28 ダンジョンでの負傷
「住吉!正木!聞いたか?お前の知り合いのダイバーが怪我したらしいって」放課後尾形が情報室に入るなり、語尾強く聞いてきた。
「え?」問われた二人も、一瞬何を言われたのか分からなかった。
「怪我、ですか?ええっと、知り合いというと田中のことかな?」住吉と正木の頭には如何にも怪我をしそうな知り合いのダイバー、中学の同級生だった田中を思い浮かべた。
田中というのが、グリーンライトと住吉と正木が知り合うきっかけとなったダイバーだった。住吉たちの中学と同級生で、何も知らない初心者の二人を中級ダンジョンに連れていき、あわや、というところをグリーンライトが助けに入ったのだった。
その田中を含む数名のパーティは、住吉たちが袂を分かってからも、実力に見合わない無理な討伐や、戦闘中の横入りなど評判がすこぶる悪かった。
ギルドでも中級ダンジョンへの立入禁止など、対応はしていた。しかしながら悪い方に賢かった彼らは、初心者向けダンジョンでも金額重視の狩りをしては、マナー違反を咎められていた。
昨日、尾形が自宅近くの初級ダンジョンのギルドの売店で買い物をしていたところ、急にダンジョン入口付近が騒がしくなった。入ダンが禁止となり、数人のギルド職員がダンジョンへと走っていった。担架など救急セットらしきものを持っていたので、怪我人の救出活動かな、と眺めていたそうだ。
尾形は邪魔にならないように、通路を塞がないあたりに立っていたのだが、すぐ側にいた人の噂話が耳に入ったのだそうだ。
「あれって、例の傍若無人ダイバーたちらしいよ」
「ああ、あの助けてもらっても文句言う子たち?高校生の」
「なんか、蜂とボアに襲われてる子たちがいるって救援呼んだダイバーさんがね、あのマナーの悪い子たちじゃないかって、受付で言ってたんだって」
そんな会話をよそに、担架で運ばれた血まみれのダイバーたちはポーションを掛けられ、応急処置をされていた。どのくらいの時間襲われていたのかも不明だったので、救急車で病院に運ばれるらしい。
ポーションで血を洗い流されて、見た目はかなりきれいになっていた。細かい怪我もポーションの影響で、治っていたが、骨や内臓の損傷を調べる必要はありそうだった。
四人いたダイバーの二人が救急車に乗せられて行ったところまで見て、尾形は帰宅したとのことだった。
「田中は、中学の時は良いやつだったんです。割と仲良くしていて、ギルドの売店で再会してダンジョンに誘ってくれて、嬉しかったんです。なのに、なんで…」
「ダンジョンで自分が思ったより魔法が使えたり、身体強化を最初から使えるやつは、あんなふうに弾ける事が多いらしい」尾形が住吉を慰めた。
魔法や身体強化は、大抵の人には制御の練習が必要だが、稀に最初から上手に使いこなせる場合がある。その場合、ダンジョンで感じる全能感のせいで行動力にブレーキが掛からないらしい。
住吉の友人、田中はその稀なパターンに当てはまってしまったらしい。力、というのものにはやはり良い面もあれば振り回されてしまう面もあるらしい。




