17 ギルドの県支部
ダンジョンが世界中に出来て、だいたい二十年くらい経つ。ダンジョンの奥深くに潜降するダイバーたちの中には、突然姿を消す人がいる。
ダンジョンの中で姿を消すのだから、世間的には深層階で亡くなったのだろうと、考えられていた。
先日ダンジョンで会った前田幸矢という人も、行方不明になって五年ほど経つので、亡くなったと思われていたのだった。
京香たちのパーティメンバーがギルトの県支部に呼び出されたのは、ダンジョンで前田と会った日から一週間ほど経ってからだった。
「君たちを呼び出したのは、他でもない、前田幸矢の件でだ」ギルドの県支部長だという松島さんという中年男性が話しだした。
その人が言うには、前田さんとあったこと自体を他言無用にして欲しいとのことだった。
「すみません、既に両親に話しました」京香や和哉、他のメンバーも口々に言った。他言無用というならあの日その場で言ってもらわないとな〜と、六人がそれぞれに考えていると、更に「きっとそうだろうと思ったので、これから極力広めない方向で頼みたい」と言われた。
「全く何の説明もないままでは納得できないだろうから、言える範囲で説明しておきます」と松島さんは丁寧な口調で話しだした。
前田さんは、五年前にダンジョンにメンバーと共に挑み、ボス討伐戦の後行方不明になったそうだ。そして先日、京香たちがダンジョンでゴブリンと戦っていた際に、姿を見せたらしい。一緒にいたパーティメンバー二人は、まだ行方不明のままだ、いうことだ。
「話せることが少なくて申し訳ないが、前田さんとはこれから事情を確認することになるので、私たちもまだ何も分かってはいないのです」と真面目な顔で松島さんは語った。
京香たちからすると、何も話してはいないのと同じだったが、事情聴取がこれから、というのと、ギルドの県支部長にさえ説明がなされていない、ということが分かった。
松島さんの説明が、真実か否かを知るすべを京香たちは持たなかった。だが話せることは聞かせてもらったのだろう、ということは理解したので、そう返答してその場を辞去した。
帰り道では口々に、アレでは説明になってないよね、という話になったが、詳しく知ったところで高校生に出来ることなど何も無いな、という身も蓋もない結論に達した。
五年にわたって行方不明だった人がダンジョンの奥から出てきた、みんなの頭にそれがこびりついていた。地底人の国?異世界?口に出すと荒唐無稽過ぎて、自分でも笑ってしまいそうで、話せなかったが、ここに居るみんながきっと同じようなことを考えているのだろうと思った。
数日後の新聞の見出しは、「ダンジョンの行方不明者は異世界に?」というオカルト雑誌もかくや、というものだった。
和哉は、本当に異世界だったとしても、なんで文字にするとこんなに胡散臭いのだろうか?と新聞を眺めながら思ったのだった。