10 三階で蟻に遭う
この度被災された方々にお見舞い申し上げます。
皆様のご無事をお祈りしております。
しばらく採取作業に専念していたが、里ちゃんの声で顔を上げた。
「右前方、蟻数匹確認」
里ちゃんの立ち位置から右の方を見ると確かに蟻の隊列が見えた。私と真奈ちゃんが立ち上がり、里ちゃんの前に立って、水魔法を打ちだす準備をする。
果樹園の方にいた男子たちも、周囲を確認し私たちが見落としている蟻がいないか警戒している。
「京香ちゃん、バレットお願い」と真奈ちゃん。
「オッケー」と言って私は細く細く絞って加圧したウォーターバレットを数発打ち出した。
蟻は一瞬ひるんだが、ウォーターバレットをものともせずに私たちの方に向かってきた。結構自信あったんだけど、やっぱり蟻の外殻には効かなかったか。
「真奈ちゃん、やってー」と声を掛けた途端に1番手前にいた蟻がウォーターボールで包まれた。お、苦しそうだ。
「そのまま頑張れー」と藤井くんが応援している。私も真奈ちゃんが攻撃しているのとは違う蟻をウォーターボールで攻撃した。里ちゃんも寺田くん達に援護を頼んで、私たちの攻撃に参加していた。
数分後、見事に蟻数匹は、核を残して消えた。
真奈ちゃんと私とで、ドロップの確認をしていたら、核と一緒に小さい瓶が落ちていた。ポーション、と言いたいところだが、きっと「蟻酸」だと思う。人体には良くないけど、ダンジョン産の革製品の加工に役立つのか、ギルドの買い取り品となっている。
「ここで蟻に遭うって珍しいよ、だいたい田中DP㈱の人が退治してるし」と、尾形くんは嬉しそうに言った。同じパーティだから、収入は人数頭割りの約束なのだ。ちょっとでも金額が上がるのはたしかに嬉しい。
「どうする?蟻の来た方向探したら他にも見つかるんじゃない?」と珍しく里ちゃんがアグレッシブ。
私たちは、周囲を確認してみることにした。
「おーい、こっちー」寺田くんが声を上げた。私と藤井くんは警戒係、他の三人が寺田くんの方に寄って行った。四人は話し合っていたが、そのまま攻撃することにしたらしい。
真奈ちゃんと里ちゃんが、水魔法を地面に向かってガンガン撃っていた。
どうやら蟻の巣を見つけて、そこに水を注いでいるらしい。中から蟻が出てくるかな〜、数多いと大変だけど大丈夫かな?と藤井くんと話していたが、四人の魔力量で対応できたらしい。
「藤井、菊池、ちょっと来てくれ」と尾形くんに呼ばれて、私たちは里ちゃんと寺田くんに代わってもらって、蟻の巣まで行った。
「これ、俺もやるから、一緒に土魔法で中身出してくれないか?」と尾形くんが私たちに言った。尾形くん、私、藤井くんの3人は土魔法が使える。
三人で土魔法を使って、死んだ蟻の残した核やドロップ品を取り出した。時々瀕死の状態の蟻もいたので、要警戒だ。
女王蟻もいたので、結構大きい蟻の核があり、私たちは精算を考えてホクホクしていた。
里ちゃんと寺田くんに警戒役を任せたまま、四人で核とドロップ品を集め、荷物に入れた。果実が場所を取ってるので、これ以上は鞄に入らないよね、と言うことで今日はダンジョンを出ることになった。
買い取り受付で精算を頼み、頭割りで収入を受け取る。受け取るとは言ってもカードへの入金なんだけどね。お、凄い!六人で割っても三万以上ある。さすが蟻の巣!