11 家族の食卓
この度、被災された方々にお見舞い申し上げます。
皆様のご無事をお祈りしております。
暗くなるのが早くなった。もう11月だから当然だ。玄関に明かりがついているので、両親は家にいるだろう。
「ただいま」「おかえり」と母とやりとりする。どうやら父はお風呂に居るらしい。
「もうすぐご飯だからね」と言われたので、洗面所で手洗いをして荷物を部屋に置きに行く。
「何かすることある?」「もうお皿運ぶだけだから、お茶淹れといて」
「おかえり」と言いながら父が髪の毛を拭き拭き、ダイニングテーブルにやって来た。
「ただいま」とお茶を淹れながら返事をした。
父はそのまま冷蔵庫から缶ビールを出して、飲んでいた。
三人で食卓を囲み、今日の出来事を話しながら食事をする。今日はダンジョンに行くと予定を話していたので、どうだったのかを聞かれた。
「三階で、蟻に遭ったの。びっくりしたわ」
両親は驚いて食事の手を止め、私を見た。
「大丈夫だったの、って無事だからここに居るんだよな」と父はホッと息を吐いた。
そこで、藤井くん達から聞いた水魔法で蟻退治をする方法を説明した。二人は感心したようにうなずきながら、ご飯を食べていた。
「藤井っていうのは、あのポーション屋の息子だな」なかなか良く予習してるな、と父は呟いた。
「やっぱり魔法制御がどれくらい出来てるかが、攻撃にしても防御にしても大事みたいだから、今度は制御の研修に行こうって言ってるの」と私が言うと、母が笑いながら、それは良いわねと言った。
父がなんとも言い難い顔をしているので、きっと何か有ったのだろう。
「田中DP㈱が主催のやつか?誰が講師なんだ」
「チラシには高橋康太って書いてあるよ」
「高橋か、かなり上級の講師が出てるからよく教えてもらって来い」と偉そうな父に、母がとうとう吹き出した。
「お父さんも、高橋さんに教えてもらったのよ」と母が言うには、かつて田中DP㈱の前社長さんが講師をした研修会で、制御が甘すぎる父は、教えることを拒否されたらしい。
その前社長に代わって、父に「電撃」を教えてくれたのが、高橋さんだったそうだ。
「お母さんも教えてもらったの?」と聞くと、母はちょっと自慢気に、わたしは田中さんに教えてもらったのよ、と言った。
「その社長さんが今のポーション作ったんでしょ?凄いね」と言うと父が「いけ好かねえ、年寄だよ」と悔しげに吐き捨てた。
どうやら父は、研修会で教えてもらえなかったのが、未だに悔しいらしい。母と目を合わせて、父の大人気なさを笑い合った。
今度の魔法制御の研修会は、一つをしっかり制御する方法をメインに、習熟度別にもっと複合魔法を使えるように指導が入るらしい。
前回の研修でテニスボールを使った練習を見てから、私はテニスボールで水を操る練習をしている。最初の頃はすぐに落としていたが、この間からちょっとコツを掴んだかも、と思うような制御が出来てきたので、次の研修会が楽しみなのだ。