18 異世界と前田と
ギルドの県支部に呼び出されてから数ヶ月たった。蜂の巣退治は順調にこなし、簡易鑑定を持っていないのは残すところ里のみとなった。
ここ数ヶ月、前田の帰還が起こした騒動で世間は大変だった。前田自身は表にはでなかったのだが、ワイドショーやら言語学やら政治の話から経済活動の話まで、多岐にわたっての議論が行われていた。
何と言っても「異世界」の存在が明らかになったのだ。京香たちの間でもどんなところだろうか?魔法はあるのかな?と言った話題は少なからず上がった。
テレビや新聞の報じる(ネットニュースは信憑性を確認できないので大手マスメディアに絞って調べた)ところによると、異世界は地球の中世くらいの発展具合で、まさしくラノベの異世界そのままだった。
日本中が沸き立った。新たな国との国交に、新たな経済活動のチャンスに。
前田が五年を過ごした国には、ギルドがあり、ダイバーがいてモンスターと戦っていたらしい。もちろん人の営みはどこに有ってもそれほど違いはない。いわゆる普通の暮らし、というものも存在しているそうだ。
成り立ちによって文化は違えども、宗教があり、仕事があり、政治がある。まだ見ぬ国との取引に、今から皮算用をして得る利益に国中が騒いでいるかと言えば、ダイバーたちはそうでもなかった。
学生である京香たちは、今騒いだところでその騒ぎに乗じてなにかか出来るわけではない、ということが分かっていた。
ギルドの面々も、新たに対応しなくてはならないモンスターについて、情報を集めることが優先された。
ポーション屋である和哉の実家では、今現在作っているポーションが、異世界でも効果があるのか?という試すことも出来ない状況にあった。
ダンジョン省から下りてくる情報では、今のところ前田一人が情報元であるために精査出来ずにいた。おそらく他にもいるであろう消えてしまったダイバーの行方と、前田が帰還できたルートが鍵となっているのだった。
しかしながら、前田と出会ったダンジョンの下層階は、ギルドによって封鎖されて立入禁止となっていた。浅い階層には行くことが可能だったが、チラッとでも異世界に通じる階層に行きたがるダイバーでダンジョンは混みあっていた。
そんな背景でのダンジョン行きで、蜂の巣退治を行っていた京香たちは、渦中の人である前田とばったりと出会った。
「よう!久しぶりだな。元気だったか?」前田は呑気に手を上げて話しかけた。
「前田さん、どうしてこんなところに?」和哉が周りを見回して、会話を聞いている人がいないか声を潜めて言った。
「五年もあれば大事な人というのは出来るもんだよ。これから家に帰るんだ」前田は家人への土産なのか大きな荷物を背負って、にこやかに言った。
「帰るって?ここから異世界に通じてるんですか?」
京香たちは驚いて声を上げた。
前田が言うには、各ダンジョンの奥のエリアには異世界に通じる扉があるのだそうだ。これは先日ダンジョンで京香たちと会った時に確信したのだそうだ。
あの日、前田は向こうのダンジョンに潜っていて、そこでのボス討伐を果たしたところだったらしい。その後現れた扉を開けると、京香たちに出会った、ということだそうだ。