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イバラの街の英雄達  作者: キョウさん。
第一章:バケツ頭の聖騎士
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一章四話:最新鋭スーツ、奪取☆




『………ッゥフゥーッ』



大きな吐息が漏れる。


それは彼、健作という男がバケツヘルム卿を構成するスーツ、センチネルの中で漏らしたものであったから誰にも聞こえない。だが一転して彼をとりまく雰囲気が、どこか重厚なものであると感心する者の目が刺さるに至っていた。


場所はヒノデモータース株式会社、海上埋立地の大きなドーム。

その横におさまるこれまた大きな海浜公園。


今日その場所は喧騒がとりまく場所となっていた。ステージが建てられ出店が並び、あちらこちらにブースがある―――― いわゆる”企業イベント”である。ヒノデモータース株式会社、新商品紹介を兼ねたお祭りイベント、それがこの場所で行われていた。


『ッフゥーッ……』

「見ろよ卿の姿を……」

「ああ、プレッシャーを微塵も感じねえ」

「あれでこそヒーローの鑑だな」


ステージの奥に立ち、これから始まる”ヒーローショー”への準備として前座の演説を聞いていたバケツヘルム卿の雰囲気は、ステージの下の観客席から見ても納得の行くものだっただろう。ヒーローとしての貫禄――――― 実際には、すさまじいプレッシャーが彼を包んでいたのだが。


『絶対失敗できない…絶対失敗しない……』


彼がプレッシャーに包まれていた理由、それはひとつ。

警護を兼ねて実在のヒーローの存在感を示すために、彼が行うヒーローショーの”相方役”のヒーローが――― 彼の大好きな”特皇Gカイザー”であったからだ。実在のヒーローでないにしろ、彼にとってのあこがれは天の上の人に等しく、いうなれば”推し”である。

推しと同じ舞台に立ち皆の喝采を浴びることなど想像もしていなかったろう。


彼は自分の仕事の積み重ねと――――


「――――それでは皆様、老人のお話も飽きるでしょう!

 次はおまちかね!我が社の技術の粋を尽くした新作タイアップ!

 ヒーローショーとしての流れでご紹介いたしますゆえご期待ください!


 ……がんばりな、健作君」


小声で彼にだけ聞こえるようにつぶやき、最後に壇上を去るリチャード・ウォン社長。

彼の粋な計らいに内心で健作は喝采を浴びせつつ、共に観衆に手を振ることだろう。


いつまで経っても少年は少年なのだ、そして、さて。



司会のおねえさんの案内に従って、ちびっこ達が集まりだす……。



――――――――――――◇



「……よっ」


楽屋裏、小さなテント。

そこで”タイアップ新製品”の調整をしていたスタッフは、声をかけられて振り返ることだろう。

はて、見知らぬ……いや、見知った顔だ、だからここにいた。


「あれ?あなたは……アクターさんは別の方だって」

「急用でこれなくなっちまったみたいでな、ちょっと”サプライズ”も兼ねて俺を呼んだのさ」

「えっ……マジです?ああいえ、本当ですか!?うわっ、これはすごいことになるぞ…」

「調整終わってるだろ?時間も押してるから使わせてもらうぜ、サンキューな」

「ええ、ええと……登録認証だけ…こうして……」


鋼鉄とポリマーと、フレームのきしみ動く音がする。

それは紅く染め上げられ、この場所で働き出す。


「……オッケーです、いや、まさか来てくれるとは…」

「もともと演じてたんだ、これくらいなんてことないさ」

「ええ、ありがとうございます、あとでサインくださいよ―――――」




そう、彼は…


「―――――不動 恒正さん」



――――――――――――◇



どれだけこの瞬間を待ったことか。

どれだけ焦がれたことだろうか。


ああ…、と。


『ええい!怪人シーフードサムライ!!このバケツヘルムの力と互角とは…!!』

「カーニエビイカ!!!歩く鋼も聞くに及ばず!このイカハサミのワサビにしてくれるわ!」

『ふんっ!だがこのバケツヘルムがひとりだけだと思うなよ!』

「イカッ!?」


演技は演技である、現役ヒーローだからこそそれには力を入れねばならない。

実際の血なまぐさい場所が中継されることもあるが、それでも、この場所に憧れをもって来てくれる多くの人々には”理想のヒーロー”を見せねばならない。本業ではなかったがそれでも、バケツヘルムとそれを操る健作という人間は、一片たりとも力を抜くことなどなかった。


『わかっていないようだなシーフードサムライ!!

 このイバラの街にヒーローはひとりじゃない!

 私一人では手の届かない場所にも……


 ……多くのヒーロー達がいるからこそ手が届くのだ!!』

「エビビッ!?」

『さあ!来てくれ我が友にして――――― ”憧れ”!』


そこだけはセリフになかった、だが。

つい、言葉が出てきてしまったと。



『―――――”Gカイザー”!!』


その名前が出た瞬間、うおっと観衆が沸き立つ。

“現役ヒーロー”と”創作の人気ヒーロー”、そのふたつが並び立つことはいつだって興奮するものだ、異種混交、タイアップ、コラボ、そういった限定感のあるものは少年の心をくすぐって離さない。


そうして呼ばれたヒーローが訪れれば、なおさら観衆も沸き立つのだ。


『ハアッ!!』

『えっ!?』


そうして聞こえた声はああ、聴き逃がせまい。


『………それは世を忍ぶ仮の姿…

 正義の鉄拳絶対判決……


 ……その名を”特皇Gカイザー”!!』


紅く、鋭く、響く声。

かつての記憶を呼び起こす凛とした男の声。

どうして忘れようか、男ながらにカッコいいと思った声の持ち主を。



『――――Gカイザー・スーツ、着装!!』

『ふ、不動、恒正、さ……』


いわゆる”ご本人登場”である。

観衆の興奮もマックスとあればそれに他の誰よりも憧れていた逆屋健作という男の興奮も桁違いであることだろう。だがその名前を言いかけ、そしてすんでのところで叫びに変えまい、彼はプロである、今は”バケツヘルム卿”なのだ。


真紅の体躯、バケツヘルムよりもよっぽど”ヒーロー然”とした姿、バイザーとブレードアンテナなんかより、それっぽいことだろう。見るからにコテコテのヒーロー像を具現化したような、と言えばまさにそれらしい。


ならば―――


『見たか!これが我が友!Gカイザー!

 これで形勢は逆転したな!!』

「カ、カニーッ!」

『………』


共に並び立つ。憧れとともに。

この日をどれだけ待ち望んだことだろう。


ふとちらりと見てみれば、ああ、なるほど。”Gカイザー”は細部のデザインがだいぶ異なっていてそれは”現代風アレンジ”とも言えるものに仕上がっていた。というよりか、サーボモーター、アクチュエータ、諸々の部品の配置から見るにこれは、”パワードスーツ”だ。

なるほどヒノデモータース社がタイアップして技術的到達点を示すために作り上げた、一種の”式典用スーツ”なのだと認識した。


挿絵(By みてみん)



先程出てきた時は宙返りを披露してくれたが、だとしたら相当な性能をもったものだろう。重機型フレームをベースとして仕上げたセンチネルとは方向性が大きく異る軽量高機動型である。技術屋としての興味としても、大変にそそられるものだ。


『……』

『さあ行こう、Gカイザー!

 この街に平和をもたらすために!』

『………』


なればこそ、共に演技するのにも熱が入るというものだった。

だった、のだが……。


『……』


はて、黙り、棒立ちになったGカイザーは、何も言うまい。

なぜ?セリフでも忘れたのだろうか?そう思い耳打ちしようとする。


『……あの、不動さん?』

『………』

『なにか調子でも』





『悪い、バケツヘルム――――』


瞬間。


『―――――ッッ!!』


打撃音、金属音。音の出処はバケツヘルムの胸で、同時に”Gカイザーの拳”からでもあった。すなわち――― Gカイザーの拳がバケツヘルムの胸中をとらえ、打撃したということにほかならなかった。


装甲を突き抜けてくるわずかながからの痛みが、彼の装甲の厚さと共にGカイザーによる打撃の重さを示してくる。


何が起こったかに一瞬判断が戸惑った、Gカイザーが…憧れのヒーローが、”不動 恒正”が、自分を殴った。その事実を受け止めるのにかかった時間はわずかだったが、その瞬間でGカイザーは次の行動に移ろうとする。


『リチャードッ!!!』


脚を踏み込み突き進もうとする先は、ステージの脇でショーを眺めていたリチャード社長だ。

その拳を握りしめ踏み出すさまは殺意をにじませており、次の瞬間起こることを十分に予測できた。


……ここにいる青の騎士が、”プロフェッショナル”でさえなければ。


『―――――させるか!!』

『こいつッ!!』

「うわっ! ……ひゃ、ひゃぁ…!」


ハンマーを横薙ぎに振り進路をふさぐように、そしてGカイザーの進む道をそらして回避させる。そのわずかな時間で十分だった。リチャードは自身の身に危機が及ぶことを察するとすぐに逃げの道に入る。


その間に青の騎士が彼の…Gカイザーの前に立ちふさがれば、それは決闘への道筋となることだろう。自分を倒さねば、この先には進めないと、ここには守護者がいて、人々を守っているのだと。


心はまだ理解が及ばずざわついていたが、それでも十分だった。

今ここにいる自分の役割はこれだとだけは、理解できたから。


観衆は状況が飲み込めてないようで、まだ、その姿を見守っている。

ヒーローと、ヒーローが相対するさまを。演出なのか、と迷いながら。


『邪魔をするなよバケツヘルム、もう少しで……殺せたんだ』

『何をしているかわかっているのか!ヒーローショー破りどころじゃない、あなたは…!』

『わかっているさ……だから奪ったんだ、これが欲しかった……』


『……ヒノデモータースが作った最高傑作…

 技術の粋を集めた”技術試験機”…そして俺の…

 ”Gカイザー・スーツ”!!』


瞬間飛び出し、真紅の稲妻がバケツヘルムに蹴りかかる。

ハンマーの柄で受ければ、ガン、とした鈍い衝撃が伝わりそれは、彼の持つパワーが自分に匹敵するレベルなものだと察するに十分だったろう。問題があるとすれば――― ”奴のが疾い”、それに尽きた。


ハンマーを振りつけても、容易にかわされるのだ。


『あなたは自分の残して来たものが誇りだったんじゃないですか!!

 Gカイザーを演じていたあなたは輝いていたはずだ!

 輝いていた自分を捨ててまで殺人に走る理由なんて!!』

『理由がわからない奴は好き勝手言うものさッ!!』

『あなたは!!』


もはや激情をぶつけるのみ。

全力の振りかぶりはまたも、かわされる。


『ああ、いいさ…!お前を倒してからだ、バケツヘルム!!』

『相手になりますよ、不動さん!あんたを倒して捕まえて、聞き出してやる!』

『てあぁッ!!』 

『でえいっ!!』


打ち付ける拳にあわせ、ハンマーで殴りつける。

パワーは同等…だが重量は上。その点において自身のほうが打撃力は上であると察したバケツヘルムは活路が見えてきたことを感じるだろう、パワーが同等、スピードは上、回避力の差は歴然。


向かい合う相手に、どう突破口をねじ込むか。

いつだって、そうしてきた。


打ち込まれ続け、今は、耐えると。


『……あなたの出ていた作品が大好きでした』

『そうか』

『特皇Gカイザーが大好きなのは、変わりません』

『よかった』

『……でも!!』


瞬間、Gカイザーが飛び上がる。

それにあわせるように――― バケツヘルムもまた、迎え撃つ姿勢をとるのだ。

“これを待っていた”とばかりに応えるように。


『……”子どもたちの夢”だったヒーローを!!

 Gカイザーを!!それを今壊して穢した!!

 そのあなたを!!許さない!!』

『そうかよッ―――― ”カイザー・キック”!!』

『“ハンマー・ランペイジ”!!』


背面からバーニアを吹かし、一撃必殺のキックを放つGカイザー。応えるは下段に構えたハンマーを打ち上げて殴り抜けるバケツヘルム。これまさに”必殺技”といった応酬が交錯するさまは、ようやく避難誘導がはじまった観衆の避難を遅れさせる程度に、目を釘付けにするに十分だった。


……衝撃が、音と波動をもって飛び散る。


『―――――私は……僕は…』

『何を…』

『夢を守る、ヒーローなんだ!!』

『ッ――――』


重量と衝撃の鍔迫り合いに勝ったのはバケツヘルムであり、Gカイザーが跳ね飛ばされる。

宙で転回し着地するさまからはダメージが少量であることが物語られているが、わずかながら、脚部への不調を訴える火花が散ることがこの勝負の、バケツヘルム卿の勝利を物語るに十分であった。


『……これ以上は深追いか、くそったれめ』

『逃げるなんて、言いませんよね?』

『悪いがここはそれが最善手だ……あんたがリチャードのお守りだってんなら、また会うことにはなるだろうよ』

『逃げられるとでも?逃がすとでも?』

『逃げるさ、俺のが疾い――― バケツヘルム卿、だったな』


瞬間、ステージを蹴って天井まで飛び上がり、更に天井を蹴って駆ける。そのままGカイザーは一気に走り抜け、警備の人間やバケツヘルムたちの目もくれないほどの加速力、まさしく人間の出せる速度じゃない加速力をもって、跳ぶだろう。


『お前はいい好敵手になれそうだ、またな!』

『待て!なあ! ……ああっ!』


そのまま宙返り、そして海に通づるコンクリートの岸壁から飛び降りると、そのまま波の音と共にどこかへと消えていく。急いでその姿を追おうにも、ああ、いったいどこへ行ったのか……その姿、捉えるに難し。


昼間の海のなかに、その姿消えし。


……状況、終了である。

ハンマーを背中にマウントし、闘いの終わりを告げる。

観衆達はその姿に喝采を送るが、彼の胸中は複雑だった。



『………どうしてなんだよ、不動さん……』


今なお敬称をつけて呼びたくなる、それほどの憧れ。

それが敵として未来立ちふさがることを想うと、奥歯を噛みしめる想いに転じた。

今この瞬間……バケツヘルム卿と、逆屋健作。


その名が大きく知られ、そして立ちはだかる大きな敵が増え。

この街が揺れ動く、その英雄譚の門をくぐったのである。



人生、何があるかわからない。

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