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イバラの街の英雄達  作者: キョウさん。
第一章:バケツ頭の聖騎士
1/13

プロローグ☆

(´・ω・`)数年ぶりにもどってまいりました


大本はとある定期更新型ゲームで自キャラが辿った物語で、そちらを他のPCなどがいなかったら、あるいは大本のゲームのストーリーが存在しなかったら、といったIF世界観でオリジナルテイストを込み込みにして書き直したものになります。

いままでのジャンルと違いヒーローものになります。どうぞ…。




――――――――この街には、ヒーローがいる。






「……チェック、よし」



この街が”イバラの街”と呼ばれるようになってから、どれだけの時間が経ったのか、それはわからない。


今は現代で、ここは日本という国。電気屋にはスマートフォンが売られていて、パソコンの価格が日々上がったり、下がったり。うらぶれたサラリーマンが夜を歩き、華やかな街道の脇道にはすりきれたアウトローが目を光らせている。


ひとつ違うことがあるとしたら、この”イバラの街”は海を隔て首都とは離れ、そしてなにより……”異能”があることだった。


「ナットよし、ネジ締めよし、安全確認よし」


それは火を指から出したり、なにもないところからコップに水を注げたり。そんなささやかなものから、果てには派手なものまで幅広く。神が与えたのか、風土として存在するものか、この街に生きる住人はすべからくそれを扱えた。


……この、逆屋 健作もまた、そう。




「システムチェック、完了」


「全機能正常、各部アクチュエータ、

 動作レベル問題なし…全パーツオートフィット」


「操作権限は、”逆屋健作”」


金属の音がする、鋼が擦れる、音がする。



「――――――火災現場より中継、火の勢いが酷く、救助は難航…」



……ラジオが、誰かの助ける声を、音を。

今日も一日、その耳に届けるのだ。



『“センチネル”……いや』




挿絵(By みてみん)



『“センチネルⅡ”起動、ヒーローが今、行くから……!』



バケツ頭の聖騎士、そう呼ばれる、この街のヒーローで良心。

これは彼が、この場所で歩み進んでいく物語。







――――――――――◇







人の集まるところに、人は集まる。


このイバラの街、平方200キロ、人によっては”埼玉県よりは小さい”で通じるところだろうか。その北に、その場所は位置した……”ヒノデ区”、と呼ばれる埋立地オフィス街、通勤者が今日も往来する活気ある場所。


しかし今日の往来は、少しばかり熱気が過ぎたと言えばそうだろう。


それは比喩や揶揄ではない、ビルから立ち上る火の手によって物理的にアツさが立ち上っていたのだ。この日の出の街において今日、ひとつの事件が発生し、そしてそれは街に燃え盛っていた。

上空と地上から、カメラが向けられることだろう。


「現在七時十二分、こちらヒノデ区オフィス街では”異能者”による火災が発生しており現在、消防による消火活動と救助が続けられておりますが―――― ああっ!犯人が現れました!!雑居ビル三階の窓から……ああっ!」


「みんな死ねっ……皆死ねっ…!!みんなみんな、灼けちまえっ…!お前もっ!!」

「危ないからマスメディアの方は避難してください!!」


それは、祝福。


神が与えたという者もいるし、この街で産まれた者に対する大地の祝福。

そう言う者もいる、すべからくこの地で産まれ、そして”ここに生きる”限り与えられる能力、超常の術、それが異能。どんな者にも等しくひとつ与えられ、それは多くの場合、人のために役立てられることになるだろう。


……だが、すべてじゃない。


「仕事もねェ!!この異能じゃ役に立たねえ!!どこも雇って……

 くそッ!いいご身分の奴ら、みんな死んじまえっ!!」


“燃え盛る男”とそれを表現すればそれ以外に言葉はいらないだろう。雑居ビルの三階から火の粉をばら撒き周囲の消防班を威嚇しているのは、そういった力を持つ異能者だった……すべての者に、等しく、”使える”ものが与えられるわけじゃない。産まれ持ち、一生与えられるギフトは時に、人を呪い、獣に変えてしまうこともある。


街に存在する”悪”。

異能犯罪者と呼ばれるそれは、ときおり、街を悩ませる。

なにせ、異能者には――― 異能者のみが、戦える。


それがこの街のルール。


「取り残されているのは!?」

「あとひとり、掃除夫の方がいるって……」

「凍結の異能者はまだか!水なんか掛ける前に蒸発してるぞッ!!」

「非番でしたのであと8分ほどかかるとのことです!」


誰しも何かを力を持っている、だが純然たる力に対抗できるのは、ひとにぎり。

明確な悪意が街に現れた時、戦えるのは、戦わねばならないのは、ひとにぎり。


ゆえに―――――――




『――――私が』


そう、言葉が投げかけられる。

カメラが一斉に、向く。



『少しだけ、役に立たせてもらおうか』

「―――――あなたは」


金属の音がする、地面を踏み鳴らす音がする。マントをなびかせ、歩く音がする。

それはひとりの、大男、街の人垣を乗り越え訪れたのは、ひとりの鉄塊の、大鎧。


グレーじみた青の鎧、中世の聖騎士を思わせる意匠。

各部にスポンサーマークを携え、輝かせ。

排気と駆動の音がその場所に、幾度と鳴り響く。


だがなにより特徴的なのは―――― ”バケツ頭”だ。

現代に似合わない鎧、いや…これは、”パワー・アーマースーツ”。


『私は……』





『この街のフリー・ヒーロー、ヒノデの街に生きる者。

 人は私を……”バケツ頭の聖騎士”と呼んでいる』


『……ああ、私は…』





挿絵(By みてみん)



『――――”センチネル・バケツヘルム卿”である!!』


言い、飛び込み、それは業火の滾るコンクリートの籠の中。

ためらわず、臆せず、現れたヒーローという存在は飛び込んでいく。


そうだ、この街に悪意があるように、どうしようもない力が跋扈しているように、それが悪の矛先として使われてしまうように。その正反対を向き続ける者もまた、存在するのだ。それが彼ら”ヒーロー”、英雄たる者にして善の矛先、良心の化身にして街を護る盾として君臨する者。


彼らはその火の粉など、いくら束になっても恐れまい。



階段を駆け上がり、燃え盛るその中、機外1200℃。

扉を蹴破り現れれば、そこは既に事件現場。


「お前は―――――」

『聞けぃっ!!』


ばっ、と手を振り、バケツヘルム卿は異能犯罪者と対面する。威圧があり、よく通り、でも若干演技がかっていて、機械を通したような、そんな声。それでかの者にその言葉を、勢いよくぶつけてやるのだ。


この街の――――


『私はヒーロー、センチネル・バケツヘルム!!さあ、大人しく火を止めろ!

 さもなければ私から、神を代弁するがごとき鉄槌が下ることだろう!!

 人生とはさも短い!今からでも自らの良心に従い善に尽くすのも―――』

「今更やめろってか!?ヒーローを……くそっ、今更できるか!

 ヒーローだかなんだか知らんが焼き払ってやるッ!!」

『おっと』


あたかも武器としての火炎放射のごとき放射が、バケツヘルム卿を襲う。視界は真っ赤で、温度は空間を歪ませ、何ももはや見えることなく。それがひとしきり続いたのち、業火の異能犯罪者はその火を止め――― しかし、見えたのは…。


『正々堂々正面から!私としては評価しよう!だが!』

「キズひとつすら、かッ、よッ」

『――――相手が、悪かったな!!さあ、おしおきだ!!』


その身に傷一つ、やけどひとつなく、目の前まで炎を乗り越えてきた、”バケツ頭の聖騎士”。赤き炎が照らす鎧もまた、煌々しく、そしてその手に握るは一本の戦鎚であった。よりカジュアルに言うなら”ハンマー”が相応しいそれが、その身長2メートルも超える大男の手に握られていたのである。


『一発は……』


勢いよく、中段に振りかぶられ―――

それはその異能犯罪者の土手っ腹に、命中。


……壁にまで激突させれば、もはや決着。意識の飛んだ異能犯罪者が残るだけだろう、白目を剥き、泡まで吹きかけている。やりすぎたか、と思うのはバケツ頭の聖騎士であったが、しかし、今はその場合でもなかった。


『一発だ!これで”おあいこ”だな、君!!

 ……さて、こうしてもいられまい、さて…』


がっしゃん、がっしゃんと、金属音を響かせまだ燃える炎の中を突き破り、辺りを探せばああ、いるではないかと。逃げ遅れた掃除夫を探せば、ああ、触れようとして触れるのをためらうのだ、あれだけ燃えたあとならば、自分は今とってもアツい。


『……これで”あったかい”くらいにはなるか…?』


近くで燃えずに残っていた、きっと仮眠用なのだろう、毛布をシートにし掃除夫を抱きかかえ、そして異能犯罪者もまたもう片方の肩に載せればさて――― ああ、我慢してくれよ、と。退路の断たれた後ろの業火を見ながら、一歩、二歩。


雑居ビルとはいえ、三階から飛び降り――― そして、地面にヒビを入れながら、着地するのだ。抱えている二人から痛みに悶えた声が響いたがしかし、それでもなお、バケツ頭の聖騎士は無傷として君臨していた。


パワー・アーマースーツ。確かなその性能、ヒーロー、センチネル・バケツヘルム。

ヒーロー……”四年目”の男。手慣れたように、既に集まっていた消防と警察へとふたりを渡すと、マントを翻す。さすれば――― そこに残るのは、喝采の声である、野次馬から、立ち向かった人々まで。


その誰よりも最前線へと立ち向かった聖騎士を見て、去ろうとするその背中へと多くの歓声が投げかけられていく。ヒーローの特権であり、立ち向かった者の権利であり。そうして今日も街ではひとつの事件が終わり、終息する。


これが街の日常、今描かれたのはその、ひとつのページ。



寄るマスメディアのマイクに振り向き、カメラへと目を向けて。バケツ頭の聖騎士、センチネル・バケツヘルムはポーズを決めることだろう。グレーじみた青の鎧、輝くスポンサーマーク、そそり立つバケツ頭、その姿はこの島すべての人々に、勇姿として刻みつけられる。



そう――――


「……バケツヘルム卿!何かひとこと!」

『そろそろ寒くなる、皆も火の元には用心しろよ!

 あと通販はパマゾン株式会社をどうぞよろしく!』




―――――この街には現実に生きる、ヒーローがいる。


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