃんなら大丈夫じゃない?」「うんうん」
「それじゃあ、ずっと私たちがギルドで働いてたら、いつかは同僚になるってことね」と真奈が里と京香に言った。
「まずはギルドに合格もらわないとね」と里が返事した。
「来る試験に向けて、ケーキでも食べて気力をマシマシにしておきましょう」三人は笑いながら荷物を片付けて、ダイバー情報室を出ていった。
「うちのパーティの女子たちは、いつも元気で賑やかだな」残された男子たちは、進学に向けて予備校に行く前の一時を情報室で楽しんでいたところだった。
和哉は薬学部、中でも異世界マリサに派遣された教授の所属大学への進学を目指していた。同じような考えの受験生も多いことから、既に受験も厳しくなると思われていた。
尾形と寺田は、国立大学の治癒学部を目指していた。こちらも難易度が高いことに違いはない。それでも三人は自分の道を目指して、頑張っていた。
初心者としては信じられない位に盛りだくさんではあったが、まだ彼らのダイバー生活は始まったばかりだ。入門編としては、まずまずの始まりだ、と和哉たちは笑い合った。
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