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ロイヤルスター

 カルトスが王宮書庫で本を読んでいるとレグルスが現れた。

「うわあ、まじめ」

「私の本来の能力は動物への変幻や動物との会話なの」

「うん」

「ポルクスとの連携は双子だからなのか、人も動物だからなのかはわからないけど、月経の時には力をが使えなかったし、そもそも北部にいる私と中央にいるポルクスでは、距離がありすぎて、力が使えないかもしれないでしょ?」

「だから?」

 レグルスは話が読めないと言わんばかりに結論を急ぐ。カルトスはイライラしながら、本から顔を上げる。

「だから、勉強しないといけないでしょ!」


 レグルスは面白そうにクスクス笑って、伸びをした。

「僕は星宿の子の能力は全部使えるから、気にしすぎだよ」

 カルトスはキョトンとした表情で、レグルスを見る。

「わからなくていいけどね」

 レグルスはカルトスの見ている本に目を落とすと、異国の文字で書かれており、興味津々と言わんばかりに覗きこむ。


「この本………滑車の本だよね?」

「リゲルが通したトンネルと地下道の使い道を考えたの。人が歩くなら断然地下道のほうが暖かいけれど、真っ暗なのが欠点。トンネルは陽の光が入るから、寒いけれど安全に通れる。

例えば、地下道に灯を点々とともして、馬車をここにひいたら、物品の運搬は楽にならないかな、とか、地下道の使い道として滑車や荷台を、運べないかなと思ったの」


(外国語を読み、その発想があるだけでも充分知識があるのだが、この娘は不安なのだな)


「私も力を貸すよ。私はこの国の官吏だし、君を助ける盾となるから」

 カルトスはニコリと笑って、本に視線を落とす。

「この国を発展させるには北部を豊かにすることだから頑張りましょう」

 少女の言葉にレグルスは胸がくすぐられるような気持ちになった。


(このようなものがいるというだけで、国は発展する。冬の時期を除いても北部と中央の交通は発展している、とはいいがたい。交通が豊かになれば、経済も回る。経済が回れば、国が豊かになる。それをこの年齢で考えられるとは。『アルデバランの王』はつくづく幸せ者だな)


「私も学ばねばなるまいな。カルトスに負けてはいられない。この国の官吏だからな」

 レグルスはふふふ、と笑うと本棚へと歩いた。


(二回目だ…言いたいだけなのかしら)


 カルトスは和やかな面持ちで、フッと鼻で笑うと、本を読み進める。


☆彡☆彡☆彡


 リゲルが家に帰るとアルデバランが母リアンとくつろいでいた。あきれ顔でアルデバランを見ると、リゲルは持っていた皮の鞄を床に置き、椅子に座った。

「何をしているのですか?」

「おかえりなさい。レースを編んでいました」


 アルデバランは子供のように編んでいたレースをリゲルに見せると、リアンは楽しそうに頬に手を充てて微笑んだ。


「アルデバラン君は、とても物覚えが良いみたいで、すぐここまでいったのよー」

 リアンの言葉に誇らしげにドヤ顔をみせるアルデバランをリゲルは冷ややかな視線をむける。


「あ、ご飯の支度をするわね」

 リアンが、パタパタと慌てて台所にむかったので、リゲルは自慢のレースにうっとりしているアルデバランに小声で尋ねる。


「何も母と楽しくレースを編むなとは言いません。それで、本題はどうでした?」

 アルデバランは、リゲルの一言で察したのか、レースを卓に置くと、周囲に散らばっている糸屑を拾いながら応える。

「昼間は特におかしな気配は感じませんでしたよ。今もですが」


 リゲルは椅子から立ち上がり「引き続きよろしくお願いします」と言ってリアンのいる台所へと向った。


 アルデバランはリゲルを引き止めようと手を前方へ差し出したが、リゲルが母リアンのため火おこしに向かったことに気がつき、呼び止めるのを諦め、差し出した指先を丸め柔らかな拳をつくり、膝の上に置いた。


 リゲルは母が苦戦している火おこしの姿を見ると、母に下がるように伝え、自身が竈門の前に腰を下ろす。

 リゲルが竈門の前で指を鳴らすと、途端に火が起こった。火を眺めながら、火力を調整し終わると立ち上がり、リゲルは母リアンに笑いかける。

「湯の準備もして参ります」


 リゲルは湯殿の火を起こすために外へ出ると、空には満天の星が広がっていた。


 リゲルは空を見上げながら、何故誰もリアンを襲いに来ないのか疑問が湧いていた。

 リゲルの成人の儀からおよそひと月が経ったが、リゲルやリアンを襲ってくる者は今まで一人もいなかった。


 いくら王帝が護衛を雇っているとは言っても今まで目の上の瘤であったカイルがいなくなり、リゲルを亡き者にすればミリアに玉座が回ってくるが、ミリアからの刺客は一切ない。

 それにララは昔から長兄である王帝シリウスを恋慕の如く溺愛しているあまり、シリウスが目をかけているリゲルにことごとく陰湿なイジメを繰り返してきたのだが、今回に至ってはそれがまるで無い。

 ミリアとララを焚きつけて、リゲルを襲わせ、リゲルが死ねばミリアとララを簒奪者だと罵れば当然サマンサに利益が生まれるのだが、そうする流れも動きも不自然なほど全くない。


 この好機を逃してリゲルを殺さないのは、リゲルの知っている姉妹ではない。


(おかしい………)


 仮にリゲルが星宿の子であることに感づいたとしてもリアンを襲いにくるとは思っていた。

 確かにリアンの側にはリゲルの友人と名乗る変な男が居候しているが、この男は常にリアンと行動を共にしているため、不義密通をしている、と噂を流し、リゲルの王族の正当性を疑うような動きを持っていくことも可能だ。

 

 不穏な動きが全くない、というのがリゲルには不思議でならない。


(まさか、アルデバランがロイヤルスターと気づいているのか)


 その考えは他の姉妹にはロイヤルスターの存在を知ることができる者、つまり、星宿の子またはロイヤルスターがいる、もしくはその存在を見聞きした者がいるということだ。


 星宿の子はそうそう出てくる者ではない。ましてやロイヤルスターはそれよりも少ない。

 だが、星宿の子や他のロイヤルスターからその存在を知ることができるだろう。

 ロイヤルスターに至っては、かつてその存在を見たことがある、もしくは聞いたことがある者は星宿の子やロイヤルスターの数の比ではないほど多いだろう。

 何らかの方法で知ることはできる。


(厄介だな)


 ロイヤルスターとは一精霊のような存在である。

 この大陸が生まれたおよそ六千年前から存在すると言われており、彼らには星宿りの子が持つとされる不思議な力をすべて宿している人外の生物である。自身が仕えるにたると判断した王が現れた時に、その王を補佐する盾となる者である。

 東をすべる者であるアルデバラン、北をすべるレグルス、西をすべるアンタレス、南をすべるフォーマルハウト。

 彼らは人ではない。故にその容姿は六千年もの間変わらない。そして、ロイヤルスターは自身が仕えるにたると判断した王に支えるため、ロイヤルスター全員が同じ王を選ぶとも限らない。


 六千年容姿が変わらないということは、絵画や書物でその存在が記録されている可能性もある。姉妹たちの生母の家に伝承されている可能性もある。または姉妹たちの生母の実家にすでにロイヤルスターがいるのかもしれない。


 現にアルデバランはリゲルのことを『王』と認めているが、レグルスは認めていない。


 アルデバランとレグルスは仲がいいのか、それともアルデバランの性格なのかはわからないが、アルデバランはレグルスに自分の決めた『王』の存在を連絡した。

 それに興味を持ったレグルスは龍王国に現れ、そこで出会ったカルトスをやけに気に入っている。

 何が目的があってのことなのかは不明だが、レグルスはカルトスという星宿の子を気に入り、自身がロイヤルスターであることを告知した。現時点ではレグルスは敵でも味方でもないが、龍王国に留まり、何故かカルトスと行動を共にしている。


 もしかしたらレグルスの『王』はカルトスなのかもしれないし違うのかもしれない。それはリゲルにはわからない。

 レグルスの『王』を揺るがす存在がリゲルまたはカルトスなのかもしれない。

 ただの純粋な興味だけなのか、牽制が目的なのかも不明だ。


 だからこそ、カルトスと共にするレグルスの存在が油断ならない。

 

 リゲルは湯殿の火を炊いた後、家屋に戻る。

 春とはいえ、夜の空気は冷たく、身体がすっかり冷えてしまった。


 今は複雑なことを考えるより、風呂に入り、空腹を満たすこととしよう。身体の汚れを落とし、腹が満たされれば、きっとこの憂いの大半は考えすぎだと思えるものかもしれないし、解決策がたやすく見つかるかもしれないのだから。


 風呂に入ろう、リゲルは家屋に入ると、湯殿で服を脱ぐ。

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