24 長田ダンジョン
「ただいまー」
「おかえり、京香」
帰宅した京香はいつものように着替えを済ませて、リビングに行った。母が夕食を出す用意をしていた。
「お父さんは?お風呂?」
「いや、今日は遅くなるって。ほらギルド関連の話し合いがあるんだって」とお皿にキャベツととんかつを盛りながら、母が言った。
「やっぱり異世界関係で忙しいの?お母さんたちも」
「うーん、守秘義務もあるからあんまりはっきりは言えないかな」
「この間ダンジョンで前田さんに会ったよ」
「え?何?聞いてないんだけど」
「私も言っちゃいけないのかと思って黙ってたけと、前田さんがあんまり隠してないから、馬鹿らしくなっちゃって」
「それでも一応仕事の話は家ではしません。京香も知らないでいる方がいいのよ。知ってたら言いたくなるし」
「前田さんの話から、学校でパーティメンバーと将来の話になって」
「うん、それで?」
「みんなしっかりと希望があるわけよ。私以外は。真奈ちゃんも里ちゃんも、ギルドに就職していつかは異世界に行くんだって。男子は男子で薬師になるとか、治癒士になるとか言ってるし」
「薬師は、あの子でしょ?藤井さんのところの和哉くん」
「ああ、うちのお父さんとお母さんが家に薬草納品に来るって言ってた。藤井くん」
「ちっちゃい時から知ってるけど、最近はあんまり会わないのよね。大きくなったんでしょうね」
「170は超えてるかな。一人背の高い子がいるから、そんなに大きくは感じないけど」
「で、京香は将来の夢がないから困ってるの?」
「…急に話題を戻さないでよ。もうびっくりしちゃって、言おうと思ってたこと忘れちゃった」
「大事なことなら思い出すわよ。ふふっ」と笑って言われた。それもそうかと京香もそのまま、母の流れるような会話に乗ってその日の夕食を終えた。
週末の土曜日、京香たちのパーティ「グリーンライト」は、長田ダンジョンに集まっていた。ワイルドボアと呼ばれるモンスターを狩って、核集めとダンジョンエラーの肉目当てだ。受付で入ダンの手続きを取った。
「グリーンライトさん、手続き出来ました。最近ワイルドボアが多めに出没するので気をつけて行ってね」
「ワイルドボア、多いんですか?んー、ああ、前田ダンジョンに人が集まってるからですね」と和哉が受付の人に言った。
ちなみに前田ダンジョンとは、京香たちグリーンライトが前田と出会ったダンジョンのことだ。元はもっと違う名前だったのだが、前田の帰還で名称が変更になったのだった。
京香たちは、そのまま長田ダンジョンに潜降した。アップ代わりにゴブリンを数体倒し、ゆっくりとしたペースで
階層を下に移動した。
ちょうど階段を下りたその時だった。
「わあああ、何やってるんだ!ワイルドボアに当てろよ」という声が聞こえたのは。
京香たちは一気に攻撃態勢をとった。ボアが数体いて既にダイバーたちとの戦闘が行われていたからだった。
ダイバーとモンスターとの戦闘に割って入るのはマナー違反なのだが、いつモンスターが京香たちに気づいて襲いかかってくるか分からなかった。グリーンライトはそれに備えたのだ。




