21 子ども時代の終わり
春が来て、京香のパーティメンバーは無事に高校二年生になった。パーティとしての活動も順調である。つい先日とうとうパーティメンバー全員が簡易鑑定を持つことができた。
真奈と里は鑑定を育てたり、水魔法を磨いたりと、ギルドへの就職を目指して意欲的だ。
寺田と尾形も、水魔法と治癒魔法のランクアップを目指して、ダンジョンでの活動に勤しんでいる。もちろん和哉も同行して、頑張っている。
京香一人が、先の希望を持てないまま過ごしていた。
ダイバーになったのは、資格が取れる年ごろになったから。友人たちが鑑定スキルを取りたいというので付き合った。京香は自らの希望や将来の夢というものを、持ち合わせなかった。
高校二年になったが、クラスは成績から文系に進んだ。
真奈と里も文系に進んだが、彼女たちは既に進路を決めて、そのための準備を進めている。
パーティメンバーの男子たちは、和哉は元々薬剤師志望で、尾形は治癒士の道へ、寺田は理系に進むという方向は決まっている。この友人たちの中では寺田が一番京香に近いと思っていた。成績だけで文理選択を決めたという点が。
「寺田くんは、進路って決めてるの?」京香はダイバー情報室で、寺田に聞いてみた。
「今のところきっと治癒士を目指しつつ、気になることがあったら方向転換すると思う。でも、仕事として考えたら治癒士も有りだと思ってる」寺田は、素直に返事をくれた。
「なに?菊池、進路迷ってるの?」
「うん、私は何もやりたいことがないのよね。だからみんながしっかり将来を考えてるの、凄いなあって思って…」
「僕も和哉や尾形みたいに、将来の夢を持ってるわけではないよ。どっちかと言うと周りの意見に流されてるかな」と言って、寺田は笑った。
「里ちゃんがこの間、ギルドに就職したら、マリサに行けるかもって言ったでしょ?」京香はゆっくりと自分の気持ちをまとめながら、少しづつ口に出した。
里ちゃんがあんなふうに自分の希望を言ったので、私はびっくりしたのよ。だって、里ちゃんはどっちかと言うと、私は真奈ちゃんの言うことに、そうしたいのなら付き合うわって、後ろからついてくる感じだったから。
だから守ってあげなきゃって風にずっと思ってたっていうか、でも里ちゃんにも自分の気持はあって… みんなにもそれぞれの考えがあって、希望があって、いつまでも一緒に遊んでいられるわけじゃないって、ハッキリと宣告された気分になっちゃったの。
京香は、子ども時代の終わりに直面して、寂しくなったんだなあと言うことに、寺田に話しながら気がついた。
「置いていかれた気分になったんだな?」寺田は続けて、
大丈夫、きっとまた菊池が先に進んでて、僕たちが後ろから走って追いつくようなことになるよ。友だちなんだから、追いかけっこしながら先に向かって行くんだよ。誰も一人だけ置いてなんか行かないさ。
「そうだね」京香は寺田に向かって、笑って答えた。




