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第1話「義妹」

私の父、デルモス・プレスコット子爵はこの日、家族をダイニングに集め頭を抱えていました。


「ハンナに見合い話が2件届いた」


「あらまぁ、さすがはハンナ。自慢の娘ですから見合い話がたくさんくるのは当然のことですわ」


「あらやだお母様」


「むしろ2件なんて少ないくらい。あなた、本当はかくしていらっしゃらない?

ハンナをお嫁に出したくないからって」


「そんなわけあるか」


「ところで、どうしてここにラーナさんがいるのですか?」


継母であるイザベラ・プレスコット子爵夫人はきつい目をして私を見ます。


「私が呼んだの」


そういって腹違いの妹、ハンナ・プレスコットが自慢げな顔を私に顔を向けてきます。


「⋯⋯(またはじまりました)」


そう思いつつ私は静かに紅茶をすすって継母と妹の憎まれ口を聞き流す毎日。


ハンナが私をここに呼んだ理由はもちろん見せつけたいから。


妹はいつもそう。


歌にダンスにピアノ、絵画と私がはじめたことはかならずやりたがる。


そしてそのすべてを私よりも上手にこなしては手習の先生たちに天才だと褒め称えられる。


ハンナはよくわかっているのです。


ハンナが私より優れているところを見せるとお母様がとても喜ぶことを。

そしてハンナはさいごに得意げな顔をして私を見下ろす。


お母様もお母様で⋯⋯


『ラーナさんはなかなか上達しなくて手習の先生方も手を焼いていたわ』


と、決まってお父様に吹き込む。


『なんという残念な娘だ』


『ハンナができすぎるのよ』


ひどい言われよう。


がんばってはいるのですが褒めてくれる方もいらっしゃらないので習い事はなかなか続きません。

いつしか私のたしなみは読書だけになりました。

これならハンナとも比較されません。

それでも自分の性に合っていたのかダンスは楽しいので続けています。


ときおりお母様が生きていたら褒めてくれたのかしらと考えてしまうことがあります。


だけどそれだと心が挫けてしまうので考えないようにしています。


継母のイザベラ様がハンナを産んでからはこの家に私の居場所なんてありません。


「ハンナは見た目も美しいから見合い話がいっぱい来ても仕方ないわねぇ」


たしかにハンナは姉の私から見ても美しいと思う。


イザベラ様譲りの紺碧の瞳を輝かせ、金色の長い髪をなびかせながら優雅に踊るダンス。

ハンナのキラキラとしたその姿に観ている人たちは魅了され、ときおりみせる彼女の微笑みは

世の殿方の心を掴んで離しません。


彼女のキラキラは私も羨ましく憧れてしまいます。


だけど栗色の私の髪の毛じゃ⋯⋯


「それにしてもラーナさんはなんというか地味ね」


「その三つ編みのせいじゃないの?」


これは私なりのおしゃれのつもり⋯⋯


「⋯⋯」


家族と顔を合わせると傷つくことしかいわれないので基本は目を合わせず口をつぐんでいます。

そのせいか使用人たちにも”地味なお方“と呼ばれるようになりました。


「服もそうよね。子爵令嬢なのにその村娘のような格好。笑っちゃう」


「楽なのでつい⋯⋯」


「ラーナさん、子爵家の品位を問われます」


「申し訳ございません。お母様⋯⋯」


「ラーナのことはもうよいじゃないか。本題に入ろう」


「そうでしたわね」


「ひとつはグランドール男爵家の長男。もうひとつはディーカー伯爵家の次男だ。

ディーカー家の次男は養子に来てもいいと言っている」


「だったらあなた、何を悩む必要があるのですか。伯爵家の次男で決まりでいいじゃない」


「そうなんだがなぁ。グランドール家の申し入れを無碍にする(断る)わけにもいかない⋯⋯」


「お断りすればよろしいじゃない」


「お母様の言う通りです」


「いや、それだとグランドール家に申し訳が立たん」


「何を男爵家なんかに遠慮する必要があるのですか?しかもグランドール家って言ったらたしか貧乏男爵家!」


「たしかにそうなんだが⋯⋯」


「だったらそんなところに大事な娘を嫁がせたくありません」


「そうです。わたくしも嫁ぎたくありません」


「気持ちはわかるがグランドール家の昔からの付き合いを大事にしたいし、伯爵家とも縁を結びたい。

俺は両家とも良好な関係を保ちたいんだ」


「お父様のお気持ちもわかりますが、殿方の情報ももう少しほしいですわ」


「男爵家の長男は、顔は整っていて」


「それで?」


「昨年先代が亡くなられて24歳の若さで家督を継いだそうだ」


「あら、ご立派なお方」


「だけどなぁ⋯⋯大層なうつけと評判で自分の部屋に女だろうが男だろうが連れ込んでは

いかがわしいことをしているといううわさだ」


「は? お断りですわ。そんなお方⋯⋯」


「あなた、伯爵家の次男は? 何かないのですか?」


「鷹狩りが好きなようだ。体もたくましくて。さわやかな青年だそうだ」


「あらいいじゃない」


「次男殿が婿に入れば我がプレスコット家も伯爵家の扱いになる」


「本当ですか⁉︎」


「わたくしが伯爵夫人⋯⋯」


「決まりじゃないですかあなた!」


「ただな、困ったことに俺の隠居が条件なんだよ。俺が表に出てこないと困る領民も多い」


「あら、たいしたことないじゃない」


「それはないだろぉ、イザベラ」


「お父様が迷われている理由がわかりましたわ」


「ダメだ! グランドール家とディーカー家、やはり両方大事にしたい」


「あなた!」


「お父様!」


『⁉︎』


このときハンナが閃いたような表情をして私の顔を見ました。


「そうだわ。グランドール家にはお姉様に嫁いでもらいましょう」


「なるほど! さすがはハンナ!すばらしいアイディアですわね」


「ねぇお姉様。何の取り柄もないお姉様でもお家のために役立てることがあってよかったですわね」


「そうよ。ラーナさんはどうなの」


「私は⋯⋯」


正直言ってこわい⋯⋯そんなうつけの殿方なんて。


「できれば行きたくはありません⋯⋯」


「はぁ? お姉様何をおっしゃっているの?」


「ラーナ。ハンナと比べて見劣りするお前が嫁に行けるんだぞ。譲ってくれたハンナに感謝して

贅沢言わず行くんだ。少しは家の役に立て」


そうでした。この家には私の居場所なんてなかったのでした。


3人ともやっかい払いできてなんとうれしそうな表情。


よく考えたらこの家より悪いところなんてないわ。


「わかりました。ちょうど本も読み終わりましたので男爵様のところに嫁がせていただきます」


「それでいい」


両親と妹は笑顔で私に拍手を送ります。


思えばこれが家族から向けられたはじめての笑顔⋯⋯


つづく

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