二章
ー早く消えてよー
気がつくと、近所のスーパーのフードコートにいた。目の前では彼女が照り焼きバーガーを食べていた。
「聞いてる?私の話」
「もちろん」
正直、彼女に見惚れていて、彼女の話が頭に入ってきていなかった。もともと僕は、会話を弾ませるタイプではないし、たとえ会話をしていても、彼女の可愛さに気を取られて、話を聞いていないことが良くあった。
「何?何かついてる?」
自分の顔をじっと見られて、彼女は不思議そうに言う。
「いや。なにも。……可愛いなと思って」
僕は思ったことを言う。思ったことは、伝えなければ伝わらない。伝えても、伝わらないことも多いけれど。
「君はすぐ、そういうことを言う」
彼女は恥ずかしそうに笑い、顔を照り焼きバーガーで隠す。照れるとすぐに何かで顔を隠す、そういうところも、可愛くて好きだった。
「ビッグマックってさ、絶対綺麗に食べられなくない?」
照り焼きバーガーのソースがついた指を舐めながら彼女は言う。
「私の口の大きさもあるかもしれないけどさ。絶対に具が後ろの方に出ちゃうんだよね。紙で包む系だと後ろから押して調整できるけど、ビッグマックは箱から出しちゃってそれもできないし。結果としてめちゃめちゃちびちび食べちゃう」
指を舐め終わった彼女は包み紙を丁寧にたたみ始める。指が白くて細く、綺麗だなと思った。
「確かにね。一人で食べてる時は綺麗に食べるとかあんま気にしないからいいけど、誰かと食べようとすると、少しずつ食べるぐらいしか方法がないね」
先に食べ終わっていた僕は手持ち無沙汰だったが、彼女を見習い包み紙を丁寧に畳むことにする。
「でもビッグマックってさ、アメリカンサイズなんだから、アメリカンに豪快に食べたいじゃん。だからやっぱ、ビッグマックはテイクアウトすべきなんだよね。家だと周りを気にせず思い切り食べられるから」
そう言った彼女の口の端には照り焼きソースがまだ少しついていた。僕がそのソースを拭うと、彼女はなぜか得意げにフフッと笑うのだった。
周りの目を気にする子だった。シャイで、照れ屋で、恥ずかしがり屋で。そこが可愛いと思うこともあったし、めんどくさいと思うこともあった。そして、見ず知らずの他人なんてどうでもいいと思う僕の性格との相性は、やはり、そんなに良くなかったのだと思う。そこまで考えたところで、意識が途絶えた。
蒸し暑さで、目が覚めた。彼女と食事に行った夢だった気がする。なぜいつもこんなにも健全な夢なのだろう。どうせだったらsexの時の記憶とか、一緒に風呂に入っていた記憶とか、そう言うものを再生して欲しい。それはそれで、目が覚めた時に死にたくなるのだろうけれど。
「おはようございます!外、晴れてますよ。良い天気です笑」
この前会った女からメッセが来ていた。一度目の食事で、どうやら僕は嫌われずに済んだらしい。今日は2回目の食事で、お酒も交えて話すことになっている。この前よりは腹を割った話ができるだろうか。