チェックメイトですよ先輩?
この作品は「なろうラジオ大賞4」の参加作品です。
放課後の教室。男女の学生が机を向き合う形で椅子に座っていた。机の上にはチェス盤が置かれており、二人が対戦をしているのは見てわかる。
「詰んでますよ先輩」
そう言う後輩の綾音が頬に手を添えて、笑みを浮かべている。
先輩である良介は、しかめっ面のまま固まっていた。
「ぐぬぬ……」
「どうしたって先輩に逆転の目はないですよ。潔く負けを認めましょ」
良介は負けを認めるしか道はないと理解していた。
「さぁ約束通り、敗者の先輩は好きな異性を教えて下さい」
二人がどうしてチェスで勝負をし、敗者は好きな異性の名を教えなくてはならないのか。時間は今日の朝まで遡る。
元々二人は将棋部の部員である。当然チェスもやれた。そして朝良介が教室の前に部室に寄る習慣があった。
「あれは……」
良介が移動中に偶然校舎の裏手から誰かの話声が聞こえ、悪いと思いつつも、壁越しから覗いてみると、そこには彩音と男子生徒が向き合っていた。
「好きです、彩音さん!」
男子は彼女に気持ちを込めて告白したのだ。そんな場面に良介は遭遇してしまい気まずくなったが、彼女がどう答えるか気になり動けなかった。
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、他に好きな人がいるの」
丁寧にお辞儀をして断ると、男子は悲しそうに去って行った。そして彩音は良介がいる方を向いて、
「見てましたよね先輩」
「どうして俺がここに居るってわかったんだ」
「ここは部室を通るのには近道です。そして朝先輩は必ず部室に来ますよね。だからこの時間で返事したんです」
まるでわざと良介に見られるように。
「今の陸上部のエースだろ。断るのは勿体ないと思うが」
「盗み聞きしてたならわかってる癖に。私にも好きな人がいるんですよ」
彩音はため息交じりに首をすくめた。そして続けて言う。
「理由を知りたいなら勝負しましょう」
「勝負?」
彼女の思惑が不明な良介をよそに、
「鈍い先輩のため私が断った理由。チェスで勝負し負けたら自分の好きな人を言う。どうですか?」
良介は馬鹿馬鹿しいと思いつつも、彩音の想い人が凄く気になる。
だから話に乗った。
そして時間は今に戻る。
「俺が好きな異性は……、あ……」
良介が好きな異性は目前の彩音だ。だが面と向かって伝えるのは恥ずかしく、言い淀んでしまう。
そんな気持ちが彩音に見透かされているのか、良介が言う前に、
「チェックメイトですよ先輩?」
言いながら彩音はキングの駒を、クイーンの駒で倒したのだった。